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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
141/911

141.循環の迷宮~1階③~

「アイナ様、設営が終わりました」


「おお、早いねー!」


 報告を受けながらルークの視線の先を見ると、テントの設営が早くも終わっていた。

 さっきお願いしたばかりなんだけど――でもしっかりできているようだし、そういう経験が豊富なのかな?


 ちなみに私はと言えば、周りのテントに軽く挨拶しに行ったあと、今はエミリアさんと食事の準備をしているところだった。


「――ふぅ、ただいま。あれ、テントはもう張り終わったの? 手伝おうと思って急いで戻ってきたのに」


 近くの水源に水を汲みに行ってもらっていたリーゼさんも戻ってきた。

 もう少しゆっくりしてきてもらっても良かったんだけど、根はやっぱり真面目な人なんだね。


「……ところでさ、テントって2つなんだね?」


「そうですね、広さは問題無いと思いますよ」


「あ、うん。広さはね。

 ……それで多分、2人ずつなんだよね? どういう割り振りになるの?」


 え? そりゃ私とエミリアさんでしょ? あとはルークと――


「「あ」」


 私とエミリアさんの声がハモる。


 むむ、さすがにルークとリーゼさんを一緒にはできないよね。

 一緒にダンジョンを進む仲間とはいえ、会って間もない男女なんだから。


「私はルークさんと一緒でも大丈夫ですよ?」


 エミリアさんはいろいろと察しながら言ったが、ルークは申し訳無さそうに続けた。


「あの、お気遣い頂いて大変ありがたいのですが、私は外で大丈夫ですので」


「え? いやいや、長丁場だからルークもちゃんと休まないとダメだよ?」


 ルークの思わぬ発言に慌てて指摘する。

 戦闘の要でもあるんだし、むしろ一番休んでもらわないと。


「いえ、夜番もしなくてはいけませんので――」


「そういうのって分担でやるものじゃないの? さすがにひと晩中――それに、5日くらいはダンジョンにいるからね?」


「……では1つをリーゼさんに、もう1つは残りの3人で使いましょう。

 リーゼさんが夜番をするときには、もう1つの方は私がお借りします」


「あら、それで良いの? 何だか私、1つを占拠してるようで申し訳ないんだけど……」


「リーゼさんも、その方が落ち着けますかね? 私たちはそれでも大丈夫ですので」


 思わぬ提案にリーゼさんも最初は困惑していたが、結局その方向で話はまとまった。

 それにしても、こういうことをルークが率先して決めるのも何だか珍しいなぁ。

 やっぱり野営の経験が豊富? なところからなのかな。


「――さてと。食事の準備はもう少し掛かりそうなので、お2人はしばらくゆっくりしていてくださいな」


 私とエミリアさんは再び夕食の準備に戻った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ダンジョンの外で買ってきたお料理をアイテムボックスから出すと、まだほんのりと温かかった。

 アイテムボックスはレベル50以上で時間の流れが停止するからなんだけど、つまり保温性能がとんでもなく高いということなんだよね。


 とはいえ少しは冷めているから、起こした焚き火で温め直してっと……。

 そうこうしているうちに、良い匂いが周囲に漂ってきた。


 うーん、これは美味しそうだ。

 いろいろあったけど、しっかり準備してきて良かったかな?

 そんなことを思っていると――


「……うわぁ、凄いなあそこ。こんなところであんな料理を出してるぞ……」

「本当だ……。あの子、うちのパーティに来てくれないかなぁ……」

「ジョン、見てはダメよ。うちの食事は干し肉なの……」


 ――何だか周囲から聞こえてきた。

 今いる場所は『循環の迷宮』の2階への階段があるスペースだ。

 他のパーティもいくつか野営しているのだけど、そこで美味しそうな匂いを立ててしまえばこうなるのは仕方ないか。


 ……でもさすがに見ず知らずの人に分けるわけにもいかないし、ひとまず無視しておこう。

 うん、それが良いよね。


「むむむ。アイナさん、私たち注目を集めてますね」


「お料理を準備することに夢中で、こういう反応になるのは完全に見落としてましたね。

 でもどうしようも無いので、気にせず美味しく頂きましょう」


「あはは、そうですね!

