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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
149/911

149.循環の迷宮~滝の側で②~

「ほら、早くしなさいよ」


 リーゼさんは冷たい口調で私を促す。

 彼女の要求は、私がアーティファクト錬金で作った4つのアクセサリだ。


 ここで渡してしまうのは(しゃく)だし、もう同じものは作れないかもしれないけど――2人の命には代えられない。


「――分かりました。2人のアクセサリを外すので、少し時間をください」


「分かったわ。でも、変な素振りを見せたらすぐに撃つから」


「……2人の怪我の治療をしても良いですか?」


「ダメよ。全部渡し終わって、私がいなくなってからにして」


「…………」


 正直怒りでどうにかなりそうだが、ここは我慢しなければいけない。

 リーゼさんを下手に刺激して、2人の治療ができなくなってしまうのは――最も避けなければいけないことなのだ。


 まずは近い方、目の前のルークの胸元を広げてネックレスを外す。

 ルークの呼吸はかなり荒く絶え絶えで、早く治療をしてあげないといけない。


「……アイナ様……、あとで――」


 小さく漏れる言葉は意味を成さなかったが、少しでも喋れることに安心はできた。


 次にエミリアさんの元に行く。

 肩に刺さった矢を中心に法衣は血で滲み、やはり呼吸をかなり荒くしている。

 意識があるのか無いのか、今は分からないけど――


 静かにイヤリングを外そうとすると、不思議な力で外すことができなかった。

 これは……装飾魔法か。アクセサリを落とさないように、2人でレオノーラさんに教わって覚えた魔法。


 無理矢理に外すのは避けたい。どうしたものかと思っていると、不意にエミリアさんの腕に力が入るのを感じた。

 辛そうではあるが、どうやら意識はあるようだ。


「……エミリアさん、ここは悔しいですけど……またプレゼントしますので、イヤリングを外させてくれますか?」


 私がそう聞くと、もう一度腕に力を入れたあと――観念するかのようにその力は抜けていった。

 改めてイヤリングに手を掛けると、今度は普通に外すことができた。


 ルークのネックレス。

 エミリアさんのイヤリング。

 そして私の指輪とブレスレットの、合計4つ。


「――ほら、さっさとしなさい。もう集まったんでしょう?」


 私が手のひらに乗せた4つのアクセサリを見ていると、冷たい催促が飛んできた。

 この4つは偶然できたものだけど、何だかんだで思い入れのある――


 ドスッ


「――ッ!?」


 鈍い音と共に、不意に私の右脚から力が抜けていった。

 そしてそのままバランスを崩して地面に叩き付けられる。


 慌てて自分の右脚を見ると、1本の矢によって貫かれていた。


「い、痛――!?」


「ほらぁ、早くしないからうっかり矢が飛んで行ったじゃん?」


 そう言いながらリーゼさんは悠々と、倒れる私の元に歩み寄って来た。


 ゴスッ


「――ッ!!」


 突然、お腹のあたりを蹴られたような、そんな痛みが走る。


「ふふふ、いい様ねぇ? それじゃ、その4つを渡してくれるかな?

 そんなに握りしめてたら、手も潰さなきゃいけないじゃない? 渡すつもりはやっぱり無いのかな?」


 今、リーゼさんは私の至近距離にいる。

 指輪を着けている状態ならクローズスタンで不意打ちもできたのだが――残念ながら指からすでに外してしまっていた。

 私に攻撃手段は無く、つまり逆転の目は一切無いのだ。


 そんなことを一瞬の間に考えていると、突然、頭の痛みと共に起こし上げられる感覚を覚えた。

 これは髪の毛を掴まれて、上に引っ張り上げられている――?

 ……ああもう! やりたい放題だな!!


「ほらほら、ご覧よ。ルークさんとエミリアさん、このままだと死んじゃいそうだよねぇ?

 あんまりゆっくりしてるとさ、心変わりしてやっぱり殺しちゃうよ?

 ふふふ、でもここはダンジョンの中。みんなが死ねば、ダンジョンの中で一緒になれるねぇ?」


 倒れている2人を見たあと、何とかリーゼさんを見上げると――そこには醜く歪んだ顔があった。

 これがこの人の本性……?


