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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
176/911

176.新しい使用人①

 お屋敷に戻って少しすると、ピエールさんと会う約束の時間になった。

 今日は残りの使用人――庭仕事や警備をする人の確保の件と、裏庭のテーブルセットの件だ。


「――おお、アイナ様! ご機嫌麗しゅうゴザイマス。

 本日は何卒よろしくお願いイタシマス」


「こんにちは、こちらこそよろしくお願いします」


 ピエールさんとは客室で会うことにした。

 まずは簡単に挨拶してから、近況などを話す。


「こちらのお屋敷はいかがデスカナ?」


「はい、とても素敵なお屋敷で何も不満はありませんよ。

 工房と店舗はまだあまり使っていないんですけど、そちらは何かあったら相談させてください」


「もちろんデストモ、お気軽にご用命クダサイ。

 ピエール商会はアフターサービスまで万端デスので!」


 調子の良い感じで言うピエールさん。

 確かに頼りになるよね。……とは言え、少しは気になることもあるわけで。


「――あの、メイドさんのことなんですが」


「むむ? 何か粗相がありマシタカナ?」


「ああ、いえいえ! 皆さん頑張って仕事をしてもらってますよ!」


「そうデスカ、それは一安心デス。

 実力、性格ともに申し分ない者たちを集めマシタので!」


 ピエールさんは自信満々に言う。

 ミュリエルさんのメシマズみたいに、実力が申し分なく無いところもあるんだけど――ここは総合力で、という意味なのだろう。

 何から何までをすべて完璧にできる人なんて、そうそういるわけが無いからね。


 それよりも私が気になったのは――


「……前に働いていたところで、ずいぶん酷い目に遭っていた方もいるようなのですが」


「そうでゴザイマスナ。

 ……もうそんなところまでご存知なのデスカ。ふむふむ、さすがでゴザイマス」


「知っていたんですね?」


「もちろんでゴザイマス。

 とは言え、深入りしなければ実力ある者たちデス。雇用費との兼ね合いもありマスガ、このお屋敷にはベストな選択だと思ってオリマス」


 ……むむ、何と言うビジネスライク。


 いやでも、ピエールさんの言うことももっともなのかな……?

 私が気になったのは『酷い目に遭ったメイドさんを何でうちに入れたのか』ではなくて、『何で先に教えてくれなかったのか』でもなくて、『どこで酷い目にあったのか』なのだ。


「――彼女たちが前にいたお屋敷、どこだかを教えてもらうことはできますか?」


「申し訳ありマセンが、私からお教えすることはデキマセン。

 本人たちから聞くことはお止めいたしマセンが――守秘義務がありマスので、次の仕事斡旋の際に不利になる場合がゴザイマス」


「守秘義務……なんて、あるんですね」


「もちろん無い場合もありマスが、彼女たちは相応のところに仕えておりマシタので。

 どこまで守秘義務を課すかについては、アイナ様も雇用を止めるときにお選び頂くことができマスヨ」


 その分お金が必要になるけれど――

 何となく、そんな空気は察することができた。


 それにしても次の仕事を盾に口を塞ぐだなんてね……。

 確かに他のところでバラされたくないことなんていくらでもあるだろうけど、それにしても人を傷付けたことを闇に葬るのは何かが違う。


 しかし本人たちから教えてくれるならまだしも、無理やり聞くわけにはいかないか。

 一生面倒を見るのなら別だろうけど、そもそも私自身が今後どうなっていくのかも分からないのだし。


 ……でも正直、知ってはおきたいんだよなぁ。

 錬金術の仕事があってもそういう人からは受けたくないし、そういう人には報いを受けて欲しいという思いもある。

 正義を気取っているというか――……いや、何だろう。多少は気取っているのだろうか。私だってそんなに完璧な人間というわけでも無いのだから。


 ……まぁ、ここはジェラードに頼んでみることにしようかな。

 ジェラードならすぐに調べてくれるだろう。



「――ひとまず分かりました。

 何かあれば相談させて頂きますね」


「はい、お気軽にお申し付けクダサイ。

 さてさて、まずはテーブルセットのお話をしてしまいマショウ!」


 そう言いながら、ピエールさんは鞄から紙の束を出した。

 紙にはテーブルセットの絵が描いてある。写真を撮るのも高い世界だし、カタログは絵で作られているのかな。

 それにしても――


「たくさんありますね」


「ピエール商会ではたくさんの家具を取り扱ってゴザイマス。

 このお屋敷の裏庭で使うということデシタので、それを踏まえた私のオススメはこの3つデスナ」


 そう言いながら、ピエールさんはたくさんの紙の中から3枚を取り出した。

 しかし何でそんなにたくさん持ってきたんだろう? 品揃えの豊富さを見せたかったのかな?


