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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
129/911

129.ルークの苦労話

「今日は例の武器屋の本店に行こうとしたのですが――」


 ルークは今日の出来事を話し始めた。

 私は錬金術師ギルド、エミリアさんは大聖堂に行っている間の話だ。


「まず場所がうろ覚えでしたので、先日行ったお店に立ち寄ったんです。

 詳しい場所を聞いてから行こうと思いまして」


「うん。確か歩きだと、そのお店から1時間半くらい掛かるんだよね?」


 さすがにその距離だと不安になるよね。

 少し方向を間違えたら時間もロスするし、その挙句に辿り着けないなんてこともあるだろうし。


「はい。それで本店の場所を聞いてそのお店から出たら――」


「出たら?」


「女性が突然、体当たりをしてきたんです」


「ちょっと待って」


「はい」


「……何だかその話、聞き覚えがあるんだけど」


「以前……クーポン券で熊のぬいぐるみを交換してきたときですね。あのときも同じことがありました」


「ああ、それと混同してるわけじゃないんだね。

 ごめんね、続きをどうぞ」


「何でしょうね? ルークさん、体当たりされたい顔でもしてたんですかね?」


 それってどういう顔。


「それでまた、今回もとっさに避けたんですけど……驚いたことに、前回と同じ女性だったんです」


「確信犯だ」

「確信犯ですね」


「前回は手を貸して起こしたのですが、今回はどうにもそんな気分になれなくて……申し訳無いのですが、逃げました」


「あはは……。それは仕方ないんじゃないかな、怖いし……」


「まったく怖いですね。不気味と言いますか……」


「走ってる最中に大きな声で名前を呼ばれたので、周りの人がみんなこっちを見てきて……あれは恥ずかしかったです」


 ああ、その気持ちは分かるなぁ。

 私も錬金術師ギルドでテレーゼさんに何回も大声で呼ばれて恥ずかしかったし……。


「それでそのあと、急いで馬車に乗ったんです。

 いや、乗り合い馬車は何回も乗りましたけど、街中を走る馬車も良いものですね。

 まだ王都に来たばかりなので、少し観光気分も味わえました」


「へー、それは良いかも。機会があったら私も乗ってみようかな」


「大聖堂のような感じで、いくつかの建物は観光地のようになっていますからね。

 それも良いと思いますよー」


 エミリアさんは現地の人だからもう観光気分はあまり味わえなそうだけど、みんなで回ってみるのも良さげだなぁ。

 王都はかなり広いから、歩きだけでいろいろ回るのも大変なんだよね。


「それで、しばらく馬車に揺られて目的の場所に着いたんですが、そこでまた驚いてしまいました」


「え? 武器屋の本店で何かあったの?」


「いえ、お店の前にですね……体当たりをしてきた女性がいたんです」


「「えっ!?」」


 何それ、怖い。え? ホラーなの? 白昼のホラー? うわ、怖い。


「彼女の後ろにはお付きの方がいたので――どこかのお金持ちのご令嬢なのかなと思うんです。

 やはり服装も、前回同様で高貴な感じがしましたし……」


「いやぁ……いくら高貴な方でも、それはどうだろう……」


 いわゆるストーカーっぽいよね。生まれる世界があれだったら犯罪だよ?

 ……この世界はそこまでいってなさそうだけど。


「それでどうしたんですか?」


「はい、私もさすがに少し固まってしまったんですが――その間に、今回は礼儀正しく挨拶を頂きました」


「へ、へぇ……? 話せる人で良かったね……?」


「アイナさん、実力行使でダメだったから変えたんじゃないでしょうか……?」


「そう考えるとやっぱり残念な方のような気はしますね……」


「それで、お茶に誘われました。

 ただ相手の素性も分かりませんし、そこはお断りしました」


「うわぁ、積極的ですね! でもルークさん、上手くやれば玉の輿じゃないですか?」


「私は人生の最後まで、アイナ様をお護りしますので。

 そういうのは求めていないですよ」


「……アイナさん、今のは告白なんですかね?」


「いえ? そういう話で主従関係を結んでますから」


「はぁ……。やっぱりそういう関係なんですねぇ……」


 はい、最初からそうです。何でそんな残念がるんですか。

 とはいえ、私としてはそんなに厳密な主従関係のつもりはなくて仲間のつもりだから……もし途中でお別れを切り出されたら、引き留めはするけど拒否するつもりは無いよ。

 そもそも寿命が完全に違うわけだからね。ずっと連れまわしてたらルークも結婚とかできなくなっちゃうし。


「――それで、諦めてくれたの?」


「お茶は諦めてくれましたけど……何だかんだで武器を見ている間、ずっと側にいましたね……。

 お付きの方も3人いたので、気が気でなかったです……」


「……3人もいたんだ。それでそのお嬢様、結局何者だったの?」


「最後まで教えてくれませんでした……。そもそも名前も教えてくれないんですよ。

 お付きの方からは無礼を働くなと散々言われましたが、正体が分からないのであれば無礼も何も無いかと思いますし……」


 あ、ボヤいた。でもそれは確かにその通りだよね。


「それじゃ、次に会う約束とかはしなかったんだ?」


「ええ、私としては興味がありませんので。むしろそっとしておいて欲しいと言いますか……」


 うーん、結局何なんだろうね?

 ルークのことを気に入ったんだろうけど……それにしては挙動不審というか。

 次いつ来るかも分からないし、そういう意味では強い印象を残すテクニックと言えなくも無いけど、果たして――



「話は聞かせてもらった」


「「「え?」」」


 突然割って入ってきた言葉の主を見ると、そこにはジェラードがいた。


「ジェラードさん、いつの間に!?」


「ルーク君の話が始まったすぐ辺りかな。なかなかドラマチックな内容だったから聞いていたのさ」


「あー、ジェラードさんはこういう話好きそうですしね。それに強そうだし」


「ふふふ、上手くいこうがいくまいが、そこには男女の駆け引きがあるものさ……」


「いえ、私はそういうの求めていないんですが」


 ルークはジェラードに少し疲れた顔で言う。

 下手にトラブルを抱えると、私たちとの同行にも影響が出るかもしれないしね。


「ふむ……。そうだ、そういえばルーク君と少し出掛けてみたかったんだよ。

 ほら、例の武器屋の試し切りのブースの件とかもあるし。

 アイナちゃん、明日はルーク君を借りても良い?」


「構いませんけど、私とエミリアさんは大聖堂に行く予定があるから――明日は分かれて別行動にしますか?」


「うん、ごめんねぇ。それじゃルーク君、明日はよろしく」


「ご、強引ですね……。しかしアイナ様が良いというのであれば問題ありません。お付き合いいたしましょう」


 これはなかなか珍しいパターンだ。

 私とエミリアさん、ルークとジェラードの2人組か……。


「それじゃ私はエミリアさんと2人でお出掛けですね!」


「レオノーラ様もいますけどね……! 明日はしっかり勉強してきましょう!」


「そうですね、お勉強お勉強!」



 明日は遊びのような勉強のような。

 でも装飾魔法を覚えるのは王都での目的の1つだったし、ここは真面目に頑張ろう。

 あとでルークにも教えてあげないといけないしね。

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