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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
175/911

175.噂の魔法使い

 今日の納品はいつもより件数が少なかったので、ダグラスさんとのやり取りはすぐに終えることができた。

 早々に報酬を受け取って錬金術師ギルドの受付に戻ると、テレーゼさんが他のお客さんの応対をしているところだった。


 ……そういえば、テレーゼさんが仕事してるのって傍からはあまり見たこと無かったかも。

 錬金術師ギルドは冒険者ギルドほど人がいないから、受付には人が並ばないんだよね。


 ――しかしこうして見ていると、案外普通に仕事をしているものだなぁ。

 私のときだけ大声で挨拶されるのは何なんだろうか……、うぅむ。




 依頼の掲示板を見ていたルークと、ちょっとした展示品を見ていたエミリアさんと合流したあと、改めてテレーゼさんに話し掛ける。


「アイナさん! 用事は済みましたか!?」


「はい。テレーゼさんはいかがですか?」


「仕事はひと段落したので大丈夫です!

 もう食堂に行くなら、受付を代わってきてもらいますね!」


「そうですね、それじゃお願いします。私たちは先に食堂に行ってますね」


「分かりました! すぐ行きます!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 テレーゼさんと別れたあと、私たちが錬金術師ギルド内の食堂に行くと――何故かテレーゼさんが席を取っていた。


「――あ、あれ……?」


「アイナさああああんっ! ここです、ここ!!」


「……私たち、テレーゼさんより先に出てきましたよね……?」


「ですよね? もしかして双子……ってわけでもないですよね?」


「いや、不思議なこともあるもので……」


 3人が同じ疑問を抱えながらテレーゼさんのところに行くと、彼女は自信たっぷりに言った。


「ふふふ、驚いているようですね! これが私の特技、瞬間移動です!」


 ほう……。この世界にはそんな特技もあったのか――って、絶対に違うでしょ。

 例の応接室の隠し扉みたいな、近道になる通路があるんじゃないかなぁ……。


 そんなことを考えていると、例の食堂のおばちゃんが現れた。


「あら、今日は賑やかなのね。

 それよりテレーゼちゃん、あの扉はあんまり使わないでくれるかしら。

 あそこを開けると、お野菜を戻すのが面倒なのよ」


「はわわっ、ごめんなさいっ!」


 ……はい、予想通りでした。




 それぞれが昼食を注文したあと、とりとめのない雑談が始まった。

 ルークとエミリアさんは、テレーゼさんとはあまり面識が無いからまずは自己紹介からだ。


 そして頼んだものが全員に運ばれた頃、話題は私のお屋敷の話へと移っていった。


「――それで、アイナさんは工房をもらったんですよね? 噂によると、お店とお屋敷も付いてきたとか!」


「そうなんですよ。お店はまだしも、お屋敷は予想外でしたね」


「いいですね、いいですね! 今度遊びに行っても良いですか!?」


「え……? 別に良いですけど、面白いものはありませんよ?」


「面白いものですか? それでは私がカードゲームでも持っていきましょう!

 こう見えて私、強いんですよ。昔からそういう遊びは得意なんです!」


 カードゲームかー。

 そういえばこっちの世界にきて以来、何かしらのゲームに触れたことは無かったかな。

 そういう遊びも一般常識として覚えていくのも良いかもしれないね。


「それじゃ、来るときには是非持ってきてください。

 そこら辺の人を捕まえてみんなで遊びましょう」


「やったー! ……ところで、そこら辺の人って……?」


「ルークやらエミリアさんやら、あとはうちのメイドさんやら? 今は5人いるんですよ」


「おぉ……。メイドさんもいるんですね。それに、5人も雇ってるなんて凄い!」


「アイナさーん、メイドさんを遊びに巻き込んで大丈夫なんですか?」


 エミリアさんが少し控えめな声で聞いてくる。


「た、たまには良いんじゃないでしょうか……。ほら、接客的な意味で……」


「アイナ様、それはなかなかに珍しいですよ。普通は一線を引くものですので」


「ああ、そうなんだ……? 私もメイドさんを雇うのなんて、初めてだからなぁ……」


 元の世界でメイドさんを雇うだなんてしたら、どれだけ上流階級なんだよ――って話になっちゃうしね。

 いや、今現在の私の立ち位置はそんな感じなんだろうけど。




「――あ。そう言えばアイナさん、例の指輪ってどうなりましたか?」


 話の途中、唐突にテレーゼさんが話題を変えてきた。

 例の指輪っていうのは、テレーゼさんが私のお土産の宝石を入れて作った指輪。アーティファクト錬金をするために私が預かっているものだね。

 そうそう、これの話もしておかなきゃいけなかったんだ。


「ちゃんとできましたよ。できたんですが、少し問題がありまして……」


「お、まさか壊れちゃいましたか? でも大丈夫ですよ!」


「いやいや。ちゃんとできて、壊れてはいなくてですね……むしろ逆に、ちょっと良い結果になって困ったというか――」


「むむむ? どういうことですか?」


 テレーゼさんは不思議そうな顔をする。

 これだけの説明だと、さすがに状況は分からないか。


 ひとまずアイテムボックスからテレーゼさんの指輪を出して、鑑定ウィンドウを宙に出して彼女に見せる。


「えっと、こういう結果になりましてね……」


 ----------------------------------------

 【リング(S+級)】

 手作りの指輪。サファイアがあしらわれている

 ※錬金効果:夢占い

 ※追加効果:体力が1.0%増加する

 ----------------------------------------

 【夢占い】

 睡眠時、正夢を見る可能性が高くなる

 ----------------------------------------


「ああ、アイナさん……。また特別な効果を付けちゃったんですか……」


「こればかりは運ですから!」


 どことなく悟った感じのエミリアさんに、いささか冷静でないツッコミを返す。

 リーゼさんの一件からそこまで時間が経っていないこともあり、何となく特別な効果付きのアクセサリに良い印象を持てないのだ。


「え、えぇ……? アイナさん、特別な効果付きのものって貴重なんですよね……?

