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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
162/911

162.うちのメイドさん③

 次に入って来たのは3人目のメイドさん。

 緑色の髪の毛でショートカット。見るからに活発そうなイメージだ。


「失礼します。アイナ様、お茶をお持ちしました」


「ありがとー。ささ、こちらへ」


「はい!」


 そのメイドさんはテーブルにお茶の入ったカップを置いて、そのまま綺麗な姿勢で立っている。

 ……まぁ、やっぱり座らないか。


「えぇっと、あなたのお名前は?」


「はい、ミュリエルと申します。

 身体を動かすのが得意なので、そういった用事は私にお任せください」


 おお、見た目と得意分野が合ってる!

 実に覚えやすくて素晴らしい。


「改めまして、私はアイナです。これからよろしくね」


「よろしくお願いします!」


「それじゃお茶、いただきます」


 さてさて、どういったお話から切り出そうかな。

 全員同じお話だと何だか面接っぽくなるからなぁ。うーん、さてさて……。

 そんなことを思いながらお茶をひとくち――


 ゴクリ


「……………………」


「?」


「――――――ぶふッ!?」


 口に含めた瞬間、それは水面に広がる波紋のように、隅から隅まで押し寄せた。

 今まで感じたことの無い味覚。いや、それは味覚と言って良いのだろうか。

 苦みとも辛みとも違う、何か刺激的なもの。それは他の感覚にまで波及して、おかしな臭いや急激な体温の低下すらも感じさせる。


「ど、どうしましたか、アイナ様!」


「ごほっごほっ、これ、何……?」


「え? 紅茶ですが――」


 こ、紅茶? これが? もしかして毒入り――?

 えい、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【不味い紅茶(S-級)】

 不味い紅茶。場合によっては体調異常を起こす

 ※追加効果:精神衰弱×1.6

 ----------------------------------------


 ……どうやら毒は入っていない模様。

 それにしてもS-級って――ああ、『不味い紅茶』としての出来が良いからこうなってるのかな。

 『紅茶』だったらきっとF-級とか? というと、これはそれよりも下なのだろうか……。


「……個性的なお茶だね」


「よく言われます! 特にお料理についてはクラリスさんの舌には合わないようで、お屋敷でお料理するのは禁止されてしまったのですが」


「このお茶は、ミュリエルさんが?」


「はい、心を込めて入れました!」


「お茶も禁止」


「えぇっ!?」


「禁止」


「は、はい……」


 創作物でたまに見かけるメシマズのキャラ。まさかそれが実在して、うちのメイドさんの中にいるだなんて……。

 ここでの暮らしが慣れるまでは、しばらく口に入れるものは鑑定しておいた方が良いかもしれない。


「ところで今回は軽くお話をしたかっただけなんだけど、ここで働くにあたって何かあるかな。

 希望とか、要望とか」


「はい! 私、メイドとして実力を付けていきたいです!

 ですのでお屋敷のお仕事は全力で頑張るのですが――」


「ですが?」


「……お料理も、勉強したいです……」


 ミュリエルさんは少し気落ちしながらそう言った。

 メシマズなのは自覚しているのかな? 少なくとも周りの反応から何かは察しているのだろう。


「あー、それでしたら食材は使って良いので、賄いとかで練習してみては?

 ……クラリスさん監督の元で」


「え、よろしいのですか!? ありがとうございます!

 他には特に何もありませんので、全力でお仕事させて頂きます!」


「うん、よろしくね。

 それじゃ次のメイドさんを呼んでくれるかな? あと、お茶の換えを……」


「それでしたら私が――」


「まだ禁止」


「は、はい……。でもいずれ、私も入れられるようになりますので!

