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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
169/911

169.こねこね①

 次の日、つまり今日は自由行動にすることにした。

 いろいろ考えなければいけないことも多いし、少し時間が欲しかったのだ。


 ひとまず私は一人で工房に行ってみた。

 職業柄というのもあるかもしれないけど、何だかここが落ち着くんだよね。


 改めて工房を見回してみると、いくつかの窓が目に入った。

 工房は1階にあるので、外から覗こうと思えば覗ける作りだ。

 ルークは昨日、ここから私の様子を眺めていたのだろうか。……うん、まったく気が付かなかった。


 ちなみに今、ルークは裏庭で剣の修練をしているそうだ。

 エミリアさんはどこかに出掛けたみたい。



「――さて、先のことを決めようかな」


 工房の椅子に座って宙を眺める。

 さてさて、これからはどう進めたものか。


 ……まずは神器作成を起点に考えよう。

 これの流れとしては――


 ①作りたいものを決める

 ②素材を調べる

 ③素材を集める

 ④作る


 ――の4段階になるかな。


 ④が一番簡単だから、考えることは実質3つか。


 ①は『私の考えた最強の神器』のイメージを固めるくらいだから、楽と言えば楽かな。

 でも私は剣なんて使ったことが無いから、ここら辺はルークの理想を踏まえて決めることにしよう。

 これを決めるのは早い方が良いし、特別な準備も要らないし、今晩にでも話題に上げてみようか。


 ②はユニークスキル『英知接続』を使えばすぐなんだけど、そのあとが怖いんだよね。

 先日キャスリーンさんのために作った『皮膚再構成の軟膏』なんて、反動で1日倒れることになっちゃったわけだし。


 それよりも高度であろう『神器』なんて調べた日には、どれだけの反動が来るものやら。

 でもこれをやらないとそもそも進まないし、なかなかに悩ましいところなんだよなぁ……。


 まずは3日とか1週間とか、長めに見ておいた方が良いかな?

 さすがに1か月とか1年とかにはならないとは思うんだけど――

 でも一応リスクとしては考えたおいた方が良いだろうし、そうすると先にやることをやってしまわないといけないか。


 ③ついては、私が目覚めたあとに進むことになるよね。

 王都はこの大陸の中心なわけだから、ある程度のものはお金で揃うとは思うんだけど……。

 問題は自分たちで揃えなければいけないものがあったとき、どれだけの労力が掛かるか、かな。



「――っとまぁ、結局はまず素材を調べないといけないか。

 それじゃ、それまでにやらなければいけないことは何だろう……」


 反動の時間が長いことを前提にすれば、『安寧の魔石』を先に探すのものひとつかもしれない。

 でも買うとなると、小でも金貨10000枚とかなんだっけ……? 買うには厳しいな――というか、さすがに買えないわ!


 えぇっと、次に……錬金術のお店を開くのはどうしようかな。

 開店早々に入荷停止なんてなったら冗談じゃ済まないから……これは神器の素材を調べ終わったあとの方が良いよね?


 あとはルークの剣のお師匠さんも見つけてあげないと。

 私が倒れてたら修行どころじゃないかもしれないけど、早ければ早いほうが良いだろうし。


 ……であれば王族の方々に少し接近して、何らかのコネを作ることにする?

 お店はまだ開かないけど、王族の方々には個別営業をする――っていう感じで。


 それ以外にはお屋敷の使用人を増やして、一応クラリスさんにある程度のお金を渡しておいて――

 この前注文した服とかぬいぐるみも受け取らないといけないか。

 そうだ、それに錬金術師ギルドで受けた依頼の残りもやってしまわないと――



 ――考え始めると、案外やることは多い。

 日々何かしらやっているのだし、これはまぁ仕方ないか。


「……ひとまず、今日は依頼の残りをやっちゃうかな。

 今日中に全部納品して、また新しい依頼とか情報をもらって――」


 依頼の受注を止めるのは『英知接続』を使う日が決まってからでも問題無いだろう。

 むしろそれまでは頑張ってお金を稼がないといけないのだ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夕方の少し前頃、必要なアイテムを作り終わった私は錬金術師ギルドを訪れた。


「アイナさああああん! いらっしゃいませえええええ!」


 いつも通りに響き渡るテレーゼさんの声。

 ここは是非『お客様の声』を投函するポストが欲しいところだ。クレーム入れたる。


「こんにちは、テレーゼさん。ダグラスさんを――」


「っと! その前の1つ、よろしいでしょうか!!」


「え? 何でしょう?」


「あのあの、見て頂きたいものがあるんです!

 ダンジョンのお土産で宝石をもらったじゃないですか。あれを使って指輪にしたんですよー!」


 そう言いながら、彼女は指にはめた指輪を見せてくれた。

 比較的シンプルながら、なかなかに素敵なものである。


「……え? これ、テレーゼさんが作ったんですか?