 錬金術師ギルドの研修では確か、1万回に1回くらいだって聞いた覚えが……」


 テレーゼさんは指輪とウィンドウを交互に見ながら、目を白黒させている。


「テレーゼさん、大丈夫です。アイナさんの場合は10回に1回くらいはこういうものが付くので」


「え? エミリアさん、またまたー。いくらアイナさんが凄くても――

 ……えぇ? え? 本当に?」


 エミリアさんは静かに首を縦に振った。


「うーん、今のところは大体そんな感じなんですけどね。

 あ、これは内緒の話でお願いしますね。しーっ、です」


「わ、分かりました! アイナさんの秘密を1個獲得です!

 ……それにしても、そんな貴重なものをもらってしまって良いのですか!?」


「いやいや、元々テレーゼさんのじゃないですか。

 それに私たちも何かしら持ってますし、気にしないで大丈夫ですよ!」


「やったー! 一生大切にしますー!」


「……それでですね。そこでちょっと問題があるんですよ」


「え? 問題……ですか?」


「実は私たち、こんな感じのアクセサリを持ってることがバレて、先日襲われたんです。

 鑑定スキル持ちの人からは簡単に貴重なものだってバレてしまうので、できればテレーゼさんの指輪にも情報操作の魔法を掛けたいんですよね……」


「な、なるほど! でも情報操作の魔法って案外希少ですからね……!

 アイナさんたちは心当たりは無い感じですか?」


「1つはあったんですが、よりにもよってそこから奪われそうになってしまいまして」


「ははぁ……、大変な目に遭ったんですね……。

 うーん……。そうですねぇ、心当たり……。1つはあるような、ないような……」


「え? 誰か使える人を知っているんですか?」


「多分使えると思うんですけどね……。何と言ってもその子、魔法の天才ですから!」


「へぇ……。どういう方です?」


「はい、私の幼馴染なんです!

 魔法の天才すぎて、何年か前に王城に召し抱えられていったんですよ!」


「おぉ、それは凄い……!」


「――でもそれから、ずっと見ていないんですよ……。

 ちょっと特徴的な子でしたし、何かあったのかなぁ……」


「特徴的?」


「はい。……えーっと、ここだけの内緒話でお願いしたいんですが」


 テレーゼさんは彼女にしては珍しく、周囲を気にした様子で言い始めた。


「はい。私のアーティファクト錬金の話もしたので、お互い内緒ということですね」


「あはは、そうですね!

 えぇっと、その子は二重人格で、少し扱いにコツが要るんです」


「へ……? 二重人格……?」


 ……二重人格だなんて案外有名なように思えるけど、私は今までに会ったことはない。

 いることは普通に信じているのだけど、身近にいるとは何だか信じられないというか――


「あ、でもどっちも良い子なんですよ! 大人からは気味悪がられていましたけど……。

 あと、召し抱えられるときに両親に支度金が支払われてから……少し曲がっちゃったっていうか……」


「もしかして、ちょっと悪い言い方をしちゃうと――『売られた』みたいな……?」


「はい……。うーん……、アイナさんって王族の方と交流があるんでしたっけ?

 もし機会があれば、何と言うかこっそり噂でも聞いて頂けませんか……?」


「聞き出せるかは分かりませんけど――そうですね、私もちょっと興味があります。

 その方のお名前を教えて頂けますか?」


「はい。その子はシェリルちゃん……。えっと、シェリル・ヴィオラ・ブリストルっていう名前です。

 ――大人しい方がシェリルちゃん、元気な方がヴィオラちゃん」


「あ、そういう呼び分けなんですね」


「私とバーバラちゃんにはそう呼ぶように言ってました。

 他の人はみんな、どちらに対してもシェリルちゃんの名前で呼んでいると思いますけど……」


「うん、分かりました。機会があれば聞いてみますね。

 何か分かったらお知らせしますので」


「はい、是非お願いします! ――あ、もうこんな時間!?

 すいませーん、私そろそろ戻らないと!」


「時間が経つのは早いですね、そろそろ私たちも帰らないと。

 テレーゼさん、またそのうち一緒にお昼しましょうね」


「ありがとうございます! アイナさんの家に遊びに行く約束も忘れませんので!」


「あー……そうでした、そうでした。そのうちお誘いしますね」



 ――そんなこんなで昼食も終わり、私たちは早々にお屋敷に戻ることにした。

 ちなみにテレーゼさんの指輪は、ひとまずは家から持ち出さないでしっかりしまっておくことにするそうだ。


 でも早く普通に使えるようにしたいから、テレーゼさんの幼馴染――シェリルさんのことも調べてみようかな。

 こと情報操作の魔法に関してだけ言えば、魔術師ギルドを経由して使い手を探してみる方が実際は早いかもしれないけど……これも乗り掛かった船だしね。

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