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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
155/911

155.夜、そして朝

 レオノーラさんからもらった伝言――大聖堂に行く件はとりあえず明日にして、今日は夕方からずっと錬金術師ギルドの依頼の対応をしていた。


 何せ104件である。

 実際のところ少し受けすぎたと後悔している面もあったりするのだが、受けてしまったものは仕方が無い。

 私は常々目立たないようにしようと思っていたはずなのだけど、リーゼさんの一件で変なテンションになっていたというか。


 自分では平気なつもりでいても、やっぱり何かがおかしかったのかもしれない。


 何にせよ、夕方からひたすら対応をしていたおかげで――ひとまず王族からの依頼は全部こなすことができた。

 104件の内の57件だから、大体半分くらいかな。


 やっぱり美容関連のものが多かったのだけど、中には少し変わっているものもあったりした。

 例えば『媚薬』……とか。


 まぁね、王族とはいえども人間だからね。

 いや、実際のところ一服盛って既成事実を作ったりして? みたいなところもあるのかな?

 こういうのって、勝手に使ってもらう分には別に良いんだけど――巡り巡って自分の口に入ったりするのが何より怖いんだよね。


 だってS+級だよ、これも。作ってはみたけど、自分で試す気にはなれないなぁ……。


 それに、こういうので名声が広まっても何か嫌なんだよね。今回は受けちゃったから納品はするけど……。

 次からはこの手のものは受けないでおくことにしよう。私は全年齢対象錬金術師(?)を目指すのだ。


 あとはアーティファクト錬金の話も広まっているのか、『解毒の指輪』というものの作成依頼もあった。

 これはアクセサリに錬金効果を付与するのではなくて、アクセサリ自体に特殊効果があるものを作るのだ。


 簡単に言うと、指輪と毒消し草を組み合わせるっていう感じかな。

 てっきり錬金効果をランダムで狙うしか無いのかなって思っていたんだけど、作る元の方に効果を付けるやり方もあるんだね。


 日々これ勉強。

 それにしても、依頼内容はしっかり確認しなきゃダメだね。知らないものも普通に混ざってるし……。

 いや、対応できてるからいいんだけど。


 ――それにしても、解毒かぁ。やっぱり王族、命を狙われたりするのかな。

 王族って何だか楽して美味しいもの食べて――みたいなイメージがあったけど、やっぱりいろいろ大変なんだろうな。



「――よし、ひと段落!」


 疲れた身体を癒すため、ベッドに勢いよく飛び込む。

 飛び込んでから、何か寂しいな――と思ったら、毛布がベッドの端で丸まっているのに気付いた。

 そういえば朝、ストレス解消のために丸めて叩いていたんだっけ。


 そんなことを思い出すと、芋づる式にリーゼさんのことまで思い浮かんできた。


 ……あのあと彼女はどうなったのだろうか。

 『循環の迷宮』の6階から下に落ちたわけで、普通に考えれば7階に行ったかとは思うんだけど――


 もし無事なら、ひとまず外に出ようとするよね?

