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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第1章 辺境都市クレントス
16/911

16.誓いの儀式

 時間は夜。場所は宿屋の外。

 周囲は暗く、小さなランタンの灯が頼りなく周囲を照らすのみ。


 ちょっとした広場まで出ると人通りは無く、静まった空気が場を支配していた。


「はー、夜は結構涼しいですね。んー、でもこれくらいが気持ち良いのかな?」


 屋内から屋外に出たときの解放感を感じながら、ルークさんに話し掛ける。


「そうですね。今は過ごしやすい季節ですし、夜もまた良いものですね」


「あはは♪ そうですねー。……さてと、あんまり遠くに行き過ぎでもアレですし、ここら辺でも良いですか?」


「はい、わざわざお時間を取って頂きまして、ありがとうございます」


 ルークさんは微笑みながら、丁寧にお礼をしてくれた。


「いえいえ。それで、さっきの話ですけど……ルークさんはこれから、どこに向かうんですか?」


「えっとですね、分かりません」


 えぇ……? 目的の無い一人旅なの???

 何だかさっきから要領を得ないなぁ……。


「私もどう切り出して良いものか……。あの、最初からお話をさせて頂けますか?」


「あ、はい。どうぞ?」


 神妙な顔をするルークさん。少し緊張しているのか、持ってきた剣の鞘をぎゅっと握りしめていた。

 鎧姿では無くても、剣は普段から持ち歩いてるんだね、さすが騎士様。……まぁ、こっちの世界じゃ急に襲われることもあるからかな。


「アイナ様は、私と初めて会ったときのことを覚えていますか?」


「もちろん、それは覚えてますよ。この世界……じゃなくて、この国に来て初めて話した人だし」


「え……? そうですか……。うーん、『この国』で初めて、ですか……」


 聞き返されて、軽率な返事をしたことを後悔する。

 『この街』ではなく『この国』。他国から辺境都市クレントスを訪れるまでの旅路で、国内で誰とも話さないなんて通常ではあり得るはずがない。

 『この世界』と言うのは誤魔化したが、『この国』を見逃してしまうとは……うっかりしていた。


「あ、あのー。えっと、そうじゃなくて――」


「あ、別に良いんです。アイナ様は不思議な方ですし、恐らく本当のことなんでしょう。それに、私がお話したいのはそこじゃないんです」


「え……? そ、そうですか? それじゃ続けてください」


「はい。初めて会ったとき、私はクレントスの東の街門で守衛をしていました。アイナ様に身分証を求めると、プラチナカードを提示して頂きまして……」


 そうだね。そのときはプラチナカードってよく分からなかったんだけど、その後にとんでもないアイテムだと知ったよ……。


「私も生まれて初めて実物を見たものですから、ちょっと変な対応をしてしまったかもしれません。……ははは、その節は失礼しました」


「いえいえ、まったくそんな感じはしませんでしたよ!」


「そうですか? ありがとうございます。それで次にお会いしたのが……アイナ様が早朝に、怪我をして……いや、そのときはもう治されていたんですよね。酷くボロボロの状態で……」


 はいはい、ヴィクトリアの従魔に襲われた次の日の朝ね。あれはもうトラウマだよ……。


「いやぁ、あれは酷い目に遭いましたよ、ほんと。あはは……」


 遠い目で空の月を見る私。

 そうそう、月といえば、元の世界の月よりも青み掛かってて綺麗なんだよね。こういうところでも、異世界だってことを突き付けられるよ。


「本当に心配で……。何でこんな女の子が……それにお優しそうな方が、どうしてこんな酷い目に遭わなければいけないのかと……私も私なりに、ショックを受けてしまいました」


 ふむー、ごめんね。申し訳無いです……。


「その後、ずっと気に掛かっていたのですが……ちょっとした伝手で、アイナ様が落ち込んでいらっしゃると伺いまして……。それであの日、えっと……アイーシャさんのところに行った日ですね。気分転換に、外にお誘いしようとしたんです」


 ふむふむ。ルイサさんとアイーシャさんの脚を治して、英雄シルヴェスターの雄姿を見に行った日だね。

 なるほど。急に誘ってくれるから何かと思ったら、そういう背景があったのか。


「あはは。それじゃ本当に、デートのお誘いでは無かったんですね」


「も、もちろんです! 私なんぞがアイナ様をお誘い出来るわけ……」


 ああもう! 出たよ、プラチナカード効果!

 い、いやでも別に、こっちの世界で恋愛なんて期待してないし!

