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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
151/911

151.帰還しました

 3日後、私たちは無事に『循環の迷宮』から出ることができた。

 帰り道はあまり探索はしなかったものの、エミリアさんの不調や全員の疲れからどうしても進みが遅くなってしまっていた。


 夜番も私とルークの2人体制になってしまったんだけど、私だけ出てるわけにも行かないということで結局ルークは出ずっぱりになってしまった。

 何とも申し訳無い限りである。王都に戻ったらしばらく休みを取ることにしよう。


「――さて、アイナ様。まずは騎士団の詰め所に行きましょう」


「え? 何で?」


「リーゼさんに殺されかけましたので、それを伝えなければいけません」


「ああ、なるほど……」


 私たちはいわゆる殺人未遂の被害者なのだ。リーゼさんも最初はそこまでする気は無かったようだけど、最終的にはそうなってしまったわけで。

 彼女を赦すか? と聞かれれば、もちろん赦すつもりなんてない。


「私としてはもうあの人のために時間は使いたくないですけど、私たちのこれからや、他の人に迷惑を掛けられたくないですからね。

 しっかりきっちりお話していきましょう」


 エミリアさんも少し表情の無いような感じで言い切った。

 これにはまったく同感である。


「今回は私にお任せください。こう見えてもクレントスでは問題を扱う側だったんです。

 ――少しアイナ様に手伝って頂くこともあるかと思いますが、後ほどよろしくお願いします」


「え? うん、分かったー」


 私たちはひとまず『循環の迷宮』の近くにある騎士団の詰め所に向かった。

 あとから聞いた話によるとやはりダンジョン内では問題が起こりやすいらしく、こういう案件も日常茶飯事ということだった。


 ゲームと違って人間の欲望が混じると――怖いことになるものだね、まったく。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その夜、私たちは王都の宿屋に戻ることができた。

 本調子の方はまだまだ戻らないが、ひとまずここまでくれば気は休まるというものだ。


「――とはいうものの、食事だけ見ればエミリアさんってば本調子!」


「安心したら元気が出て来ました! やっほーい!」


 大量のメニューを前にしてはしゃぐエミリアさん。

 よく分からないテンションを出してくる辺り、どこかやっぱり無理はしていると思うのだけど。


 ……あ、そういえば王都に来る前のいつもの食事量に戻ってるなぁ……。

 これを大聖堂の人に見られたら何か言われそうだけど、今回は黙っておくことにしよう。

 健康が最優先だからね。


「それにしても詰め所でのルークの立ち振る舞いは格好良かったね。

 何か凄く専門家~みたいな感じがしたかな。無駄が無いっていうか」


「そうですか? 必要な情報はある程度決まっていますからね。それを客観的に伝えただけですよ」


「それが普通は難しいんだよ。ねぇ、エミリアさん」


「そうですねー。ルークさんも格好良かったですけど、アイナさんも格好良かったですよ?」


「え? そんな要素ありましたっけ?」


「アイナ様には身分証明をお願いしましたよね」


 実は今回、身分証明はプラチナカードで行っていた。

 錬金術師ギルドのカードでもS-ランクということで良かったんだけど、それでも今回は本気で行きたかったのだ。

 最大の力を持って最大の効果を! ――やっぱり2人に手を出したのは赦せなかったから。


「詰め所の人たちも驚いてたよね。……あんなものを急に出されたら、それもそうかな?」


「私も記憶に残っていますが、やっぱり強烈ですからね」


「それよりもお金ですよ! 懸賞金!」


 懸賞金――というのは、問題を起こした人を指名手配する際に懸けられるお金のことだ。

 詰め所で話を聞いたところ、その懸賞金を被害者が出せるシステムがあるらしかった。

 最後の最後にそれを使うか聞かれ、何となく周りの期待に満ちた目が私のお財布を緩める結果になってしまったのだ。


「いやはや、しかしまさか金貨1000枚も出てくるとは――」


 さすがのルークも少し呆れた声で言った。


「出し過ぎたかな? 出し過ぎたよね? 出し過ぎちゃったなぁ……」


「でもあのときの詰め所の盛り上がりは凄かったですよね。

 経費が少ないとかで、むしろ自分たちで捕まえようとしていましたし」


「ああ、そうですね。どこかの冒険者に渡るくらいなら、日々の安全を守ってくれている騎士団の方に使って欲しいかも。

 ――って、もう遅いですけど」


「でも何だか誇らしかったですよ!

