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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
146/911

146.循環の迷宮~5階①~

 『循環の迷宮』探索の3日目、午後は5階からスタート!

 5階は風もそれなりに吹いていて、3階と同じように川が流れていた。

 天井からはたまに水滴が滴っているけど、気になるほどではないかな。


 パシャッ


「――お?」


 不意に音のした方を見てみれば、魔物らしき魚が飛び跳ねている。

 バーナビーさんが言っていたこの階の魔物――触りすぎると生臭くなるという、ある種では手ごわい魔物だ。


 その魔物は川から飛び出して、ぴちぴちと跳ねながら地面を移動していた。


「……陸を移動しているとか、何だかアグレッシブな魚ですね……」


「そうですね……。それにしても、隙だらけですよね……」


「それじゃルーク、やっちゃおっか……」


「はい」


 ザシュッ!


 魚の魔物はルークの一撃で倒された。


「……特に何も無く」


 あっさり息絶えた魔物を眺めていると、徐々にその身体が消えていく。

 ドロップは何も無かったし、このダンジョンに入って以来のまったく盛り上がらない戦闘――


「――いや、殺気が生まれたね」


「そうですね。アイナ様、エミリアさん、ご注意ください」


「え? 殺気って――」


 私がそう口にした瞬間、川から物凄い勢いで魚の魔物が跳ねて飛んできた。


「ひょわっ!?」


 エミリアさんは変な声を出しながらかろうじて避ける。

 それを皮切りに、魚の魔物が大量に姿を現して次々と私たちに目掛けて飛んできた。


「もしかして、最初の魔物を倒したから――?」


「多分ね! エミリアさんも迎え撃って!」


「は、はい! シルバー・ブレ――っどぉ!?」


 エミリアさんの詠唱が終わる前に、魔物が思い切りエミリアさんの顔に飛び込んでぶつかっていった。

 ……うわぁ、かなり痛そう。


「エミリアさん、大丈夫ですか!?」


「だ、ダメです……。生臭い……」


 そっち!?


 思わず頭の中でツッコミながら、エミリアさんに引っ付いた魔物を杖で追い払う。

 実際のところ、杖で追い払えるくらいだからそんなに強いってわけでも無いんだよね。


 でも、問題はその量だ。1匹1匹は強くないけど集団としては強い――そんな魔物なのだろう。

 それに周囲を飛び跳ねる大量の魔物のせいで、何となく辺りが生臭くなってきたような――


「ああ、この臭い……ちょっと苦手かも……」


「さっきまでは綺麗な空気だったのにね! まぁ文句はあとかな。

 ――エミリアさん、早く手伝って!」


「は、はぁい……」


 ようやく起き上がったエミリアさんは、自身にヒールを掛けながら戦線に戻った。

 少し顔周りの臭いを気にしているようだけど、それには触れてあげないのが優しさだろう。


 その後しばらく大量の魔物と戦い続けていると、徐々にその数は減っていった。

 かなりの量を倒したはずなんだけど、一体どれくらいを倒したんだろう?

