168.旅の目的を②
食堂での4人の会話は続く。
話の流れとしては、ひとまずユニークスキルについて触れたところだ。
「――さて、ユニークスキルは一旦置いておきましょう」
「……え、置いちゃうんですか?」
「とりあえず詳細はあまり関係ないのですが、基本的には錬金術関連です。
体調不良になったのはそのうちの1つが原因ではあるのですが」
「へぇ……、危ないものなんですね?」
「うーん、使い方次第なんですけどね。便利な反面、ペナルティがきついというか」
「なるほど……」
「それでは本題に入ります」
「ついにアイナちゃんの本題か……。僕、何を言われても驚かないようにするよ」
そう言いながら、ジェラードは何度か深呼吸をした。
それに倣ってエミリアさんも深呼吸をする。ルークもこっそりしているのは見逃さなかった。
「――それでですね、錬金術とユニークスキルが良い感じで影響し合って、私はこういうものを持っているんです」
私は自分のアビリティの一部を鑑定ウィンドウに出して宙に表示させた。
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【極限の創造技術】
レベル99に達成した『鍛冶』『裁縫』『錬金術』スキルのいずれかに加え、
関連するユニークスキルを一個人で所有した場合の技術体系名
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「ふぇ……? これはまた何か凄そうなものが……」
「んん? これってアイナちゃんがいつもバチッと作ってるアレのこと?」
「いえ、あれはレアスキル『工程省略<錬金術>』ですね。あれと収納スキルを組み合わせるとできるんです」
「へ、へぇ……。僕からしたら、あれも極限の技術っぽいけど……。
ああいや、『創造』が入っているのか……? うーん、想像が付かない……」
「アイナ様、これは凄いものを作れる……という理解で良いのでしょうか?」
「ざっくり言っちゃうと、そんな感じ。
それで『極限の創造技術』で何が作れるかと言うと――私も1つ以外は知らないんだけど、その1つを作るのが私の旅の目的なんです」
「おお、真相に迫ってきましたね!」
「アイナちゃんの作るもの……。うーん、何だろう……?」
「えーっと、昔鑑定した情報はウィンドウに出せるかな……。
ああ、出せるっぽいですね。その答えは――これです!!」
そう言いながら、クレントスで鑑定していた古い情報を宙に映し出す。
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【神器】
極限の創造技術により生み出されたアイテム。
通常では見られない、様々な効果が付与される
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「「「…………は?」」」
3人は間の抜けた声を出したあと、それぞれ顔を見合わせた。
「クレントスで、ルークと一緒に『神剣デルトフィング』を見に行ったときの情報です。
そのとき私は神器を作りたくなって、ここまで旅をしてきたんですよ。いろいろな情報を探すために――」
「……えっと、つまりアイナ様は……『神剣デルトフィング』のようなものを作れると……?」
「うん、その通り。
その素体にするために、アドルフさんに例の剣を作ってもらったの。『なんちゃって神器』の剣を」
「へ、へぇ……。あの剣がいずれ本物の神器になるのか……。何ともかんとも……」
「ちょっと私、理解が追い付いていません……。
現存する神器はその来歴が全部不明なんですよ。神様が作ったのか、人間か作ったのかも含めて……」
「……ふむ。でもまぁ、アイナちゃんだからこれくらいはあり得るか」
「さすがにこれはどうですかね? でもアイナさんだし、あり得ますよね」
「そうですね、アイナ様は何でもできる方ですから。十分にあり得ます」
ひとしきり呆れられたり驚かれたりしたあとは、結局いつものところに落ち着いてきた。
まぁ、そうなるくらいには付き合いを重ねてきたということかな。
「実際あり得ちゃったんですよね、これが。
――というわけで、王都の生活落ち着いていくと思うので、今が良いタイミングかなということでお話しました」
「……アイナさんはこれからお店を頑張るのかと思っていたのですが、まったく違う方向を見ていたんですね……」
