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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
170/911

170.こねこね②

「――ふぅん、なるほど。お仲間さんの剣の師匠を、ねぇ……」


 一通り話をすると、ダグラスさんは考えるように言った。


「ええ。だからこう、できれば錬金術の依頼を通して何かコネが作れないかなって思いまして」


「……まぁできなくは無いだろうし、俺にもいくつか心当たりはあるよ。

 王族や貴族のお抱えの剣術使いなんて。でもな――」


「でも?」


「アイナさんがその師匠になりそうな人を探してるのってさ、そのお仲間さんは知ってるのか?」


「誰かを師事したいっていう話は本人から聞きましたが、あとは私が勝手に……でしょうか」


「……だよなぁ」


「えーっと……?」


 ダグラスさんは頭を掻きながら、何かを言い難そうにしていた。

 それでもしばらく考えたあと、言葉を選びながら……といった感じで話を続ける。


「お仲間さんは、アイナさんを守るために強くなりたいんだろう?

 そのために師事する人を、アイナさんが探すっていうのはどうなのかね?

 見つけたあとに、弟子入りするための手伝いをするならまだともかく――」


 ダグラスさんの言うことを噛み締める。

 確かに……そこまでやるのは過保護というか、口の出し過ぎになるか……。


「……なるほど。その考えはありませんでした……」


「それで、今日はそのお仲間さんは何をしてるんだ?」


「え? 今日はお屋敷の裏庭で修練してましたね。

 多分、性格からしてずっとやってそうですけど……」


「うーん、そうか……。

 これは俺の推測だが……というか、もし俺がその立場だったら、だな。

 アイナさんを守るために強くならなきゃいけない。でも現在進行形で守らなきゃいけない。

 だから今は、アイナさんの近くにいながら、我流であっても修練を重ねないといけない――なんて思っちゃいそうだな」


「む……。それって――」


「ああ、いわゆる板挟み状態だな。良く言えば『両立』、悪く言えば『どっち付かず』だ」


「……私は、どうすれば良いでしょう……」


「おいおい、ここは相談所じゃないぞ……。

 でもまぁ……一人の男として言わせてもらえば、自分の力で何とかしたいだろうから、時間を少しもらいたくはあるかな」


「時間、ですか」


「もちろん、具体的に『1週間』とか『1か月』とかいう話じゃなくてな……。

 自分で考えて、自分で動ける。そんな時間が、他人に遠慮しないくらいには欲しいかな。

 そうすれば自分が師事したい人間なんて、自分で見つけるさ」


「――そうですね、そういうものかもしれませんね。

 ……はぁ、それにしてもダグラスさんは大人の人ですねぇ……」


「アイナさんはまだまだ若いからな。いや、うん。今の時間を楽しんでおきなよ?」


「そういうことを言うと、オジサンって感じがしてきますね」


「ははは、もうそう言われてもおかしくない年齢だしな。

 でも積み重ねた分、若い連中にはいろいろと教えられることもあるぞ」


 私は今は17歳。元の世界では24歳だった……んだけど、学生から見れば年を食っていたとしても、社会人としてはまだまだひよっこなんだよね。

 そう思うと人生の先輩であるダグラスさんの言葉は自然と心に入ってきた。


「……ありがとうございます。

 コネの話は一旦置いておいて、ちょっと本人と相談してみることにしますね」


「ああ、そうだな。ずっと側にいるってだけが優しさじゃないからな」


「……さすがに今のは、『良いこと』を言おうとしましたね」


「ははは、バレたか! やっぱりそういうことを考えると分かっちゃうもんだな!」


 ダグラスさんは少し照れたように言いながら、大きく笑った。

 その様子に私の緊張も少し解れたが――多分そこまで見越して言ったのかな? いやぁ、大人って凄い。カッコイイね。




「――さて、それじゃ話を元に戻そうか。さっき持ってきた依頼はどうする?

 S-ランク以上の依頼が4件、王族からの依頼が7件……だな」


「そうですね、王族からの依頼は全部いけそうです。

 S-ランク以上の依頼は……んー、『賢者の石』の作成と、『秩序の氷』の作成は止めておきましょう。

 残りの2つは受けますね」


「おいおいー。一番受けて欲しかったのが残っちゃったぞ……」


「『賢者の石』は何回出されても受けませんからね……?」


 報酬は以前と変わらず金貨5万枚のまま。

 確かにこれを作れれば安寧の魔石(小)が5個分稼げるけど……材料がとにかく厳しいんだよね。


 『秩序の氷』は初耳だけど、『賢者の石』の材料の1つに『秩序の炎』というものがあったから、恐らくは同格のアイテムだろう。

 つまりやっぱり大変そうだから、今回はご遠慮しておくことにした。


「素材を集めるのもネックだし、作るのが難しいのもネック……。

 ここら辺はネックしかないんだよな……」


「材料があれば私は受けますよ?

 錬金術師ギルドで何とか材料を集められないんですか?」


「ふむ……。なるほど、それも1つあるか……。

 でも素材を確保するのに予算が必要だしなぁ……うぅん……」


 私の提案に、ダグラスさんは考え込んでしまった。

 でも錬金術師をサポートするのが錬金術師ギルドなのであれば、素材集めくらいはやって欲しいかもしれない。


「その依頼って10年以上残ってるんですよね?