 それでは失礼します!」


 そう言うと、ミュリエルさんはお辞儀をして部屋を出ていった。



 ――それにしても、紅茶を何であんな味にできるんだろう……。

 レアスキル『工程省略<錬金術>』とは逆の感じで、作るときに不味くする工程が勝手に入ってしまうのかな。

 ううん、謎だ。……あ、それならミュリエルさんを鑑定してみれば良いのか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。

 部屋の中へ促すと、4人目のメイドさんが登場した。

 白色の髪の毛で、カール気味のロングヘア。ミュリエルさんとは逆の、落ち着いた印象だ。


「失礼します。アイナ様、お茶をお持ちしました」


「うん、ありがとう。あなたのお名前は?」


「はい、ルーシーと申します」


「改めまして、私はアイナです。これからよろしくね」


「よろしくお願いいたします」


「……」


「……」


 ……お。話が自然に切れてしまった……。

 さてさて、今回はどう話を持っていこうかな。


 ミュリエルさんのときは紅茶から話が広がってしまったんだよね。

 そんなことを思いながらお茶をひとくち――


 ゴクリ


「………………あ、あまっ!!?」


 口の中に圧倒的な甘さが広がる。

 それは得も言えぬ甘美の世界――などではまったく無く、ただひたすらに問答無用で甘いだけだった。


「はい、アイナ様はお疲れかと思いましたので、砂糖をたくさん入れて参りました」


「えぇっ、さすがにこれは多すぎない!?」


「私はいつもこれくらい入れていますので……」


「あ、そうなんだ……? いやいや、でも甘すぎだよ!?」


「申し訳ございません、次からは半分ほどにいたします」


「それでも多いよ!?」


「では砂糖は別でお出しいたしますね」


「う、うん。それなら……」


「……」


「……」


 ――あ、また会話が途切れた。

 なるほど、ルーシーさんは大人しい感じの人なんだね。おっとりというよりは物静かという感じか。

 こういう人は、打ち解けると結構話すようになるんだよね。それまでは焦らずにいくか。


「ルーシーさん。皆に聞いているんだけど、ここで働くにあたって何かあるかな。

 希望とか、要望とか、何でも良いんだけど」


「……特にはございませんが、休憩時間に裏庭で休むお許しを頂けると嬉しいです」


「え? 裏庭で?」


「はい。外で読書をするととても気持ちが良いので――是非、お許しを頂ければと……」


 ルーシーさんの趣味は読書、って感じなのかな。

 良い感じのテーブルセットでくつろいでいると、サマになりそうな雰囲気を持ってるしね。


「うん、問題無いと思うよ。

 テーブルと椅子も要ると思うから、それはクラリスさんとお話しておくね」


「え? いえ、そこまでは――」


「なんのなんの。休憩する環境もしっかり整えないと!」


 何となく昔の職場の休憩所を思い出してしまう。

 一応場所はあるんだけど、『とりあえず作りました』って感じが強かったんだよね。


 それでも休める人もいるとは思うんだけど、私はどうにも落ち着かなくて。

 だからもし私が作る側に回るのなら、こういったところも全力投球したかったのだ。


「では、よろしくお願いいたします。

 ご検討いただきまして、誠にありがとうございます」


「いえいえ。

 さて、それじゃ次のメイドさんを呼んでくれるかな? あと……、お茶の換えをお願い……」


「かしこまりました。それではこちらはお下げしますね」


 そう言いながらルーシーさんは激甘の紅茶を下げて部屋から出ていった。




 ――さてさて。次で5人目、最後のメイドさんなんだけど……早く来てくれないかな。

 何と言っても口の中がめちゃくちゃ甘いのだ。早く口直しの飲み物を――


 ……って、そう言えばアイテムボックスの中に水は入っていたか。

 でもここまできたら、そっちで口直しするのは違うような気がする。流れ的に――というやつだろうか。


 そんなことを考えてる辺り、私にもまだ余裕はありそうだ。この状況をどこか楽しんでるっていうのかな。


 ――とは言え、めちゃくちゃ甘さが残ってる口の中は早くどうにかしたいんだけどね……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 転んでぶちまけた奴の紅茶の味が気になる なんか、アイナにはまともな紅茶を飲ませないぞという、 メイド同盟が築かれてそうなので [一言] まともな奴いねえw いや、一見クラリスだけはまと…
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