128.いつもみたいな夜
バチッ
「――っと、こんなもんかな? かんてーっ」
----------------------------------------
【高栄養飼料(S+級)】
栄養価がかなり高い飼料。
肉質に高い補正を得る。
※追加効果:肉質×2.0
----------------------------------------
……よーし、ちゃんとできたね!
宿屋に戻った私は、早々に依頼の品を完成させることに成功した。
そういえば提供された作り方によると、本来は時間が1か月くらい掛かるみたいだけど……納品するのはいつにしよう。
真面目に1か月を待っても良いんだけど、そうするとその間は依頼をくれないかもしれないし……。
気にしないでさっさと納品しちゃっても大丈夫かな?
アイテムボックスの中は時間が止まるけど、逆に速める環境もあるんだよ――みたいな説明で納得してもらえないものだろうか。
一応私もS-ランクの錬金術師なのだから、立場的には全世界の上位20人には入っているのだ。
それくらいの実力者なのだから、そういうことも本当にあるのかもしれない――そんな風に思わせられたら勝ちだよね。
「さてと、もう1件もやっちゃおう。まずはかんてーっ」
----------------------------------------
【思い出の指輪】
熟練の職人が技術を注いで作った指輪。
かなりの年月を伝えられている
----------------------------------------
私は錬金術師ギルドで受け取ったアクセサリ――指輪を鑑定した。
なかなか良さそうな逸品である。そして今までアーティファクト錬金をやったことが無いことも確認できた。
それじゃいってみよう! れんきーんっ
バチッ
そしてかんてーっ
----------------------------------------
【思い出の指輪】
熟練の職人が技術を注いで作った指輪。
かなりの年月を伝えられている
※錬金効果:精神力が1%増加する
※追加効果:精神力が1%増加する
----------------------------------------
……よし、これもおっけーかな?
でも依頼は『できるだけ良い錬金効果と追加効果を付けたい』なんだよね。
これ以上良いものと言われると、ステータスの種類の好き嫌いとか、特殊な錬金効果狙いとかになっちゃうからなぁ……。
結構好みが入ってくるし、ひとまずはここまでにしよう。何か言われたらもう一度挑戦してみるということで。
「――というわけで終了っと。5分も掛からなかったね」
素材を提供してもらえる以上、あっさりと終了するのは約束されている。
いくらS-ランク以上の依頼であっても、どれだけの難易度があっても何ら問題は無いのだ。
「さて、夕食の時間までにはもう少しあるか……」
ルークもエミリアさんも戻ってきていないようだし、ジェラードやリーゼさんは部屋が遠いからいるのかいないのかは分からない。
無駄足になっても嫌だし、もう少しゆっくりすることにしよう。
そういえば魔法の練習――マナの集中と操作も練習しないといけないか。
王都に着いてからは夜に少しやってるくらいだけど、できることは日々やっていかないとね。
ルークも毎日練習しているようだし、そういう姿勢も負けてなるものか。
うん、うちのパーティは真面目くん揃いで素晴らしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつもの時間――19時前になると、ルークとエミリアさんが戻ってきたようだった。
時間厳守、こういうところも真面目くん揃いだなぁ。
私が部屋を出ると、ちょうどルークも部屋から出たところだった。
「おかえりー」
「ただいま戻りました。アイナ様は早くに戻られていたんですか?」
「うん。戻ってきていろいろと――ああ、ここら辺はあとでお話しようかな」
「……私もいろいろありましたので、のちほどお話を」
そんな話をしているとエミリアさんも部屋から出てきた。
「お2人ともお帰りなさいー。お腹空きました! 早く食堂にいきましょー」
「あー、何だか日常を感じますね」
エミリアさんの言葉を聞いて、何か落ち着いてしまう。
王都やら錬金術師ギルドやら、新しい環境は何だかんだで疲れるものだ。
でもこの3人が集まると気持ちがとても楽になる。
あ、ジェラードを入れて4人でもセーフ。……アドルフさんを入れて5人だと……どうだろう。
「何だかんだで付き合いも長くなってきましたからね。私もこのメンバーだと落ち着きます」
「私もです! ささ、ご飯ご飯♪」
うん。そういうところが落ち着くんですよ、エミリアさん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食堂で注文をしてから一息つく。
ジェラードとリーゼさんはいないようだった。
「――さて、今日あったことでもお話しましょう!」
「そうですね、アイナ様からどうぞ」
「え、私から確定なの?」
「やはり最初はアイナさんでしょう!」
「は、はぁ……」
私としては最初で固定されるとそれはそれでちょっと嫌なんだけど……まぁいいか。
「えっと、今日は錬金術師ギルドで調べものをしてきました!