「うーん……。お店や工房、あとはこのお屋敷ですか。ここら辺は流れで手に入ったものですからね。
以前からやろうとしていたのは神器だけです」
「それでアイナちゃん、これから具体的にどうするかは決まっているの?」
「まずは作りたいものの詳細を決めます。
そのあと必要な素材を調べて、素材が集まったら作ろうかなって考えてます」
「むむ? アイナさん、神器を作るのに必要な素材って分かるんですか?」
「はい、ユニークスキル『英知接続』というやつで調べられるんですけど――これを使うと、例のペナルティがくるんですよ」
「な、なるほど……」
「ちなみにこのペナルティですが、『安寧の魔石』で一応軽減できるからそれも集めたかったんですけど――なかなか見つからないんですよね」
「『安寧の魔石』かぁ……。あれもなかなかレアな物だからねぇ……」
「それで、素材さえ分かってしまえばあとは集めるだけです。
入手が難しいものについては、お金を稼いで買ってしまうっていうのも選択肢としてはありかなと」
「そうだね。今はどんなものが必要になるか分からないから、まずは調べるところからだねぇ……」
「でもオリハルコンは絶対に必要になると思うんですよ。
『神剣デルトフィング』も『神剣カルタペズラ』も、オリハルコンが使われているようなので」
「ふむむ、さすがは『神の金属』と呼ばれるだけはありますね……。
神の器を作るには、神の金属が必要――ということですか」
「はい。そんな感じなので、ジェラードさんの手が空くようでしたら、引き続きオリハルコンを調べて頂きたいなって」
「了解! ちなみにオリハルコンは錬金術だと作れないの?」
「できなくは無いんですけど、『賢者の石』というものが必要になるんですよね……」
「『賢者の石』かぁ……。それも伝説上のアイテムだよねぇ……」
「作り方が書いてある本は見つけたんですが、それはそれで作るのがかなり大変そうなんですよ。
ですので、ひとまずはオリハルコン自体を探す方向にしたいなと……」
「オリハルコンは王様が持っているっていう話もあるからね。
それじゃ僕は、やっぱりそこを目指してみようかな」
「無理しない程度にお願いします!」
「ははは、多少無理くらいはしないといけなさそうだけどね♪
……でもそれくらいの方が、やりがいがあるってものだよ」
ジェラードはそう言いながら、良い笑顔を返してくれた。
さすがにオリハルコンの入手の筋道を付けてきたら、臨時のボーナスくらいはあげないといけないかな?
「――っとまぁそんな感じで、以上が私のやりたいことでした。
これからいろいろと大変なことをお願いするかもしれませんが、是非お手伝いをお願いします」
「かしこまりました!」
「僕も了解♪」
「私も――何ができるかは分かりませんけど、頑張ります……!」
「3人とも、ありがとうございます! それじゃ今日は解散しましょうか」
もう少しくらいは話したいところだったけど、何だかんだでかなり疲れてしまった。
今まで溜めていたことをようやく言えたし、今日はもうゆっくり休むことにしよう。
「――それじゃ僕は用事があるから帰るね! 何かあったらすぐに来るから」
「あ、ジェラードさん。少しお話をしてもよろしいですか?」
帰ろうとするジェラードにルークが声を掛けると、2人はそのまま外に出ていってしまった。
この流れ、ルークはジェラードがいなくなっていたときのことを聞くのかな? ……まぁ、私は一旦忘れておこう。
2人の姿が消えてふと視線を他に移すと、エミリアさんがこっちをじっと見ていることに気付いた。
「わっ! ど、どうしたんですか? 何か私の顔に付いています?」
「うーん……目と口が……!」
「鼻も付いているはずです!」
「ほ、本当だ……!!」
「――って、何を言ってるんですか……」
おバカな話をしてから何となく2人で笑い合う。
「……いえ、何か現実離れしたお話だったので……ちょっと現実に戻っておきたかったな――って思いまして」
「そうですね。足元のしっかりした現実は必要ですよね」
「――でも、アイナさんのことを知れて、今日は嬉しかったです。
それにしても、秘密はあとどれくらい残っているんですか?」
「んー、そうですね。2つか3つくらいでしょうか……?」
「えー? どれだけ凄い人なんですか、まったくもう」
そんなことを言いながら、どこか仕方なさそうに笑うエミリアさん。
まぁ、残りのこともいつか話すときが来るかもしれないよね。
……それがいつになるのかは分からないけれど。




