表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
148/911

148.循環の迷宮~滝の側で①~

 『循環の迷宮』探索の4日目。今日は6階にあるという滝を見たあと、地上に向けて戻って行く予定だ。

 とはいうものの、リーゼさんが少し体調を崩してしまったらしく、6階へは少し休憩してから行くことになった。


「――ごめんね。環境に慣れなかったのかな」


 テントを撤去する傍らでリーゼさんがぼやく。

 周囲のパーティはすでにおらず、残っているのは私たちだけになってしまっていた。


「まぁまぁ。そんなこともありますよ」


 私はそう慰めるしかなかった。

 原因が分かれば薬でも作るところなんだけど、鑑定しても特に状態異常には出てこなかったんだよね。

 軽微なものは状態異常としては出てこないのかな?


「でももう大丈夫そうだから、そろそろ行こうか。

 滝を見れば気分転換になるかもしれないし」


「そうですね。ルークとエミリアさんも準備ができたようですし、行ってみましょうか」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 6階に向かう階段の途中で、すでに下の方から大きな水の音が響いてきた。


「――うわぁ、凄い音……。ここでこの音なら、6階に着いたときにはもう目の前に滝があるんでしょうね」


「それにこの階段もかなり長いですよね。とすると、天井もかなり高いのでしょうか――」


 そんな話をしているとようやく階段が終わり、目の前に広い景色が開けた。

 そこには――周囲の壁と同じ青白い光を放つ、高く高くそびえ立った滝が姿を現した。


 水がかなり上から勢いよく流れ落ち、大量の水飛沫を宙に舞わせている。

 霧雨――まさにそんなイメージだろうか。細かい水滴が私たちの方にも降り掛かってくるが、いやな感じはしなかった。

 そして滝つぼに溜まった水は、少し先で大きな音と共に階下に流れ落ちているようだった。


「おお……、これは凄い……」


「本当ですね、迫力があります!!」


「こんな滝を見ることができるなんて……ダンジョンとは不思議な場所ですね」


「うん……大きな音だね、これは」


 4人が4人、それぞれの感想を漏らす。

 力強くて、そしてとても綺麗な光景。これって結構な観光スポットになるんじゃないかな?

 ……いや、ここまでの道のりもそれなりだし、さすがに難しいか……。



 しばらく滝の周囲を散策しながら、軽く探索もしてみる。

 特に魔物や宝箱の姿は無いようだった。少し前にたくさんの冒険者がここを通ったはずだし、それも当然か。


「うーん、平和そのものですね」


「それじゃアイナさん、平和なうちに水を調達してしまいましょう」


「そうですね。そういうのは先に済ませておきましょうか」


 そう言いながら大きめの水筒や瓶を出して、エミリアさんと水を汲み始める。

 錬金術で浄化するのはいつでもできるから、今はひとまず水を汲んでしまおう。



「――アイナ様、魔物です」


 水を汲み終わった頃に、ルークが注意を促してきた。

 ルークの視線の先を見てみると、人間の形をした水の塊が動いている。


 あれはいわゆる水の精霊ウンディーネ……というやつだろうか。

 何となく女性の姿をしていて可愛いような気がする。


 ゆっくりと向かってくるウンディーネに対して、まずはルークが斬り掛かった。

 ルークの剣が一閃してウンディーネを斬り裂いた――のだが、そのまま何事も無いようにくっついて戻ってしまった。


 ……あれ? そんな再生力、あり?


「私の知っているウンディーネとは違いますね……」


 ルークは私たちを護りながら言う。


「それでしたら昨日の教訓を活かして私が!

 いきます、シルバー・ブレッド!!」


 パアアアアンッ!!


 エミリアさんの魔法を受けたウンディーネは、一撃で見事に霧散させられた。

 跡形も無く――とはまさにこのことだろう。


「おぉ……。これで終わり――」


「いえ、まだいます……!」


 再度エミリアさんの声が響く。

 その視線の先にはまた別のウンディーネがいた。


「それじゃ今度は私もいくわね」


 そう言いながらリーゼさんは弓を番えた。

 そして狙いを絞って一気に撃ち放つ――


 ザンッ!!


「――ッ!?」


「「え?」」


 次の瞬間、私たちが見たのはルークに刺さった1本の矢。

 そして――


「アイナさんッ!!」


 不意に突き飛ばされる私。


 ズザァアアアアッ!!


 地面を擦る音が聞こえた。

 突き飛ばされた私の身体が立てた音――!?


 痛みをこらえながら慌てて起き上がる。

 最初に見えたのは、宙を舞う矢を剣で弾いているルーク。


 次に見えたのは、肩に矢を受けて倒れているエミリアさん。


 そして最後に見えたのは――ルークに向かって矢を撃ち放つリーゼさんだった。


「……え? リーゼさん、何を――」


 状況が把握できない。

 ウンディーネの姿はすでに無いが、それはリーゼさんが倒した……? え、でもこれは――?


「――ちっ、さすがにルークさんは強いね! それじゃやっぱり、狙いはこっちかなぁ?」


 リーゼさんがそう言うや、彼女の弓矢がこちらに向けられる。

 しかしそれを見たルークが素早く私の前に躍り出た。


「アイナ様、下がって!」


「あらあら、勇猛で忠実なナイト様♪

 確かに普通の矢は剣で弾かれるけど――これはどうかなぁあ?」


 そう言うや、リーゼさんの弓矢に力強い緑色の光が取り巻いた。

 これは――


「クルーエル・テレブレーション!!」


 リーゼさんが叫んだ瞬間、その弓から大きな風の塊が撃ち出された。

 これは弓矢の特殊攻撃――!?


 ズガアアアアアンッ!!


「……うぐっ!?」


 大きな音と共に、ルークのうめき声が響く。

 ルークの影に隠れていた私はダメージは無かったけど、ルークには――!!


「あっははは! お姫様がいたら避けられないもんねぇ?

 そんなやつ、私の敵じゃないよねぇ!?」


「り、リーゼさん!? 何をするんですか!?」


「……はぁ? まだ平和ボケしてるの?

 この状況を見てみなさいよ。どう思う?」


 私の足元で倒れているルーク。

 私の傍らで倒れているエミリアさん。


 そして目の前には、こちらに弓矢を向けているリーゼさん。


「――……裏切り……」


「遅い、遅いよ! ああもう、見てられないわぁ」


「で、でも何で!? 私たちが何かしましたか!?」


「いいえ? ま、理由のひとつは――金目の物を持っていたってことかな?」


「金目の物……?」


 このダンジョンで手に入れたものを思い出すが、裏切ってまで欲しいものがあったのだろうか?

 特に価値のあるものは何も手に入れてないと思うんだけど――

 その様子を見て、リーゼさんは改めてため息をついた。


「……貴重な装備をたくさん持ってるでしょう? ほら、全部出しな」


「貴重な装備……? それって――」


「はぁ……。錬金術の腕は凄いけど、察しは悪いんだね。

 ほら、あんたの指輪やブレスレット。エミリアさんのイヤリング、あとはルークさんのネックレスか。

 それだけ頂いたら、今回は見逃してあげるよ」


 リーゼさんの目は冷たさを増していく。

 周囲には誰もいない。頼りの仲間は怪我を負っている。どうにかできるのは、私だけ――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