成果はぼちぼちだったけど――でも欲しい情報は少なかったかなぁ」
まだ旅の目的――神器を作ることは話していないから、そこら辺は省略。
賢者の石で1冊、神器作成で1冊の合計2冊。本の数自体が少なかったということを話した。
「……というわけで王立図書館の資格が欲しくなりましたね。
エミリアさんに全部覚えてきてもらうわけにはいきませんし」
「さすがに本を一冊丸々というのは……無理ですね……」
「とりあえず資格に繋がらないかなということで、錬金術師ギルドの高ランクの依頼を全部で3つ受けてきたんですよ」
「3つもですか? それって時間が掛かりそうです?」
「あ、いえ。1つは納品済みで、2つはさっき作り終わりました」
「「さすがです」」
「その2つもあとは納品だけですね。
――あ、そうだ。錬金術師ギルドの食堂で、美味しいお肉があったんですよ」
「え? お肉?」
「ププピップという豚らしいんですが、錬金術で研究しているそうでして」
「へー、錬金術ってそんなこともしているんですねぇ……。
なるほど、一般のお店であれば耳にも入ってきそうですけど、錬金術師ギルドだけとなれば……ぐむむ」
「ギルドに所属していない人でも食堂は使えるので、今度いってみませんか?」
「ぜひとも! 明日ですか?」
「早いです」
「ぐむむ……」
「まぁ機会がありましたら早めに行ってみましょう。
私はそれくらいかな。図書室は本を探すのと読むので大体終わっちゃいましたし」
「――失礼します。お食事をお持ちしました」
ちょうど話の切れ目に注文した食事が運ばれてきた。
狙ったものなら大したものだけど、まぁそんなことは無いか。
「さて、それじゃ次は私がお話しますね!」
えい、とお肉を一切れ口に入れてからエミリアさんが話し始めた。
「私は大聖堂で、自分の部屋を片付けてきました! もう手前の部屋は大丈夫ですよ!」
……奥の部屋はダメなのね。多分いろいろとそっちに詰め込んだんだろうなぁ……。
「それでは次に大聖堂に行ったときに伺いましょう。明日ですか?」
「ぎゃふん」
「アイナ様、早いですよ」
「そう?」
「……えぇっと、あとはスケジュール的なお話をしてきました。
大司祭様から、王様への謁見は3日後の午前と伺いましたよ」
「わ、結構早い」
今日から3日後の午前ということは、明日と明後日の中2日があって、そのあとだよね。
案外時間は無いものだ。
「それとレオノーラ様と装飾魔法の話をしてきたのですが、『ちんたらしてるんじゃないわよ! 明日で良いわね!』……と押し切られてしまいました……」
「おおう、さすがレオノーラさん、容赦無い……。っていうか、本当に明日じゃないですか。
私は問題無いですけど――ルークはどうする? 一緒に教えてもらう?」
「そうですね、私はまだマナの操作ができませんので……。
レオノーラさんにはご迷惑をお掛けできませんし、あとでアイナ様に教えて頂くことは可能ですか?」
「私は大丈夫だけど……。うーん、それじゃそうする?」
「レオノーラ様は気にしなそうですけどね……。
私からはそれくらいです! 大体お掃除でしたので」
そう言うと、エミリアさんは視線をルークに送った。
「では次は私ですね。
――はぁ……」
む?
ルークの話が溜息から始まるなんてずいぶん珍しいね。
一体何があったのかな……?




