15.旅は道連れ
ゴトゴトゴト……。
馬車は細かく揺れながら、街道を走る。
私の乗っている馬車は、列になっている5台の馬車の内の前から2番目。
1台につきそれぞれ、乗客が6人、御者が1人、用心棒が1人の構成だ。
街の近くは比較的安全なのだが、それなりに離れると魔物や野党が襲ってくることがあるらしい。
また、この近辺にはそこまで強い魔物はおらず、また野盗もならず者崩れくらいしかいないとのこと。
仮に襲われたとしても、雇っている用心棒が合計5人もいれば何ということも無いそうだ。
っと、それはそれとして。しかし――
「うーん、暇だなぁ」
最初こそ、久々の街の外だからとテンションも高めだったのだが、行けども行けども似たような風景ばかり。
元の世界ならスマホをいじって時間を潰すんだけど、こっちの世界にあるわけがないし。
周りの乗客はみんなだんまりだし、居心地は(揺れは置いておいても)よろしくなかった。
しっかり睡眠も取ってきたからあんまり眠くはないし。
うーん。一人旅は気軽で良いんだけど、やっぱり寂しいかなぁ。
旅の道連れを考えると、別に人間じゃなくてもヴィクトリアの従魔みたいなヤツでも良さそうだよね。
従魔かぁ。私がもし従魔を作るなら……やっぱり、王道RPGでお馴染みのスライムじゃないかな?
見た目癒し系なんだけど、最後まで育てるときっとすごく強くなるんだと思うよ。お約束だもんね。
あー、いいなー。従魔欲しいなー。
……などと妄想を膨らませても、経過した時間は10分ほどなわけで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「1時間ほど休憩となります。みなさま、お食事などを済ませてきてください」
3時間ほど走った後、小さな村で一休み。バス旅行で言うところのサービスエリアで休憩~、みたいな感じね。
そんなイメージでぽつぽつと食べ物の露店も出てるから、少し見てまわってみようかな?
ふむふむ、このお店はお肉ね。うーん、用心棒の5人グループが豪快にがっついてるわ。
私にはちょっと重いかなぁ。とりあえずパス……っと。
えーっと、こっちのお店は麺料理ね。うどんみたいな感じ? ベトナム料理のフォーが近いかな。
良い匂いだけど、どうしよっかなー。
で、こっちはパン屋さんか。
うーん、パンか。うん、パンが良いね。ちょうどそんなお腹の具合だし!
「すいませーん、これとこれとこれ! くださいな」
「はいよ、毎度ありっ!」
パンを買って、近くに置いてある椅子に座る。
「いただきまーす」
パクっと。もぐもぐ、ふむふむ。
日本で売ってるパンほど柔らかくは無いけど、そこまで固いわけでもない。
しっかり歯ごたえがあって、噛むのが気持ち良い感じのパン。
そこに木の実が入っていて、ちょうど良い具合に仕上がっている。
「んー、美味しい~♪」
至福の一時。
食べているのが屋外のせいか、気分も良く感情も解放的になってしまう。
「ひとつめ完食~。えっと次は……こっちかな」
もぐもぐ、ふむふむ。
む……これは、ちょっと酸っぱい! レーズンみたいな感じかな? というかこれ、レーズンだわ。
レーズンって子供の頃はちょっと苦手だったけど、いつの間にか美味しく感じるようになったんだよね。
そういうのって無いかな? ほら、トマトとかナス、ピーマンとかも多分そんな感じ。あと、ニンジンとか。
「ふたつめ完食~っと」
最後のパンに手を伸ばしてかぶりつく。
野いちごみたいな実が入っていて、ほんのり甘かった。
おお、適当な順番で食べてたけど、最後にちょっとデザート感があって……イイ!
その手は止まらず、最後まで食べ尽くす。
「ふぅ、ごちそうさまでした! 満足満足!」
「ふふふ、アイナ様は本当に美味しそうに食べますね」
「美味しいものを食べたら、そりゃ顔に出ちゃいますよ~!」
……って、あれ?
私に自然な感じで話し掛けてきたのはどちら様かな?
一瞬そう思った後、声の主の方向を見ると――
何故かルークさんがいた。
見間違いかな?