 出された紙を見てみると全部良さそうなものだったが、何となく私の好みのものがあったのでそれに即決することにした。


「うーん、それじゃこれでお願いします」


「かしこまりマシタ。こちらデスト、金貨5枚でゴザイマス」


 おお、結構良い値段。

 でもルーシーさんにも似合いそうだし、このテーブルセットでメイドさんたちが寛ぐのを想像すると何か良い感じに思えるな。


「分かりました、それで問題ありません。

 お金はクラリスさんからお願いしますね」


「はい、納品時に頂戴させてイタダキマス。

 それでは次の話に移りマショウ。庭仕事と警備の者は、それぞれ奴隷を考えてオリマス」


「奴隷……ですか。私はまだ馴染みが無くて」


「ほうほう、そうでゴザイマシタカ。

 海の向こうの国では過酷な差別などもゴザイマスが、この国ではそういった階級がある――といった認識で大丈夫デス」


「階級……。なるほど」


「罪に対する罰として奴隷落ちした者もおりマスシ、借金を重ねて奴隷落ちした者もおりマス。

 大きくはこの2つでゴザイマスが、今回ご紹介するのは後者でゴザイマス」


「ふむふむ」


「一応、奴隷紋は付けさせて頂きマスガ、強度は弱めにする予定でゴザイマス。

 ――おっと、一応説明させて頂きマスネ。奴隷紋とは主との契約によって刻む印デス。強度というのは、罰を与える際の威力の強さにナリマス」


「罰を与える……?」


「はい。主の言うことを聞かない場合、任意で魔法の雷のようなものを与えることがデキマス。

 とは言え、理由無く使えば主も罪に問われマスのでご注意クダサイ。アイナ様なら大丈夫かとは思いマスガ」


「うーん、一応の保険みたいな感じなんですね」


「その通りでゴザイマス。

 荒くれ者が奴隷落ちした場合、そういうものが無ければ制御ができマセンので」


 ルールを無視する強い人を従わせようとするなら、それ以上の力が必要になる。

 そう言ったものを奴隷紋と罰で補う――というわけか。


「分かりました。いざというときは、ということで」


「それでデスナ、このあと実際に会って頂くことになりマスが、庭仕事には4人家族を充てたいと考えておりマス」


「え? 家族ですか?」


「はい。母親が病を患わっておりマシテ、その薬代のために借金を重ねた家族なのデス。

 夫婦2人と、小さい兄妹の4人家族でゴザイマス」


「えっと……その、小さい兄妹も働くんですか?」


「もちろんでゴザイマス!

 とは言え、その裁量はお任せイタシマスのでご安心クダサイ」


「……学校は?」


「ふむ? 奴隷の子供は、学校には行きマセンヨ?」


 ああ、そうなんだ。元の世界とはこういうところも違うのか……。

 ……いや、そもそも奴隷を見たことが無いんだけど。


「うーん、大体分かりました。良い人たちなら問題無いかと思います」


「その点は問題無いと思いマス!

 ――さて、次は警備の者デスが、こちらは5人の雇用が望ましいと考えておりマス」


「5人……って、結構多いですね」


「何せ24時間、毎日デスからナ。

 メイドや庭仕事の者よりも多少クセがある者たちデスので、後ほどお選び頂ければと思いマス」


「あ、私が選ぶんですか?

 それじゃルークとエミリアさんも一緒に連れていって大丈夫でしょうか」


「もちろんデストモ。聞けば、今はルークさんが警備をしているとのコト。

 いろいろとご要望もあることデショウ」


「分かりました。えっと、これから会いに行く感じですよね」


「はい。今日は諸々の手続きを行いマシテ、明日からは仕事に入ることができマス」


「早っ!」


「ある程度の準備はして参りマシタので。

 とは言え、気に入らなければ別の者を選定し直しマスので、お気軽にお申し付けクダサイ」


「はぁ、準備が良いですね……」


「お褒め頂きありがとうゴザイマス。

 ピエール商会を今後ともご活用クダサイ!」



 はい! 便利なので活用します!

 ――ちょっと清濁呑み込み過ぎている感じも強いけど、そういったところが素直に頼りに感じられるのかな……?

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