 そんな依頼を解決することができたら、ダグラスさんの評価も上がってお給料も上がりますよ! ……多分」


「まぁな。でも俺はプライベートを大切にしたい派なんだよ」


 あっけらかんというダグラスさん。

 やるとなったら膨大な時間が掛かることになりそうだし、そもそもやらないというのが一番現実的な選択肢なのだろう。


「それじゃ引き続き依頼の肥やしにしておきましょう」


「ま、国からの依頼だしな。今すぐどうこうっていうことも無いだろうし、そうしておこう。

 次の担当者に頑張ってもらうことにするか」


 次世代へ引き継がれる面倒くさい仕事。

 でも次の担当者も、ダグラスさんのように放置しておくと思うんだよなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 帰り道、ぼーっとしながらのんびり歩いているとアクセサリ屋さんが目に留まった。

 ひと仕事終えたところだし、少し覘いてみようかな?


 小さいお店だったので、まずは店員さんに軽く挨拶をする。

 ちょっとした雑談をしてからいろいろ見せてもらうと、なかなか私好みのものが並んでいた。


「――いかがでしょう。どれも自信作ですよ!」


「え? ここにあるのは全部、自作ですか?」


「はい!」


 嬉しそうに言う店員さんに、何となく職人仲間というところで親近感を覚える。

 でもとりあえず私は替えの利かない2つ――指輪とブレスレットがあるから、今は要らないかなぁ。


 うーん、アクセサリといえばテレーゼさんの指輪にアーティファクト錬金をしないと。

 そうすると、たまには私もアーティファクト錬金で遊びたくなってるかも……。


 ランダムでいろいろ錬金効果が付くのが面白いんだよね。

 スマホアプリで馴らしたガチャ魂が、満を持してと顔を出す。


 今の仲間にはそれぞれもうアクセサリはプレゼントしてるし――あ、それならお世話になってるメイドさんたちにプレゼンとしてみようかな。

 それに5人いるし、何となく髪の色がみんな違うし……そうとなれば5属性のナイフみたいな感じで、5属性のアクセサリにしても面白いかも!


「――すいません。うちにメイドさんが5人いるんですけど、何かプレゼントしたいと思うんです。

 見繕うのを手伝って頂けますか?」


「かしこまりました!

 お嬢様からプレゼントを頂けるだなんて、メイドさんたちも喜ぶでしょうね」


 ……あ、さすがに私が主人だなんて思わないか。

 まぁ特に訂正するところでも無いし、これはこれでスルーしておこう。


「それだと嬉しいんですけどね!

 えぇっと、宝石が1粒入っている感じのものが良いんですが――宝石のところはそれぞれ別のものにしたいんです」


「そうすると特注になりますが――」


「あ、いえ。私は錬金術師なんですけど、石の部分はアーティファクト錬金で置換しようかなって」


「なるほど、錬金術師の方でしたか!

 でしたら宝石部分はイミテーションのものがよろしいですよね」


 イミテーション……つまり模造品。ルビーだったら赤いガラス玉、みたいな感じ。


「はい、そういうものもありますか?」


「もちろんです。それはそれで需要がありますからね」


 模造品の分だけお安く作ることができるし、なるほど商売上手だ。

 こちらとしても、とても助かる。


「種類としては、イヤリングかネックレス辺りでしょうか。

 指輪なんかは仕事の邪魔になりそうだし……」


「そうですね。さりげなく見せたいならイヤリングでしょうか。

 ネックレスの場合はメイド服との兼ね合いがありますので、デザインを教えて頂けると――」


 うーん、私の好みとしてはイヤリングかな。長い髪の隙間からチラリと見える輝き!

 ……いや、ミュリエルさんはショートカットなんだよね……。どうしよう、似合うかな……。


 そう言えばメイド服って、基本的に布地ばかりで作られているんだよね。

 金属部分はあまり無いっていうか――まぁそりゃそうだよね。いろいろと作業をするための服でもあるんだから。


「あ、もしかして髪留めなんてのはどうでしょう」


「それも良いですね、常に見える場所に着けられますし……。

 ただ髪の色に近い宝石にしてしまうと、少し目立たなくなってしまうかもしれませんね」


「そうするとイヤリングもですよね」


「――でしたらカフスボタンなどはいかがですか? 手元をさりげなく彩ってくれますよ。

 控えめなデザインもご用意しておりますので」


「おお、なるほど。それは良さ気ですね!」


 目立ちすぎず、目立たなさすぎず。

 給仕のときにちょっと目に付くかもしれないけど、錬金術で作ったアイテムであるなら、錬金術師のお屋敷のメイドさんっぽいよね。


 ……おお、いーじゃないですか。いーじゃないですか!


 その案を気に入った私は、店員さんお勧めのカフスボタンを5人分買って帰宅した。


 もし気に入られなかったら自分のお店で売ることにしようかな。

 少し先の話にはなるだろうけど、S+級ならそのうち売れるでしょ、多分。

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