 ではそろそろ準備もできましたので、お2人を呼んできますね」


「はい、お願いしまーす」


 エミリアさんは2つのテントに声を掛けにいった。

 ちなみにテントの方では、中の荷物の整理などをしていたようだ。

 休んでて良かったのに。みんな真面目くんだね!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――それでは頂きましょう!」


 それぞれが思い思いの挨拶をしてから夕食が始まった。

 今回は早速、錬金術師ギルドの食堂で作ってもらったププピップ料理だ。


「……うわ、何これ。美味しい」


 最初に感想を零したのはリーゼさんだった。

 そういえばこのお肉は初めてなのかな?


「これ、ププピップのお肉ですよ。美味しいですよね!」


「え? ……今、なんて?」


「ププピップです、ププピップ」


「……聞き直しても分からないや。何それ?」


「あはは。えっとですね、ある錬金術師が研究しているっていう豚なんです」


「へぇ? 錬金術師が、肉を? 私のイメージと何だか違うなぁ……」


「そういう分野もあるんですよ。バイオロジー錬金と言いまして」


「なるほど? ま、難しいことは良く分からないけどとにかく美味しいよ。

 アイナさんたちが料理にこだわりを持っていたのも何だか分かるな」


「こだわりっていっても、準備を始めたのは前日からなんですけどね……」


「あれ、計画性は案外無かったんだね」


「残りの2件も探すのは苦労しましたしね。でもそのおかげでお料理はまだまだありますから、しばらくは新しいメニューが楽しめますよ!

 ……さすがに後半は2度目3度目になるでしょうけど」


「それは全然、文句を言うところではないよ。

 こんな美味しいものをダンジョンの中で食べられるだけで、もう文句どころじゃないからね」


 確かにそれは、周囲のパーティの様子を見れば何となく分かる。

 未だにちらちらと視線を感じているからね。


「今は周りの目が少し気になりますけど、下に行けば他のパーティの数も減っていきますよね?」


「うぅん、どうかな? 普通の冒険者が満足に探索できる場所なんてある程度決まっているし……」


「そうですね。さすがに10階より下はかなりの冒険者じゃないと厳しいそうですが――

 私たちは5階までの予定ですし、そこら辺だとまだあまり減らなそう……?」


「なるほど、下手したらずっとこんな感じで注目を浴びるわけですね。

 ……あ、野営する場所を他のパーティと少し離すっていうのはどうでしょう?」


「うーん。基本的には他のパーティと近い場所にいた方が安全なんですよね。

 魔物が襲ってきても、協力して倒すなんてこともできますし」


「確かに。――それならまぁ、気にしないで野営しちゃいましょうか。

 もしアレなら、少しくらいお裾分けしても良いかもですし」


「それは良いですね。それなりにお料理は作ってもらいましたし――」




 食べ終わってからしばらく雑談したあと、今日はもう早々に寝ることにした。

 まだ初日だし、最初から無理をしても仕方ないからね。


 夜番の順番は毎日少しずつ変えることになったけど、ひとまず今日はエミリアさん、ルーク、リーゼさんの順番になった。

 私はよくよく考えたら戦闘力が無いわけで、夜番の担当からは外されてしまった。


 でもその代わり、食事の準備と後片付けは全部受け持つことにさせて頂いた。

 回数が多いは多いんだけど、夜中は楽だから――やっぱり申し訳無いんだけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >やっぱり野営の経験が豊富? なところからなのかな いや、ルークは主人公の従者?騎士?として、 あまり目を離したくないから、 主人公のテントを監視しながら外で寝るか、 テントを使えと言うな…
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