 ……ううん、そうじゃない。多分ここでは恋愛なんて、一生しないと思うよ。だって――


 少し切ない思いを描いていると、ルークさんは続けた。


「少し話は変わるんですが……。あの、ルイサさんなんですが……脚を悪くして、10年くらい前はすごい塞ぎ込んでいたんです。おじちゃん……いえ、旦那さんを亡くした直後でもありましたし。私もまだ子供でしたが、あの塞ぎ込み様はすごくて……今でも忘れることは出来ません」


 えぇ……? ルイサさん、とても明るい女性だったんだけど……そんな時代もあったのか。

 人を雰囲気とか見た目で判断しちゃダメだね。


「でもあの日、アイナ様はルイサさんの脚を治したんです。私もちょっと、すいません、正直信じられなかったんですが……ルイサさんの様子と、実際にアイーシャさんの治るところを目にしてしまったわけで……」


「あはは……。ルイサさん、本当に大変だったんですね。でも私は偶然治せる技術を持っていたってだけで、まぁ、巡り合わせ? ですよ」


「いやいや! 巡り合わせって……そんな簡単なものじゃないですよ……?」


 ルークさんは少し気が抜けた感じで突っ込んでくる。そして言葉を続ける。


「……そうですね。いや、そういうところも、なんです。本当にすごいことをして誰かを救っているのに、それを何ともないように言ってのける……。とても、とても素晴らしいと思います」


 うーん……。実際のところ、持ってる技術で出来ちゃったから、正直実感が無いんだよね……。こんなに尊敬されて申し訳無いんだけど……。


「長々と話をしましたが、これからが本題です」


「え? あ、はい」


 ルークさんが私を真正面に捉え、真面目な顔で鞘から剣をスラリと抜いた。


「へ……?」


 突然見せられた鈍く光る剣の刃を前に、変な声が出てしまう。

 だが、ルークさんはそのまま跪き、剣を私に両手で差し出してきた。


「このルーク、貴女を心より尊敬申し上げております。どうか私に、貴女を護る誓いを立てさせてください――」




 えええええ!? と、突然、何ですか!!!!?




「ちょちょちょ、ちょっと待って! 急にそんな話――」


「……ダメでしょうか?」


「ええぇ、ダメっていうか――」


 いや、これはもう愛の告白より重いよね、多分。

 だからちょっと、軽率に返事は出来ないわけで……。


「あの、その誓いっていつまで有効なんですか?」


「もちろん一生、生涯を賭してお護りいたします」


「一生? 私の? ルークさんの?」


「アイナ様より先に私が死ぬことはありません。ご安心ください」


「えっと……言い難いんですけど、私、不老不死だから……先に死なないですよ?」


「……え?」


 予想外の言葉だったのか(そりゃ予想外だろうけど)、跪いた姿勢から、ルークさんは顔だけ上げてこちらを仰ぎ見る。


「えぇっと……鑑定のウィンドウ出しますね、えぃ」


 私は自分のステータスを宙に映した。

 もちろん要所要所は良い感じで隠しながら。


「えっと、これです。見えます? レアスキルの『不老不死』」


 ルークさんはしばらくそれをポカンと眺めていたが――


「……ははは、アイナ様は本当に規格外のお方だ。いや、もう何があっても驚きませんよ!」


 笑いながら、何かを諦めたのか力強く言うルークさん。

 そして再び頭を垂れ、言葉を続ける。


「貴女が不老不死であろうと関係ありません。私が生涯、貴女をお護りいたします」


 ……うーん、決意は固いみたい……。それに自分から諦めるということは無さそう?

 でも、こんなにまで信頼してくれる人がいるっていうのは嬉しいし、何だか心強いな。

 知り合って間もないけど、良い人なのは知っているし――


 ルークさんの決意に絆されたのか、私の心も動く。


「えっと……これっていわゆる、騎士の『誓いの儀式』ですよね? 私、詳しく知らないんですけど……」


「剣を取り、刃を私の肩に乗せ、宣誓の言葉を頂ければ幸いです」


「えっと……、宣誓の言葉なんて、知りませんよ?」


「心に浮かんだもので大丈夫です。厳密なものよりも、アイナ様のお言葉を頂戴出来ると」


 えぇ……? うーん、ちょっと厨二病っぽくカッコイイ言葉も使ってみたいけど、失敗したり噛んだら最悪だよね……。

 こ、ここはシンプルに行こう。


 でもせめて、フルネームは入れたいかな。

 ルークさんのフルネームって……えい、鑑定っ! 『ルーク・ノヴァス・スプリングフィールド』……さりげにカッコイイな……。


 鑑定結果を確認した私はルークさんの手から剣を取り、少し持ち替えてからルークさんの肩に刃を乗せた。

 緊張で声が出るか心配だったけど、咳払いを一回したら大丈夫そうだった。


 それでは――


「ルーク・ノヴァス・スプリングフィールド。私を生涯護り抜くことを誓いなさい」


「――我が生涯を賭して、神々の名と、アイナ様の名において、ここに誓います」




 突然始まった厳粛な儀式は、ただのふたことで慎ましく完結したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女性主人公の物語の真面目なだけの第一村人が異性で主人公に惚れて 主人公が旅立つとき本人には無許可でついてきて結果同行するまたは恋仲になる って今後の展開まで丸被りしそうな定番の展開が苦手 …
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