174.夜中のアーティファクト大会
「――さてと、寝る前にちょっと錬金しておこうかな……」
一息ついたあと、ベッドから起き出して錬金術のスタンバイ。
さくっとテレーゼさんの指輪と、メイドさんたち用に買ったカフスボタンにアーティファクト錬金を行ってしまおう。
まずは小手調べにカフスボタンからやろうかな。
先に宝石のところを置換しないといけないから、忘れないうちにね。
それじゃ、れんきんちかーんっ
バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ
「――はい、終了っと」
置換を終えたカフスボタンをテーブルに置いて眺める。
紫色の髪のクラリスさんにはアメジストを、
赤茶色の髪のマーガレットさんにはルビーを、
緑色の髪のミュリエルさんにはエメラルドを、
白色の髪のルーシーさんにはオパールを、
金色の髪のキャスリーンさんにはトパーズを入れてみた。
「ふむふむ、こうして見るとなかなかに壮観だね。
さて、それじゃ次はアーティファクト錬金で効果を付与――っと」
はい、れんきーんっ
バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ
「終了っ」
そしてかんてーっ
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【カフスボタン(S+級)】
一般的な装身具。アメジストがあしらわれている
※錬金効果:精神力が1.0%増加する
※追加効果:精神力が1.0%増加する
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【カフスボタン(S+級)】
一般的な装身具。ルビーがあしらわれている
※錬金効果:体力が1.0%増加する
※追加効果:体力が1.0%増加する
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【カフスボタン(S+級)】
一般的な装身具。エメラルドがあしらわれている
※錬金効果:素早さが1.0%増加する
※追加効果:素早さが1.0%増加する
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【カフスボタン(S+級)】
一般的な装身具。オパールがあしらわれている
※錬金効果:力が1.0%増加する
※追加効果:力が1.0%増加する
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【カフスボタン(S+級)】
一般的な装身具。トパーズがあしらわれている
※錬金効果:幸運が1.0%増加する
※追加効果:幸運が1.0%増加する
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……ふむ。
特別な効果は付かなかったけど、上がるステータスは綺麗に散ったかな。
それに何となく、それぞれの個性に合わせた感じで付いたかも?
……まぁ正直これだけだとスズメの涙ほどの補正でしか無いんだけどね。
例えば握力が30キロとすれば、2%増えても30.6キロになるくらい……。いや、もしかして大きい? うーん、やっぱり微妙かな?
ちなみに錬金効果を持つアイテムをたくさん持っていても、そのすべてが効果を発揮するわけでは無いみたい。
どうやら2つくらいしか効果が発揮されないみたいなんだけど、ここら辺は何ともゲームみたいな感じだ。
「――さて、それじゃ次はテレーゼさんの指輪かな。
れんきーんっ」
バチッ
かんてーっ
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【リング(S+級)】
手作りの指輪。サファイアがあしらわれている
※錬金効果:夢占い
※追加効果:体力が1.0%増加する
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「ぬわっ!?」
……あやや、何か効果が付いちゃった……。
『夢占い』? うーん、何だろう……? えい、かんてーっ
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【夢占い】
睡眠時、正夢を見る可能性が高くなる
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……ふむ?
これは――別に凄くないような気がする?
いやいや、でも未来予測の一種だから凄いのかな?
凄いような凄くないような……。まぁいいか、このまま渡しちゃおう。
あ、いや。
こんなの持ってるとリーゼさんみたいに、悪さをしてくる人もいるかもしれないよね。
本当なら情報操作の魔法を掛けてから渡すのが良いんだけど、さてどうしたものか……。
うーん、考えていても仕方ないか。
今日中に錬金術師ギルドの依頼をやっちゃって、明日納品に行ったときにテレーゼさんに相談してみよう。
明日は午後にピエールさんと会う予定を入れてもらっていたから、錬金術師ギルドには午前中に行っておこうかな。
せっかくだし、テレーゼさんを誘って4人で昼食でもとることにしよう。
何だかんだで一緒に食事をする約束も果たしてないし。こういう約束はしっかり守らないとね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日、ルークとエミリアさんと一緒に錬金術師ギルドへ向かった。
建物に入ると、いつも通りの出迎えが待ち受けていた。
「アイナさああああん! いらっしゃいませえええええ!」
もはや恒例。響き渡るテレーゼさんの声だ。
「テレーゼさん、こんにちは。
早速であれなんですが、今日のお昼をご一緒にいかがですか?」
「えっ!?」
「え?」
「えぇ!? わ、私、避けられていたんじゃなかったんですね! 嬉しいですっ!!」
……何ですと!?
ちょっと予想外だったけど、そう思われていてしまったのか。
いや、今までは本当に時間が合わなかったり、私の状態が良くなかったってだけのつもりだったんだけど――
「人聞きが悪いですよ! それで、午後は用事があるのでちょっとだけ早めだと助かるのですが……」
「大丈夫です! 仕事はダグラスさんに押し付けていきますので!」
「おいそこ、何を言ってるんだよ……」
不意にテレーゼさんの後ろから男性の声が響いた。
偶然通り掛かったようで、静かな何かを振り撒きながらダグラスさんが立っている。
「あ、あわわわわ……」
「ダグラスさん、こんにちは。
あとでテレーゼさんをお借りしても良いですか? 昼休みに」
「ああ、別に構わないぞ。
ところでアイナさんは今日はどうしたのかな? もう納品?」
「はい、その通りです」
「おおう……やっぱり早いな。それじゃ応接室に行こうか。
――あ、そうそう。さすがにまだ新しい依頼は入ってきていないから、今日渡せる依頼はないぞ」
「おお、ついに無くなりましたか!」
「いや……『賢者の石』と『秩序の氷』は残っているんだが――」
「それは眼中に無いです」
「だよなぁ……。まぁいいや。件数も少ないし、さっさと終わらせよう」
「はい、お願いします。
――えっと、ちょっと納品に行ってくるので2人は待っていてもらえますか?」
「はーい♪」
「分かりました」
「あ、それなら私がお2人の相手をしていますね!」
「おぉい、テレーゼ! お前はちゃんと受付の仕事をしておけよ!」
「ぐふぅ……。す、すいません。お相手ができなくなりました……」
心底悔しそうにするテレーゼさんに、ルークとエミリアさんは苦笑いをしていた。
それじゃ早く戻って来るから、それまではしっかりお仕事をしていてくださいね――っと。