目線を一回逸らしてもう一度見てみる。
何故かルークさんがいた。
「えぇ……? ルークさん、こんなところで何をしてるんですか……」
「いえ、アイナ様が美味しそうに食べていらっしゃるので、思わず声を掛けた次第です」
「そ、それはどうも……。じゃなくてですね。何でこんなところにいるんですか……」
「それはですね、えぇっと、後でお話させて頂きます! ところでアイナ様は2番目の馬車でしたよね。私は5番目の馬車なんですが、誰か変わってくれそうな方はいませんでしたか?」
ええ? 違う馬車とはいえ、一緒に来てたの……? 全然気が付かなかったわ……。
ルークさんはどうしても鎧のイメージが強いんだけど、今は鎧姿じゃないんだもん。うーん、非番なのかな?
そんなことを思いながら、休憩に入る前の馬車の様子を思い出す。
「うちの馬車は全員がひとり旅のようでしたよ。えっと、あそこの人とか、向こうの人とか……」
指で指し示すと、ルークさんはその人のところまで走っていって、少し話し込んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴトゴトゴト……。
馬車は細かく揺れながら、街道を走る。
さっきまでと違うのは、私の隣に満面の笑みのルークさんがいることくらいだろうか。
どうやら他の乗客と交渉して、乗る馬車を変わってもらったらしい。
「……それで、馬車に乗ってどこに向かっているんですか?」
私の問いに、ルークさんは少し考えてから答え始める。
「えっとですね、王都の方角です」
「王都の方角?」
「はい。そちらの方に、野暮用があるのです」
「は、はぁ。野暮用ですか」
「そうです、野暮用です」
「じゃ、私に付いてくるってわけではないんですね?」
「……えぇっと」
ルークさんはバツの悪そうな顔をして、咳払いで間を切る。
「その話はここではちょっと……。夜に、また話をさせてください」
「はぁ」
他に乗客もいるし、あまりプライベートなことは話しにくいのかな?
「それじゃ、この前の話の続きをしましょう! 英雄シルヴェスターの剣のことなんですが――」
突然話題を変えるルークさん。
なんでだー! とは思いながらも、ついつい食らいついてしまう私。
最初のたかが3時間程度で、会話にもう飢えていたからね。
何にせよ、話相手がいるっていうのは気楽で楽しくて、良いものだなって実感したよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜。今晩は小さな村に宿泊。
街道沿いの旅のため、野営する日はそこまで多くはないらしい。
お金を節約するために野営する人もいるようだけど、私は出来るだけのんびり過ごしたいので宿に入る。
ルークさんも同じ宿に入った。あ、もちろん部屋は違うからね。
食堂のテーブルに向かい合う私とルークさん。
夕食のプレートが運ばれてきて、待ちに待った夕食開始!
「それでは頂きましょう。いただきます!」
「えっと、いただきます……。うーん? 何か不思議な挨拶ですね?」
「え? ……ああ、私の生まれたところでは、命をくれた食材に感謝して食べる習慣があるんですよ。それで、こういう挨拶をするんです」
『いただきます』自体、元の世界でも世界的に見ればちょっとレアな挨拶らしいから、馴染みの無い文化の人にとってはおかしく聞こえるんだろうね。
でも私はお箸の国の人だから、その気持ちは異世界に来ても持ち続けたいわけで。
「へぇ……。アイナ様の生まれたところは、崇高な文化をお持ちなんですね」
いやまぁ、そこらへんは分からないけど。崇高というか、優しい文化だよね。私は好きだよ。
さてさて、今夜のメニューは……元の世界でいうところのステーキ定食みたいなものかな? ご飯じゃなくてパンが付いてきたけど。
はい、ぱくっと。
「ん~、美味しい~♪」
「おお、これは案外にいけますね。うん、美味い!」
「この村の名物なんですかね? ……えっと、それで、ルークさんはこれからどこに向かうんですか?」
食事の中、自然な流れでルークさんの旅? の目的を探る。
それを聞いたルークさんは食事の手を止め、しばらく考えた後、私と彼のフォークに刺さった肉を交互に見て――
「す、すいません。その話、食事が終わった後でも良いですか?」
「……えぇ……?」
言葉を失う私。
なんだよー、もうー! 焦らすなよー!!