 私たちが一緒にいるのは、こんなに凄い人なんですよーって」


「うーん……、そんなもんですかね……」


 明日からしばらく休もうとはしたものの、やっぱりお金も稼がないといけないかな。

 ひとまずは回転の良さそうな依頼をどんどんこなすことにしよう。私が受ける依頼は、他の錬金術師はあんまり受けていないみたいだし。


 ああ、あとは工房をもらえるっていう話もあったっけ――




「アイナちゃん、こんばんわ!」


 不意にジェラードの明るい声が聞こえた。


「こんばんわ、お久し振りです!」


「エミリアちゃんは何か疲れてるみたいだね? ルーク君もお疲れ様――」


 そこまで言うと、ジェラードの目に少し冷たいものが映った――ような気がした。

 ジェラードはリーゼさんのことを不審に思っていた。そして今、彼女はこの場にはいない――


「ジェラードさん、今日は2人でお話しませんか?」


「……うん、そうだね。そうした方が良さそうだ」


「え?」


「それではアイナ様、今日は少しジェラードさんと外で食事をしてきます。

 戻りは遅くなると思いますので、今日は先にお休みください」


「う、うん。えーっと……」


「アイナちゃんとエミリアちゃんは心配しないで良いからね♪

 それじゃおやすみ~♪」


 そう言うと、ルークとジェラードは食堂をあとにしていった。



「――どうしたんでしょうね?」


「あー……私は何となく分かりますよ……。

 これから、『循環の迷宮』の話をするんでしょうね……」


「え? それならここでしていけば良いのに……?」


「アイナさんはジェラードさんにとって特別な方なんですよ……?

 腕を治してあげて、今の明るいジェラードさんに戻してくれたんですから。

 そんな人が裏切られて、あまつさえ殺されかけたなんて聞いたら――」


「……なるほど、平常心がどこかに行ってしまいそうですね……」


「ジェラードさんは普段こそ軽いノリですけど、根のところは真面目で優しくて――そして少し怖い方ですから。

 深いところの感情をお見せしたくないのだと思います」


「そうですね……。はぁ、ジェラードさんにも心配を掛けてしまいますねぇ……」


「実際、私がジェラードさんの立場でもどう思ってしまうか――

 ――すいません、今日はそろそろお休みしても良いですか……?」


「あ、そうですね。

 ルークたちも今晩どれくらいになるか分かりませんし、ひとまず明日は自由行動にしましょう」


「それは助かります。ゆっくり休んで、さっさと元気にならないとですね!」


「私は錬金術師ギルドに行きたいので出掛けようと思いますが、エミリアさんはゆっくり休んでくださいね」


「え? ……ププピップ……」


「エミリアさんはゆっくり休んでくださいね?」


「は、はい……」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 エミリアさんと別れ、自分の部屋で身の回りのことをすべて終わらせる。

 ここまででようやくひと段落。やっとゆっくり休める――そんな思いが湧き起こってきた。


 帰り道はいつもの3人で難しいことはなかったけど、それにしても今回は3人ともが被害者なのだ。

 誰かが近くにいるだけで、どこか緊張の糸が張ってしまっていた。


 でも、ようやくその糸を解ける――


「――っ」


 不意に涙が出てきた。

 何の涙かは思い当たりがありすぎて特定しにくいが、それでも何となくの意味は分かる。


 今まで過ごしてきた異世界での日常が、何か突然不安定なものに感じられてしまう。


 ……元の世界、か――


 記憶の中で美化された転生前の世界。

 せめて今日くらいは、そんな妄想の中で一晩を過ごしても良いかもしれない……?

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