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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
163/911

163.うちのメイドさん④

 次に入って来たのは5人目のメイドさん。

 金髪のツインテールで、少し背の小さな女の子。おお、可愛い。


「失礼します。アイナ様、お茶をお持ちしました」


「ありがとう」


 メイドさんは静かにカップを置いて、私の横に座った。


「――ん?」


「はい、何でしょうか」


 そのメイドさんは私をまっすぐに見つめてくる。

 うわぁ、この可愛さは破壊力がまずい。私、女の子で良かった。まだ耐えられる。


「ううん、何でも。それじゃ、頂くね」


 ひとくち口に含むと、とても美味しい味が口に広がった。

 そうそう、私が求めていたのはこれなんだよ、うん。


「前の2人がとんでもないお茶を出したそうで、大変申し訳ございませんでした。

 今後はこのようなことが無いように――」


「ああ、いやいや! そんなに畏まらないで大丈夫だよ!」


「……お心遣い、感謝いたします」


 メイドさんは畏まって言った。

 むむむ、緊張感がどうしてもまだあるなぁ。


「ところであなたのお名前は何ていうの?」


「はい、私はキャスリーンと申します」


「改めまして、私はアイナです。これからよろしくね。

 皆に聞いているんだけど、ここで働くにあたって何かあるかな。希望とか、要望とか」


「いえ、特にはございません」


「……あ、そう?」


 むむ、話が即終了してしまった。

 それにしても可愛い子だ。でも何と言うか、どこか哀愁が漂っているというか……。

 それがますます目を引くというか、そんな感じではあるんだけど――


「キャスリーンさんはここにくる前、他のお屋敷にいたの?」


「はい。とある貴族様のお屋敷におりました」


「ふぅん? それで、何でうちにくることに?」


「はい、突然お暇を頂きまして」


「……え? 人数の調整とかかな」


「はい、そのようでした」


 ふむ、それじゃ私としてはラッキーってことかな。

 何だかキャスリーンさんは完璧なメイドさんの雰囲気をしているし――いや、何故か隣に座っていること以外は。


「ところで、前のお屋敷ではこんな風にご主人様の横に座っていたの?」


「はい。アイナ様もご自由になさって頂いて構いませんので……」


「え? 自由って、何を?」


 そう答える私の顔を、不思議そうに眺めるキャスリーンさん。

 しばらくして、何かに気付いたように言葉を続けた。


「……大変失礼しました。アイナ様は女性の方ですし、やはり男性がよろしかったですよね……」


 そう言いながら、彼女は悲し気に俯いた。

 ……しかしその台詞と仕草ですべてを察してしまった。ああ、この世界でもそう言うことがやはりあるものか。

 それにしても、初めて見る彼女の感情の変化がこれだなんて――


「……ちょっと、脱いでくれるかな? 嫌ならいいけど」


「……はい。嫌だなんて、滅相もございません」


 キャスリーンさんは立ち上がり、服を脱ぎ始めた。

 その行動に、ためらいはまるで無い。それがさも当然のように。


 キャスリーンさんが脱いでいくと、綺麗な色の肌と共に、無数の傷が姿を現した。

 痣などは無いものの、これは――


「ごめん、もういいよ」


「あ……。も、申し訳ございません、このような身体で……」


 キャスリーンさんは少し声を震わせながら、唇を噛み締めた。


「ううん、ごめんね。つらいことをさせちゃったね。

 ……あのさ、このお屋敷ではそういうことはしないし、誰にもさせないから。安心して?」


「……え? それでは私は、何のためにこのお屋敷に――」


「え? メイドさんでしょ?」


「はい、メイドの仕事とはそういう――」


「いやいや、違うから! お屋敷のことをしてもらうだけで、そういうのは無いから!」


 つい荒らげてしまった私の言葉に、彼女は尚も不思議な顔をする。

 今までどんなところにいたんだ……。


「私が、こんな身体だから……ですよね?」


「ああもう、違うから!

 キャスリーンさん、その傷はあった方が良いですか? 無い方が良いですか?」


「……無い方が、良いです……」


「では治しちゃいますよ!」


「……え?」


 何かに苛立った! というか前の主人に苛立った!

 こんな傷、一方的に残した心と身体の傷……!

 心の傷はすぐには無理だけど、せめて身体の傷くらいは――


 私はアイテムボックスから杖を取り出し、そして安寧の魔石を付ける。

 変な音が立つから歩かないようにはして――……『英知接続』からの『創造才覚<錬金術>』!!


 ――――――――――――ッ!!!


 『英知接続』の反動、強烈な頭痛のあとに、私の欲しい情報が現れた。

 以前使ったときよりもかなり強い痛み。でも耐えられないほどでは――まだ無い!


 ----------------------------------------

 【『皮膚再構成の軟膏』の作成に必要なアイテム】

 ・竜の血×1

 ・高級ポーション(S+級)×1

 ・疫病ウィルス<6822型>

 ・純水×1

 ・ワセリン×1

 ・容器×1

 ----------------------------------------


 『皮膚再構成の軟膏』……平たく言うと傷をきれいさっぱり治す薬!

 材料が何だかふざけたものばかりだけど、何だこの構成は……。


 でも全部いける! それじゃ早速――れんきんっ


 バチッ


 いつもの音と共に、軟膏の詰まった容器が私の手に現れた。


「あの……アイナ様、いかがなさいましたか……? 顔色が優れないようですけど――」


「こっちよりもそっち!」


「は、はい!? も、申し訳ございません……」


「それじゃ、腕出して」


「はい……」


 キャスリーンさんはおずおずと右腕を出した。

 腕の下の方には傷はほとんど無いものの、二の腕の上の方から肩にかけてはもうたくさんの傷がある。

 それは見ているだけで痛々しくて、胸が裂かれるような思いが生まれる。反動の頭痛がどうのなんて、今は言ってる場合ではない。


「それじゃ、治しちゃうよ!」


「え?」


 私も初めて作った薬だから緊張するが、自分の指に取ってキャスリーンさんの肌に擦りこんでみる。

 すると熱を発すると共に、傷が綺麗に消えていった。


「――どうかな。体調、おかしいところはない?」


「はい。とても熱いですが、他には――」


 そう言いながら、キャスリーンさんは綺麗になった自身の肌を見て驚いた。

 そして次の瞬間には、涙をたくさん零し始めた。


「……それじゃ、どんどん治しちゃうね。熱を持つみたいだから、辛くなったら言ってね?」


「は、はい……。……うぇぇ……、ひっく……、ひっく……」



 彼女の嗚咽が聞こえる中で、彼女の全身――服に隠される場所に刻まれた傷を治していく。


 自分の欲望のために他人を傷付けるなんて、私は赦せない。絶対に赦さない。

 そんな憤りを、激しく覚えながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいやいや、最初のメイド長以外、 おかしい奴というか、ポンコツばっか続いたじゃん 当然その流れだと思うよな 馴れ馴れしく横に座ったから、 主人の意思を無視して色仕掛けしてくる変態メイド…
感想一覧
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