 1人で7階から戻るのも難しいだろうから、通り掛かりのパーティに一時的に参加しているかもしれないけど。


 でも外では指名手配をかけさせてもらったから、ダンジョンから出てくればきっと捕まることだろう。何せ金貨1000枚懸けたからね。

 詰め所にいた騎士さんたちも凄いやる気を見せていたし、逃げられないとは思うんだけど――


 そしてジェラード。

 ルークの話によれば、ジェラードはしばらく戻らないという言い残してどこかに行ったらしい。


 うぅーん、ジェラードは行動がよく分からないところがあるからなぁ。

 おかしなことはしないとは思うけど、大丈夫かな。


 ……おかしなこと? うぅん、この場合おかしなことってなんだろう。


 ああ、ダメだ。何だか混乱してきた――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――おろ?」


 気が付くと、外は早朝の雰囲気を見せていた。陽は昇っていないものの、空が白み始めている頃。

 私はと言えば、ベッドの上で毛布も掛けずに目が覚めたところだった。


「ああ、これは変なところで眠っちゃったか……ごほっ」


 何となく喉に抵抗を感じる。少し重くて、何だか声がかすれる様な――

 ……とは言え、これくらいなら薬を作ってさっさと治すことはできるのだ。


 バチッ


 ごくり。はい、完治。


 ……正直、こういう他愛もないところで高度な錬金術を使うのもどうかと思うのだけど、できてしまうものは仕方ない。

 ありがたくその恩恵に預かっておくことにしよう。


 さて、朝食の時間にはまだまだ早いし、二度寝するには――あんまり眠くないかな。

 さすがに朝っぱらから依頼をこなす気もないし……困ったなぁ。


 そういえば昔、早朝のジョギングというのに興味を持ったことがあるんだよね。

 実際、三日坊主になったんだけど。正真正銘、3日だけやって4日目からはやらなくなっちゃったという……。

 何とも恥ずかしくも情けない過去だ。そんなことを思い出してしまうと――


「――たまには、朝の散歩も良いかも?」


 そんな結論に辿り付くことになっちゃうよね。なんとなく。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 宿屋の外に出ると、爽やかな涼しい空気を感じることができた。

 あと数時間もすればいつもの時間になるけど、逆に言えばその数時間でここまで空気が違うというのはどこか新鮮だ。


 深呼吸をしても気持ち良いし、思いっきり伸びをしても気持ち良い。

 何と言っても歩くだけで気持ち良いからね。いやぁ、早朝って良いな――


 ――あ、いや。

 仕事が終わらなくて朝早くに職場に行かなきゃいけなかったときがあったけど、そのときは別に気持ち良く無かったかな。

 やっぱり自分の意思でこういう時間に外に出るのが気持ち良いのだろう。

 転生前のあの生活に比べれば、今はよっぽど自由に過ごさせてもらっているわけだし。


 ――そんなことを考えながら、ぼーっと歩き始める。

 人はほとんどおらず、たまに荷台で野菜を運ぶ人がいるくらいだ。

 新聞も無い世界だから、新聞配達の人もいないしね。


 あまり遠くに行くと帰りが面倒になるかもしれないから、とりあえず宿屋を中心にぐるっと回ってみることにした。

 宿屋の横手、ちょっとした空き地に近付いたとき――


 ……ブンッ! ……ブンッ!


 ――何かを振る音が聞こえた。


「……ん? 何の音だろう……?」


 そこまで興味は湧かなかったものの、話のタネに少し覘いてみることにした。

 そこには何人かの人がいて、木刀のようなものをそれぞれが振っている。


 剣術の、朝の修練か――


 そんなことを思いながら見ていると、少し離れたところにルークがいるのが目に入った。


 ……え? 何でこんな時間、こんな場所にいるの?

 この修練って、どこかの道場の人が集まっているんじゃなくて――やりたい人が集まってやってるって感じなのかな?

 もしくはルークが飛び込み参加しているとか……?


 ――それにしても、そういえばルークの修練姿って初めて見るような気がする。

 冒険者ギルドの依頼を受けて実戦だけで鍛えているのかと思ったけど、見えないところでこういう修練もしていたのかな。


 ……そういう話をしないってことは、あんまり知られたくないのかな?

 努力をひけらかすタイプじゃないからね……。真面目に絵を描いたような――っていうか。


 そのあと私はあまり目立たないように、ルークの視界に入らないように宿屋に戻ることにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おはよー」


「おはようございます」

「おはようございまーす!」


 部屋の前で、食堂に向かうべくルークとエミリアさんと待ち合わせる。

 いつも通りの朝。


 ……うん。いつも通りなのか、これが。


「――アイナ様、どうかしましたか?」


「え? ううん、何でもないよー」


「そうですか?」


 ルークは不思議そうな表情を浮かべたが、こちらから特に言うこともあるまい。


「それじゃ朝食を食べにいきましょ」


「はい」


「はーい! 私も体調が良くなってきたので、がっつり食べますよー!」


「……エミリアさん、量……抑えないで良いんですか……?」


「はっ!? そ、そうでしたね……。お土産を持ち帰りましょう、お部屋に……」



 リーゼさんが残していった気持ちの傷はまだ大きいのだけど、それでもどうにかいつもの日々に戻っていける気はする。

 ずっと悩んでいるわけにはいかないし、できるだけ早く忘れちゃわないとね。


 ――完全に忘れるわけにはいかないけど、ずっと考えている必要は無いのだから。

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