「――……その怪我で、まだ起き上がるわけ?」


 不意に、リーゼさんが不満そうな声でぽつりと零した。

 彼女の視線の先を見れば、ルークが力を振り絞って何とか立ち上がっているところだった。


「――アイナ様に……触れるな……」


「あら、怖い。でもこの状況を見て、まだそんな口が利けるのね」


 ルークはゆっくりと私とリーゼさんの方に歩き始めた。

 力は無く、何とか進んでいるといった感じだ。見ていてとても痛々しい。


「おおっと、動く人質なんて要らないよ。ルークさんはもう退場ね。

 それじゃ、さっさと死んじゃって――」


 リーゼさんが私の髪から手を放し、ルークに向かって弓矢を構えた瞬間――ルークは突然叫んで走り始めた。


「フレデリカ!! ポーションを寄越せ!!」


「――何っ!? 仲間が――!?」


 リーゼさんは反射的にルークの視線の方向――彼女の真後ろを慌てて振り向く。

 しかし、そこには誰もいない。


 フレデリカ――それは1週間くらい前、宿屋で作られた私の偽名――


 バチッ


 私はとっさに高級ポーションを作り出す。

 今回は特製、瓶入りではなく紙袋入り――つまり中身がすぐに零れ出す特別仕様だ。


 リーゼさんの隙を突いてルークは私の元に辿り着いた。

 私はポーションが零れ出す紙袋をそのままルークに押し付ける。ポーションは柔らかな光となって、ルークの傷を癒し始めた。

 リーゼさんは突然の出来事に私たちと間合いを取る――


「あっはっは! ブラフだったの!? 最後の悪あがき!?

 それにしても詰めが甘いよ! ルークさん、あなた剣を忘れて来てない?」


 リーゼさんの言葉に慌ててルークを見ると、確かに剣を持っていなかった。

 しかし怪我が治り始めた今ならともなく、その前――あの大怪我の状態では持つこともできなかったのだろう。


「心配無用ッ!!」


 ルークはその返事とばかりに、身に着けていたナイフ――アドルフさんからもらった属性ナイフをリーゼさんに投げ付けた。

 しかしせっかくの武器も、リーゼさんの弓によって敢え無く弾かれる。


「はっ! 唯一の武器を投げ付けるなんて馬鹿なんじゃ――

 ――何ッ!?」


 ズバッ! ズババッ!


 リーゼさんの言葉を遮り、彼女の弓を中心として不思議な真空の刃が舞い踊った。

 見ればリーゼさんは軽い切傷を負い、服も切れ、そして――弓の弦も切断されている。


「……ちょ、ちょっと! 何よそれ!!?」


 突然の出来事にリーゼさんは慌てた。

 飛んできたナイフを弓で弾いたら、突然真空の刃に襲われたのだ――


 ――え? それって……?


「『風刃』……? え、何で――」


 それはジェラードに渡した『風刃』の効果。

 改めてルークの腕を見てみると、ジェラードのブレスレットが着けられていた。


 状況はまったく分からない。

 しかしどういう経緯であれ、リーゼさんの弓が使えなくなった今――形勢は逆転したのだ。


「ここまできて――? もう少しだったのに――ッ!!」


「リーゼさん、よくも裏切ってくれましたね……。それも、アイナ様やエミリアさんに怪我まで負わせて――」


 ルークは静かにリーゼさんに歩み寄って行く。

 リーゼさんはルークの迫力に圧され、距離を空けながら後ずさる。


「……ちっ!

 いきがってもあんたは丸腰! 私はまだこの短剣があるのよ――

 ――ぐふっ……?」


 リーゼさんが腰に下げた短剣を抜いた瞬間、ルークの横蹴りが炸裂した。

 それをまともに食らったリーゼさんはゆっくりと宙を舞い、そして滝つぼに落ちた。


「きゃ、きゃあああああああっ!?」


 そしてそのまま、強い水流と共にダンジョンの階下へと落ちていく――




 彼女の悲鳴はしばらく余韻として残ったが、それでも長い時間を掛けて残るものでは無かった。


 ――やっと終わった。

 私は安堵した。しかしまだ終わりではないのだ。


 早く、エミリアさんの怪我の治療をしないと――!!

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