145.循環の迷宮~4階~
『循環の迷宮』探索の3日目。今朝も昨日の朝と同じように過ごしたあと、探索が始まった。
今日は4階からスタートだ。
野営していた3階をあとにして4階に行くと、強い風が吹いていた。
3階と違って川のようなものは無く、身体を押すような強い風がこの階を支配している――そんな印象を受けた。
「この階は水よりも風、といった感じですね。何だか悪天候の日みたい」
「確かにね。私の矢も狙いがおかしくなっちゃう」
「魔法もしっかり影響を受けますからね。私、風の日は苦手なんですよ」
リーゼさんとエミリアさんが風の影響を語る。
「ルークは剣だけど、やっぱり影響あるもの?」
「そうですね。大きく動くほど風の力を受けるので、押されてしまいはしますが――
ただその場その場で補正を掛けることもできますし、お2人ほどでは無いですよ」
「なるほど。でも4階はさっさと通り抜けて、その分5階を頑張るのが良いかもしれないね」
「しかし4階でこれっていうことは、もっと下の方ってどうなってるんでしょうね。
もうびゅうびゅうなんでしょうか? 私、ちょっと興味が出てきました」
「エミリアさん、今回は5階までですからね!
……あ、そうだ。そういえば、バーナビーさんが6階の最初にある滝をオススメしていましたっけ」
「滝? ふーん、良いじゃない。それじゃ6階の途中まで行ってみようよ」
滝、という言葉にリーゼさんが反応した。
ルークの方をちらっと見ると、問題無いといった感じで頷いている。
「そうですね、せっかくですし滝も見ていきましょう。
今日は4階と5階を頑張って――それで明日、6階を少し見てから戻りましょうか」
そう考えるとダンジョンを下りていくのも、基本的には今日が最終日なんだね。
今のところ良いアイテムは『水の封晶石』くらいだし、もう少し何か欲しいところだなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
4階の魔物は霧状の不定形の魔物。
何やら剣や弓矢の攻撃があまり効かず、エミリアさんのシルバー・ブレッド頼みの戦いになっている。
「はひー。疲れましたー」
「エミリアさん、大丈夫ですか! こんなに頑張ってるエミリアさんにはパンのご褒美がありますよ!」
「な、なんですと! 良いんですか? 頂きまーす♪」
今まで遭った魔物は元の世界でもいるような感じの延長だったけど、今回についてはまるで違った。
見た目が霊的な感じっていうのかな? 何と空中に顔が浮かんでいるのだ。
私的には少し理解が及ばない感じだから、見ていてかなり不気味に思えてしまう。
「――いやぁ、参ったね。多分あの霧の魔物、属性相性かな。
矢とか剣に属性付与ができれば良いんだけど――」
「属性付与ですか……。私とルークは少し勉強中ですけど、まだ使えませんからねぇ……」
勉強中とは言っても、例の属性ナイフを使った上での話だ。
仮に使えるようになっていても、その属性ナイフで戦うか――と言えば疑問ではあるのだけど。
「私は一応、属性付与済みの矢は何本か持ってるんだけど、1回使ったら消えちゃうんだよ。
いざというときには使うけど、雑魚相手にはね……」
「そういう事情なら仕方ありませんよね」
いわゆる切り札というやつだろう。
準備をしていないのではなくて、物量的に多くを持っていけない。
仮にアイテムボックスを持っていても、使い回しが効かないならやっぱり使いにくいだろうしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ! 宝箱がありますよ!」
探索中にエミリアさんの指差す方を見てみれば、通路の片隅に宝箱が1つ置いてあった。
うっかりすれば見落としそうな場所だ。
「ひっそり感が半端ないですね。もちろん、見つけたからには取って行きますけど」
どれどれ、かんてーっ
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【宝箱の罠】
なし
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「珍しいですね――っていうか、初めてですね。罠なしですよ!
私が開けても良いですか!?」
エミリアさんがはしゃぎながら言った。
そういえば最初の宝箱も嬉しそうに開けていたっけ。
「それじゃお願いします」
「えへへ。最初の宝箱は後ろから開けたので、少し感動が足りなかったんですよね。
やっぱり前から堂々と開けたいじゃないですか♪」
うん、気持ちは何だか分かる。
やっぱり開けた瞬間、中身はすぐに目にしたいからね。
「いきますよー? はい、ぱかっとな!」
開けた瞬間、エミリアさんの動きが止まった。
「お……? 大丈夫ですか……?」
私の声に、エミリアさんが我に返ったように動き出す。
「わー、アイナさんやりましたよ! 本です、本が入ってました!」
「本……?」
エミリアさんは宝箱から1冊の本を取り出し、それを掲げながら全員に見せた。
うん、本だ。何の本だろう? かんてーっ
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【解毒の書】
水魔法『キュアポイズン』を修得できる魔法道具
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「お……。これが魔法を覚えられるようになるっていう魔法道具、ですか?」
「そうですそうです! なかなか汎用的な魔法のものが出ましたね!」
魔法を覚えられる魔法道具――そもそもこれが、ダンジョンに来たくなった最初の理由なんだよね。
ひとまずはその目標は達成したというべきだろうか。
今回は効果が汎用的すぎて、誰が使っても別に――という感じではあるけど。
「これの扱いも最後に決めましょうか。ダンジョンらしいものが出てきてまずは一安心です」
「でもまだまだだよねぇ……。もっとこう、私としては大物が欲しいから」
リーゼさんはまだまだご不満の様子だ。
うーん。残りも少なくなってきたし、もっと良いものが出てくれれば良いのだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、魔物を倒しながら何とか5階への階段があるスペースに辿り着いた。
いくつかのパーティが休憩を取っている中で、バーナビーさんたちの姿を見つけることができた。
「バーナビーさん!」
「あ、アイナさん。この階はどうでした?」
「いやぁ……。魔物に攻撃がなかなか効かなくて、エミリアさんがへとへとになってしまいました」
「さすがに5階の魔物は違いますよね?」
4階の主力だったエミリアさんが聞いてくる。
「はい、5階は魚の魔物だから安心して大丈夫ですよ。
触りすぎると生臭くなるので、そこだけ注意してください」
「生臭く……。それはそれで精神ダメージですね」
「風も吹いているから、臭いが移らなければ結構何ともないんですけどね」
「リーダー! もう時間だよー! アイナちゃんと話したいのも分かるけどさー」
「続きは夜にまた話そうぜ?」
「……悪い癖……自重しないと……」
バーナビーさんの話は特に長くなりそうでもなかったが、向こうのパーティの面々が賑やかにツッコミを入れ始めた。
何と言うか、今回はタイミングが悪かったのだろう。
「ああ、もう……。アイナさん、それでは私たちはもう行きますね。
順調にいけば5階の最後でお会いできると思います!」
「それでは私たちも、今日はそこを目標にしますね」
「はい、では後ほど!」
そう言うとバーナビーさんたちは5階への階段を下りていった。
――さて、私たちも昼食をとって、引き続き5階に向かうとしますか。