 倒してしばらくすると消えちゃうから、数はよく分からないんだよね。


「――よしっと。これで最後かな」


 リーゼさんが最後の1匹に止めを刺すと、ようやく静かな空気が訪れた。若干生臭いけど。


「……はぁ、お疲れ様でした」


「アイナさーん……、何か臭いを取るようなものはありませんか~……?」


 エミリアさんが泣きそうな声で言ってくる。


「えーっと、以前こっそり作った石鹸くらいですかね……」


 アイテムボックスから石鹸とタオルを出してエミリアさんに渡す。


「ありがとうございます! ちょっとそこの川で――……洗おうと思いましたけど、ここの水って大丈夫でしょうか……。

 さっきの魔物がいたわけですし……」


「生臭い成分が溶けているかもしれませんね!」


「そ、それは嫌です……! アイナさん、お水もください!」


 むむ、水の在庫はちょっと減ってきてるんだけど――まぁ仕方無いか。

 とりあえず、まずはエミリアさんを綺麗にしてしまおう。


「はい、お水もどうぞ。

 そろそろ水も在庫が減ってきたので、ストックを作らなきゃいけないんですよね」


「明日で間に合うなら6階の滝で調達しませんか? この階のお水は――何か嫌なので……」


 エミリアさんが珍しくワガママを言う。

 この階の水で調達するとしても私の錬金術を通すから問題は無いはずなんだけど――これはもう精神的なところだよね。


「今日の分は多分大丈夫なので、それじゃ明日にしましょうか。

 滝の水ならいろいろな意味で綺麗でしょうし、気も滅入ることは無いでしょうし」


「――ま、どちらにしても先に行かないとね」


「そうですね。……あ、そうだ。ドロップの確認をしないと」


 倒した大量の魔物はすでに全部消えており、地面には小さい宝石や鱗のようなものが落ちている。

 とりあえずそこら辺のものをかんてーっ


 ……うーん。これは結構宝石が多いかな……?

 あ、これは――


 ----------------------------------------

 【虹色の鱗】

 七色に輝く貴重な鱗

 ----------------------------------------


 ――初めて見るものを発見! これは価値があるのかな?

 値段のほどを鑑定してみると、およそ金貨1枚くらいのようだった。


 そんなに安くは無いが、そんなに高くも無い。……何とも絶妙なところだ。


「ドロップは魔物の強さに比例するなんていう話もあるからね。

 これくらいの強さだと、これくらいのものしか落とさないのかな」


「一応この鱗、金貨1枚くらいみたいですけど……これが最高なんでしょうか?」


「それだったら実入りの少ない階だねぇ。

 6階はちらっと見るくらいだから、実質ここが最後になるんでしょ?」


「そうですね……。でも宝箱があります! 宝箱に期待しましょう!」


「5の倍数階の宝箱には良いものが入っているという話もあるし、そっちに期待することにしようか」


「はい、きっと良いものがありますよ!」


 ドロップがダメならきっと宝箱の中身が優良!

 この世界はそういう感じできっとバランスが取れているに違いない!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 5階を散々歩き回った結果、なんと宝箱を発見することができなかった!

 魔物の群れとは何回か戦ったんだけど、こちらも特に良いものは落とさず。


 つまり、5階で一番高価なものは『虹色の鱗』だ。

 宝石もあったとはいえ、小さく細かいものなので売値としては安いものばかりだった。


「――アイナさん、みなさん、お疲れ様です!」


 6階への階段があるスペースで出迎えてくれたのはバーナビーさんだった。


「お疲れ様です! ああー、5階も終わってしまいましたか……」


「おや、どうしましたか?」


「私たちの実質、最後の階だったんですが――

 宝箱はありませんでしたし、ドロップも全然でしたし!」


「ああ、この階のドロップはしょっぱいですからね……。

 逆に、宝箱には結構良いものが入っていたりするんですよ」


「宝箱……。くぅ、一縷の望みではあったんですが――」


「ははは、まぁダンジョンなんてそんなものですよ。

 でも何回も通っていれば、いつかは欲しいものも手に入れられるでしょう。だからこそ私たちは――」


「リーダー! くっちゃべってないで、ご飯の準備~!!」

「あとで話せば良いだろう。夜は長いんだから」

「……アイナさんたちも、野営の準備しなきゃでしょ……」


 バーナビーさんの話が長くなりそうになった瞬間、向こうのパーティの面々がツッコミを入れ始めた。

 このパターンも慣れてきたなぁ。結構微笑ましい。


「す、すいません! それではお互い野営の準備をして、それからまたお話をしましょう!」


「そうですね。あ、お隣のスペースは空いていますか?」


「大丈夫です! ささ、どうぞどうぞ」


 私たちはバーナビーさんに促され、彼らの隣にテントを設営することにした。

 近くに設営できたら交流もしやすいしね。

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