143.循環の迷宮~3階①~
『循環の迷宮』探索の2日目、午後は3階からスタート!
階段を下りて3階にやってきた私たちの目に入ってきたのは、川だった。
川と言っても、用水路や小川くらいの大きさかな?
「1階は水源が何か所かあって、2階は水滴が滴っていましたが……ついに川ですね」
「その分、風は2階ほどは吹いていないようですね。
上から水滴が落ちてくることもなさそうですし、2階よりも過ごしやすそうです」
「確かに。川から魔物が現れない限り、濡れることは無さそうですね」
そう言いながら川を覗きこむと、何やら怪しい影が見えた。
「おっと、中に何かいるみたい」
「アイナ様、この階にはカエルの魔物がいるそうですよ」
「むむ、攻撃を受けたら濡れるね?」
「2階みたいな感じで戦えば濡れることは無さそうだけどね。ルークさん以外は」
リーゼさんがルークをちらっと見ながら言う。
エミリアさんとリーゼさんは遠距離から攻撃ができるし、私はそもそも戦っていないし、可能性があればルークくらいか。
「私は濡れるくらい大丈夫ですよ。気にしないでください」
「ルークさんがまともに攻撃を受けたのはまだ見たことが無いし、それにまだ3階だから大丈夫でしょ」
まぁ、確かに。
そもそもルークがまともに攻撃を受けたことって今までにあったっけ?
強いて言えば魔物ではないけど、『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』くらいなものだよね。
「それでは進みましょうか。
アイナ様、そこに見えた魔物はどうしますか?」
「せっかくだし倒していこうか。えぇっと――ここはエミリアさん?」
相手は水に潜んでいて、そしてこちらから攻撃を仕掛けるのだ。
ルークの剣も、リーゼさんの矢もあんまり水に浸けない方が良いよね? それならエミリアさんの魔法かなって。
「はぁい。いきますよー、シルバー・ブレッド――」
「「あ」」
「え?」
ザパアアアアンッ……!!
エミリアさんの魔法が川に撃ち込まれると、水を叩くような大きな音が周囲に響いた。
そして川の水は宙を舞い、風に流されて雨のように周囲に降り注ぐ。
……おかげで全員、それなりに濡れてしまった。
「ふぇ……?」
エミリアさんは困ったような顔で私の方を見る。
「こ、これは……?」
「あの魔法さ、案外当たる面積が大きいんだよね。
だからこう……水面を手のひらで思い切り叩く感じになっちゃうっていうか」
「あー……、それは水が飛び散りますねぇ……」
「水の中に魔法を撃ち込むなんて初めてでしたから……。でもまたひとつ、賢くなりました」
「すいません。濡れないで進めるところ、最初からやらかしてしまいまして……」
明らかな作戦ミス。
何も考えずにルークなりリーゼさんにお願いすれば良かった……。
「ま、こんなことはよくあるさ。
とは言えこのまま行くのも気持ち悪いから、少し乾かしていかない?」
リーゼさんの提案から、急きょ焚き火を起こして服を乾かすことになった。
その間にバーナビーさんのパーティも3階にやってきて少し気まずかったけど、そこは空気を察してさっさと先に進んでくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、気を取り直してダンジョン内を進む。
カエルの魔物とオタマジャクシの魔物を倒していると、川の中に宝箱が沈んでいるのを見つけた。
「――沈んでますね」
「沈んでますねぇ……」
「沈んでます」
「沈んでるけどさ、それって全員で言うこと?」
リーゼさんのツッコミをもらったが、結局リーゼさんも言っているのでおあいこだ。
「それじゃ、まずは罠を調べましょうか」
そういえば2階では宝箱は無かったからね。これが今日最初の宝箱になるわけだ。
かんてーっ
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【宝箱の罠】
水爆発
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「……みずばくはつ」
なにそれ?
罠の効果をかんてーっ
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【水爆発】
強力な水柱と水飛沫を上げる
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……はぁ。
これはダメージを与えるというか、相手を濡らすだけの嫌がらせ?
いや、濡れたままにしておくと体温も奪われるし、そういった罠……なんだろうかなぁ?
「でもそもそも、川に沈んでるわけですよね? そこに行くまでに濡れるわけだから、あまり効果のある罠でも無さそうな……?」
「川に入らない人が油断していなければ、そうですねぇ……」
ああ、水飛沫が思い切り上がったらさっきみたいに濡れちゃうのか。
とすると今回は前回の教訓を活かして濡れなくて済むかもしれないから、さっき濡れたのは無駄じゃなかったんだね!
……いや、どちらにしても濡れる回数は1回か……。
「それではここは、私がいきましょう」
名乗りを上げたのはルークだった。
水着とかがあれば私がいっても良いんだけど、残念ながら持っていないし。ここは素直にお任せしよう。
「ごめんね、お願いできる?」
「はい。ではできるだけ脱いでいきますので、魔物が現れたら援護をお願いします」
ズバパアアアアンッ!!
ザ――――ッ
ルークが川に入って宝箱を開けた途端、そこを中心に巨大な水柱と水飛沫が上がった。
それは見事なまでの水柱で、頂点に達した水たちはゆっくりと水滴となって雨のように降ってきた。
「――うわぁ、凄い……。ルークは無事?」
雨を避けるようにして、私たちは少し離れた壁の影に隠れていた。
遠くに見えるルークはさすがに倒されていたが、怪我は特に無いようだった。魔物の姿も特に見えないし、問題無しかな。
しばらくするとルークは宝箱の中に手を入れ、そしてこちらに戻ってきた。
「凄い水柱でした」
「こっちから見てても凄かったからね……。痛くなかった?」
「水圧に負けて転んでしまいましたが大丈夫です。分かっていれば、結構面白かったですよ」
ルークはそう言いながら、小さな石を1つ渡してくれた。
私はそれを受け取りながらタオルを渡す。
「うん、ありがとう。冷えないうちに拭いちゃってー」
「はい、ありがとうございます」
「それで、この石は何でしょう? 宝石とは少し違うみたいですけど」
それじゃ早速、かんてーっ
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【水の封晶石】
水の力を増幅させる結晶体。高度な製造で使用する
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「――おっと、封晶石だ」
封晶石と言えば、以前ジェラードがミスリルを手に入れたときに『光の封晶石』をもらってきたことがあったよね。
今回は水だから、2属性目ということになるかな。
「へぇ、案外貴重なものも手に入るんだね。私は使わないけど、その石は結構な値段で売れるよ」
「売るなら私が買い取りたいですね。まぁ、それも最後にしましょう」
「了解。さて、それじゃ先に進もうか」
リーゼさんは封晶石にもあまり興味を示さなかった。
どれくらいのものなら喜んでくれるんだろう? 何となく、そんな興味が少し湧いてきた。