139.循環の迷宮~1階①~
今日はついに『循環の迷宮』を探索する初日!
まずは朝にリーゼさんと合流して、そのまま錬金術師ギルドに依頼品の納品に向かった。
例のごとくダグラスさんには早さを驚かれたものの、今日は新しい依頼を受けないで終了。
しばらく王都を離れる旨をダグラスさんに伝えると、ダンジョンから戻ったらすぐに錬金術師ギルドまで来るように言われてしまった。
他のS-ランク以上の錬金術師さん、もう少し依頼を消化してくれませんかね……。
そういえば錬金術師ギルドの職員の人とは話すようになったけど、肝心の他の錬金術師とは未だに接点が無いんだよね。
いろいろと話も聞きたいし、そろそろ同職の知り合いも欲しいところだ。
そして依頼報告のカウンターを離れたあとは、錬金術師ギルドの食堂と、お料理をお願いしたお店2軒を巡った。
リーゼさんはそのこだわりっぷりに少し呆れ気味だったけど、ダンジョン内でちゃんとした食事を毎回とれると聞くと満更ではない様子だった。
食事は癒し。それは彼女も理解しているのだろう、多分。
そのあと私たちは王都を出て北へ向かい、そして今――
「『循環の迷宮』に到着! うーん、約1週間ぶりですね!」
「そうだね。アイナさんたちと出会って、もうそんなに経つのか。
……ほとんど別行動だったから、特に感慨深くもないけど」
「ま、まぁそうかもですね……」
リーゼさんはいつも通りどこかクールだ。
言ってることもその通りだから、何というか反応がしづらかったりするのだが。
「さてと、今はお昼前ですけどこれからどうしましょう。もう入っちゃいます? それともお昼を食べてからにします?」
「食べてからだとまた時間を使ってしまいますし……。
1階はそんなに敵も強くないですし、少しゆっくり目で進んでみませんか?」
「うん、私もそれが良いと思うな。王都からここまで歩いてきただけだからね、休憩はまだ要らないよ」
エミリアさんとリーゼさんは進むことを希望した。
ルークをちらっと見ると、問題無いように頷いていた。それならもう進んでしまおう。
「では進むことにしましょう! ……ところでリーゼさんは、ダンジョンは今日が初めてですか?」
「いや、このダンジョンの1階を少し入ったところまでは様子見で行ったことがあるよ。
魔物とは1回戦ったくらいだけどね」
「なるほど。それじゃまったくの新人は私とルークだけですね」
「そんなに変わりはないよ? 1匹倒して戻ってきただけなんだから。
――それじゃ、さっさと進もうか」
「はい! 気を付けて進みましょう!!」
私たちは『循環の迷宮』の入口――神殿の入口のような大きな門をくぐって内部に入った。
中は早々に広大な空間が広がっており、先へ続く道が遠くの壁にいくつかあるのが見える。
壁は岩が剥き出しになっており、何となく青白い光を放っていてどこか神秘的だ。
そのうっすらとした光の割には内部は明るく、不思議な輝きがダンジョン内を満たしていた。
「――何だか幻想的な場所ですね」
「そうですね、これで魔物がいなければ平和なんですけど――」
「いやいや、魔物を倒すのも目的のひとつだよ? ちゃんと良いアイテムを回収していかないと!」
リーゼさんがエミリアさんにツッコんだ。
ダンジョンに来たのは散歩するためでは無いからね。
「ちなみに1階の魔物はまだ強く無いんですよね? どんな魔物がいるんでしょう」
誰とも無しに聞くと、リーゼさんが遠くを指差した。
「最初は狼のような魔物だね。私も前回、あれを1匹だけ倒したよ」
「ふむ……。アイナ様、あれは私が先日倒してきた魔狼と同じです。一応速さはありますので、ご注意ください」
「ふぅん? ルークさんはあれの討伐依頼を受けたんだ?」
「はい。そのときは120匹ほどいましたが――」
「えぇっ!? そんなに!?」
「ルークは50匹くらい倒したんだったよね」
「はい。ジェラードさんがもう50匹、他の方が20匹でしたね」
「ルークさんって強いんだねぇ……。あれを50匹か――」
「それじゃ魔物には申し訳無いですけど、見つけたらどんどん倒していきましょう。
ルークとリーゼさんがメインで攻撃して、エミリアさんは支援とフォローをする感じでお願いします」
「「分かりました」」
「……あれ? アイナさんは何をするの?」
「私ですか? 私は荷物持ちと食事当番ですよ!」
「あ、そういう感じなんだ……」
「快適な休憩時間を提供します!」
私はきっぱりはっきり、リーゼさんに言い切った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ザンッ!
ルークの剣が走る。
まずは1匹目――襲い掛かってきた魔狼をルークが斬り飛ばした。
魔狼は息絶えたあと、しばらくすると淡い光に包まれて消えてしまった。
「……あ、あれ? 魔物が消えちゃった……?」
「アイナさん、ダンジョン内の魔物はダンジョンが作り出しているんです。
それなので、倒してからしばらくするとダンジョンの力の流れに戻っていってしまうんですよ」
「そうなんだ……? あれ? そうすると魔物の身体の一部を持ち帰るっていうのは――」
「欲しい部位があれば切り離せばちゃんと残りますよ。
ちなみに倒したあと、解体作業中には魔物が消えることはありません」
「ずいぶん優しい設定になってるんですね……」
「あはは、ダンジョン側としては多くの人間に来てもらいたいわけですからね。
人間がここを訪れるのは宝箱や魔物の身体の一部のためですから、きっと親切な感じにしているんでしょう」
「なるほど……?
ちなみに逆の立場で言うと、ダンジョンとしてはここを訪れた人間を栄養にしたいわけですよね?
私たちがダンジョンの中でやられると、さっきの魔物みたいに消えちゃう……?」
「はい、ここで死ぬとそうなりますよ。
でもダンジョンにとってはここを訪れる人間は異物ですから、さっきの魔物みたいにすぐには消えないはずです」
「そうなんですか……。
改めて聞くと、何だか怖い話ですよね。消えるってそんな――」
「アイナさん、消えるのは死ぬことが前提だからね? 死んだらどっちみち終わりだよ?」
リーゼさんが事も無しに言う。まぁ確かに、死ぬのが前提であるならそんなに怖くは無い……のかな?
「それとですね、魔物が消えたあとにアイテムだけ残る場合があるんです。
通称『ドロップ』というやつですね」
そう言いながらエミリアさんは、魔物が息絶えた場所で何かを拾った。
魔物を倒したらそこに何か落とす。なるほど、それはまさしくゲームっぽい感じだ。
「エミリアさん、今ドロップを拾ったんですか?」
「はい。大したものでは無いと思いますけど――」
エミリアさんはそう言いながら、手のひらに乗せたものを私に見せてくれた。
どれどれ、かんてーっ
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【小石】
小さな石
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「……アイテムっていうか」
鑑定ウィンドウを見ながら感想にならない感想を漏らす。
「あはは、こういうものもドロップするみたいですね」
「どう見てもハズレだよね。
ハズレをいちいち気にするのも面倒だからさ、魔物を倒したら私かアイナさんが鑑定していくことにしようか?」
「あ、それなら私が全部やりますよ。リーゼさんは戦いに集中して頂いた方が良さそうですし」
「それじゃそうしよっか。鑑定スキルはアイナさんの方がレベルも高いもんね。
うん、適材適所で進もう」
「はい、こういうのはお任せください!」
一息ついてから、私たちは引き続きダンジョン内を歩き始めた。
よーし、ここからが本番だー!!