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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第1章 辺境都市クレントス
17/911

17.割と重要な問題

 部屋の窓から朝日が射し込む。その暖かい光の中で私は目が覚めた。


「ふわぁ~、朝だー……」


 時間としては朝7時頃。乗り合い馬車の出発時間は9時。

 準備をしてから食事を取ってもそれなりにゆとりのある時間だ。


 ぼんやりしながら身支度を済ませ、食堂に向かうべく部屋を出る。


「おはようございます、アイナ様」


「う、うわああああぁあああっ!?」


 出た瞬間、既に身支度を済ませたルークさんに声を掛けられる。

 まさかのタイミングでの登場に、油断していた私はとても驚いたわけで。


「え? あ、アイナ様? どうされました?」


 ルークさんは慌てて言葉を繋ぐ。


「あ、いえ、ごめんなさい。いや、誰もいないと思っていたので、ちょっと驚いてしまって」


 胸に手を当て、呼吸を整えながらルークさんに答える。


「そうでしたか、申し訳ありません。……では、明日からはもう少し離れたところで警護させて頂きます」


 ……え? 警護?


「えぇっと、ルークさん? 警護って、何のこと?」


「アイナ様が怪しい連中に襲われないように、部屋の前で警戒に当たっていたのです」


「……え? 何で?」


 野営ならともかく、宿屋の中でそういうの要る?

 というか――


「もしかしてルークさん、一晩中そこにいたんですか?」


「ははは、そんなわけないじゃないですか」


 ルークさんは笑いながら否定する。

 ですよねー、良かったー。


「当然のことながら、宿屋の外も2時間に1回、見回りましたよ」


 ちょ、ちょっと待てーっ!!!!


「な、何でそんなことやってるんですか!?」


「それはもちろん、アイナ様をお護りするために――」


 ルークさんは少しきょとんとしながら言葉を続ける。


「えっと、私を一生? 護ってくれるのは良いんですが、これはちょっと違う気がします!」


「そ、そうですか!?」


「多分、もうちょっと大局的な観点かと思います! ほら、敵対勢力に対峙しているときとか、私の周りがみんな敵になっちゃったときとか!」


「日々の警護は入らないんですか……? うーん、それでは明日からは違うことをしていますね」


「ちゃんと寝てくださいよ!」


「分かっています、ご安心ください!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、宿屋の食堂で朝食を取る。


 メニューは野菜が少し入ったスープとパン、それにベーコンみたいなお肉。

 私には十分な量なんだけど、ルークさんには足りるのかな?


「ルークさんって、その量で足りるんですか?」


「……もう少し……あ、いえ、腹八分と言いますし、大丈夫です」


 うーん、おかわりも無さそうだし、昼食でたくさん食べてもらおうかなー……と思ったところで、あることに気付いて問い掛ける。


「そういえば、ルークさんと私って結局どういう関係なんでしょう?」


「アイナ様は私の主です。私はアイナ様の従者です。つまり、主従関係になります」


「ですよね、うん。昨日の流れからして、そうなりますよね」


 私はとても納得のいったように頷いた。


「それが何か?」


「ああ、いえ。これからの旅費とか食費ってどうするのかなと思いまして」


「――ッ!!」


 私の言葉に、ルークさんはびくっとする。


「私が主ってことなら、ルークさんの分もしっかり出さないとなって、そういうことですよ!」


「は、はい。ありがとうございます。いえ、しばらくの分なら蓄えはあるのですが、これからずっととなると……はい」


 ルークさんはどこか緊張した面持ちで答える。


「そういえば今更ですけど、クレントスには戻らなくて良いんですか? お仕事、ありますよね」


「あの、実は……辞めてきました」


「えぇ?」


 ――とは言ったものの、昨日の決心を見ているのであれば納得の行動ではある。


「でも同僚の方が、出発の日に『ルークさんは非番』って言ってたんですけど……」


「ああ、あれはちょっと口裏を合わせてもらっていて……。余計な情報がアイナ様の耳に入らないように……ですね」


 なるほどなるほど。

 結局のところ、ルークさんはその日までに色々捨てちゃったんだね。私なんかのために。

 色々と複雑な気分だけど、そこまでしてくれるなら私も報いてあげないと。


「うん、大丈夫です。そこまでしてくれてありがとうございます。ルークさんの食い扶持くらい、私が稼ぎますから!」


「おお……」


 ルークさんは救いの手が差し伸べられたような、感動の声を漏らす。


「ついでと言ってはなんですが、私のお願いを聞いてくれませんか?」


「お願い? なんでしょう?」


「私はアイナ様の従者です。つまり、下の者になるわけです。私に対して敬語と『さん付け』を止めて頂けないでしょうか」


 むむ……、そう来たか……。


「えぇっと、どうにも慣れないんですけど――」


「始めなければ慣れません! どうか、よろしくお願いします」


 うぅーん、でもルークさんの言うことも一理あるからなぁ……。


「え、えぇっと。それじゃ、ルーク……、で、良いの……かな?」


 たどたどしく言う私の言葉に、ルークさん……もとい、ルークの顔がぱぁっと明るくなる。

 まぁ、そういう関係になっちゃったわけだし仕方ないか。そう思って諦めることにした。


「はい、ありがとうございます! 今後はそれでお願いします!」


「あー。でも、必要があれば敬語を使いま……使うからね? ほら、立場を誤魔化すときとか!」


「そういう場合は問題無いかと思います!」


 そんなときのことまで考えてるとはさすがアイナ様! みたいな顔で、ルークはうんうんと頷いていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ゴトゴトゴト……。


 馬車は細かく揺れながら、街道を走る。


「ルーク、これからのお話をしたいんだけど、良いかな?」


「はい、喜んで」


 私はクレントスで買った地図を出して、ルークと一緒に覗き込む。


「王都まで一気に行くつもりだったんだけど、えーっと……お金のアレコレで、一旦ここの……鉱山都市ミラエルツに滞在しようかと思うの」


 旅費と食費が倍になるのは流石に想定外だったため、途中の街で金策をしたくなったのだ。

 それに鉱山都市って言うくらいだから、色々な金属をゲットできるかもしれないし。


「なるほど、とても良い考えだと思います。ここは鍛冶屋も多いですし、装備を整えるにも良い場所ですよ」


「へー、ルークは行ったことあるの?」


「はい、仕事で年に1回くらいは行っていました。少しがさつな連中が多いので、アイナ様には気を付けて頂きたいですが」


「あはは……。うん、気を付けるよ」


 鉱山都市ミラエルツに着くのは明後日の夕方頃。


 今日の夜は野営らしいから、そこがちょっと踏ん張りどころかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そう言えば、アイナの戦闘力はまだゼロですね
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