 へぇえー、可愛いですね! 凄いです!」


「そう言って頂けると嬉しいです!

 それでですね、これにアーティファクト錬金で効果を付けて頂けるというお話があったと思うのですが!」


「はい、覚えてますよー。でも一旦お預かりになるのですが、大丈夫ですか?」


 今ここでできることはできるんだけど、本来はそれなりに時間が掛かるものだからね。

 一応それを誤魔化すために持ち帰らないといけないのだ。


「もちろんです! それではお手隙のときにご対応をお願いしますね!」


 そう言いながらテレーゼさんは指輪を外して渡してくれた。


「ああ、一応預かり証のようなものを――」


「いえいえ、プライベートのことなので大丈夫ですよ!

 宝石は頂きものですし、さすがに預かり証だなんて!」


 今は仕事中のはずだけど……と少し思ったものの、お土産を渡したのも仕事中だったから黙っておこう。


「そうですか? それじゃできるだけ早くやってきますね」


「はい、よろしくお願いします!

 ではダグラスさんを呼んできますので、少々お待ちください!」


 テレーゼさんは元気よく言うと、小走りで奥に消えていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 錬金術師ギルドの応接室で、受注していた依頼品をダグラスさんに渡す。

 いつも通り手際よく、ダグラスさんは鑑定をしながら書類を次々に処理していった。


「――はい、確かに。残りの47件、受領したぞ」


「ありがとうございます。

 そうそう、例の『付箋』も作ってきましたよ」


「おお、それは助かる! それじゃ報酬を渡すのと一緒に書類も作成するから――もう少し時間は大丈夫かな?」


「はい、大丈夫です。

 あ、それとまた依頼が来ていたら持ってきて頂けますか?」


「工房をもらって、やる気十分だな!!」


「お屋敷までもらっちゃったので、お金を稼がないといけなくて……」


「ははは、何とも羨ましい限りだ。応援してるぞ!」


 そう笑いながら、ダグラスさんは本棚の後ろの隠し扉から一旦出ていった。

 うーん、やっぱりあのギミックは良いなぁ。いつか建物を作ることになったら、こういうこともやってみたいものだ。



 しばらくぼーっとしていると、ダグラスさんが皮袋と書類を持って戻ってきた。


「お待たせ! これが報酬な。

 俺は『付箋』の依頼書を作ってるから、その間にアイナさんは金額の確認をしててくれ」


「はい、分かりました。

 それじゃここに『付箋』を出しておきますね。……よいしょっと」


 ドスンッ


 アイテムボックスから『付箋』を出して、テーブルの上に置く。

 予算が金貨1枚ということだったので、それなりに量を作ってきたのだ。

 両手で何とか抱えられるくらいの量――


「……え? こんなにたくさんもらっても良いの?」


「言ってみれば紙と糊だけですからね。

 今回は最初ということもあって、これだけ作ってみました」


「それは助かるなぁ……。そのうち追加注文して良い?」


「大丈夫ですよ。お気軽にどうぞ」


 そう言いながら報酬のお金を確認する。

 不備も過不足もなく、今回もしっかり頂戴することができた。


「それじゃアイナさん、『付箋』の依頼書の確認とサインをお願い」


「はーい」


 依頼書を確認して、サインをして、そのまま報酬を受け取って終了。



「さて、次にご要望のあった依頼だけど――今回はこれくらいかな」


 そう言いながら、ダグラスさんは依頼書を渡してくれた。

 S-ランク以上の依頼が4件、王族からの私指名の依頼が7件だった。


「――えぇっと、さすがに減ってきましたね」


「アイナさんが次々とこなしているからな!

 ……ああ、これ以外だと貴族からも問い合わせが来るようになったぞ」


「そういえば、今までは貴族の方からは無かったんですね」


「アイナさんの噂が広まってきたのと、あとは王族からの依頼が一巡したからかな?

 貴族の方が人数は多いし、受け始めるとまた凄いことになりそうだけど……」


 ふむふむ……。でもお客さんがたくさんいた方が、ルークのお師匠さん探しも捗るよね。

 でも今の形で進めていても、コネまではなかなか繋がらなそうだよなぁ……。


 そう思いながら王族からの依頼を見ていると、やはり美容関連のものが多いことに気付く。


 美容関連のアイテムであれば、人それぞれの体質に合わせてある程度の調整ができる。

 でもそれには直接依頼者と会わなければいけないわけで、それならここら辺を利用してコネを作れないものだろうか。


「あの、ダグラスさん。少しご相談があるのですが――」



 ひとまず私は、ダグラスさんに話をしてみることにした。

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