表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
125/911

125.『神器作成』という本

「アイナさーん! おはようございまあああすっ!!」


 錬金術師ギルドを訪れた瞬間、テレーゼさんの声が響いた。

 他にも人がいたのだが、一斉に振り向かれてどきっとしてしまった。


「ちょ、ちょっとテレーゼさん! 恥ずかしいので大声で名前を呼ばないでください!」


「す、すいませぇん……。

 それでアイナさん、今日は何のご用でしょうか!」


 心持ちシュンとするテレーゼさんではあったが、次の瞬間にはもう復活していた。

 この図太さ、結構羨ましい。


「今日は図書室を早速使おうかなと思いまして。

 受付じゃなくて図書室で手続きをすれば良いんですよね?」


「はい、その通りです!」


「それじゃ、ありがとうございました」


「――えっ!? もう行っちゃうんですか!?」


「だってお願いすることはありませんし、テレーゼさんはお仕事中じゃないですか」


「大丈夫ですよ! お話しましょう!」


 少しくらいなら良いかもしれないけど、このままいくとズルズル時間が潰れて、最終的に私も何となく怒られる未来が見えるなぁ……。

 そんなことを考えていると、カウンターの奥にテレーゼさんの上司――ダグラスさんが歩いているのが見えた。


「ダグラスさーん、おはようございます!」


「おう! おはよう、アイナさん! ……もしかして、またテレーゼが何かやったのか?」


 早速そんなことを言うダグラスさん。

 まだやってはいないけど、このままだと危険な空気を察したので声を掛けさせてもらいました!


「あはは、そんなことはないですよ! ……ねぇ、テレーゼさん?」


「は、はい……」


 テレーゼさんは近くにやってきたダグラスさんを見ながら、少し縮こまっている。

 会うのはまだ2回目だが、彼女の扱い方がすでに分かってしまった。


「それで、アイナさんは今日は何の用だ? もしかして早速依頼を――」


「あ、今日は図書室を見にきたんです。依頼は……うーん、あとで見せてもらいますね」


「S-ランク以上の特別なものもあるからさ、そういうものも引き受けてくれると助かるんだよなぁ……。

 それは掲示していないから、俺に話し掛けてくれな」


「テレーゼさんではダメなんですか?」


「本来はテレーゼの仕事なんだけど、何かやっちまいそうでな。俺が担当になっているんだ」


 錬金術師ギルド内でもそういう扱いなのね……。

 悲しいことに、納得感は凄まじいのだけど。


「それでは帰り際に伺いますね」


「おう、アイナさんも調べ物を頑張ってな」


「い、いってらっしゃい~」


「はい、お2人ともまたあとで」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 手続きをして図書室に入ったあと、さらにその奥の特別な部屋に案内してもらった。

 ここは選ばれし者! S-ランク以上の錬金術師のみが立ち入ることのできる部屋なのだ!

 ちなみに特例として、掃除をするために職員が入ることもあるらしいけど――本を読むことは許されていないし、入ることができる職員も限られているとのこと。


「私の人生史上、そんな場所に立ち入ったことがあっただろうか――いや、ない」


 久し振りの反語を使いつつ、部屋の様子を眺める。

 落ち着いた図書館の一室……という感じで、街の音がたまに聞こえるくらいの静かな部屋だった。

 大きさはそこまで広くは無いものの、それなりの数の本棚と、4箇所ほどにテーブルと椅子が置かれている。


「くぅ~! この特別感! さいこーっ!」


 とりあえず適当に本を取り、椅子に座ってみる。

 何ともそれだけで名のある錬金術師になったような錯覚を覚えてしまうというものだ。……いや、実力はあるはずだから、間違ってはいないと思うけど。


 ぱらぱらと手元の本をめくってみれば、難解な図式と圧倒的な文字数による文章が書かれていた。

 めちゃくちゃ専門的な本――そんな感じが伝わってくる。


「よーし、分からないぞ!」


 本の表紙を確認してみると『魂の構成と再現』……なんていうタイトルだった。

 いや、だからこういうのは手を出しませんから! そんな感じで何となく自分にツッコミを入れる。


 正直なところ、ここで調べたいのは『まだ知らない何かは作れるかな?』ということであって、理論や仕組みでは無いのだ。

 そういうのは私は全部スキルですっとばすことができるからね。


 そして今のところ作りたいのは神器と賢者の石くらい。

 よし、早速探してみよう。


 難解な本のタイトルとにらめっこしながら探すこと15分、賢者の石について書かれた本を見つけることができた。

 さすが高ランク用の図書室、あっさり見つかるものである。


 その本を開くと――まずは必要な素材が書かれていて、そのあとは製造の仕組みや理論が細かく書かれていた。

 よくは分からないけど、何だかとても高度な手順が要るようだ。


 でもよくよく考えると私の錬金術のレベルは間違いなく99なんだから、レアスキルの『工程省略<錬金術>』が無くてもいろいろと作れるはずなんだよね?

 そんなことを思いながら改めて読んでみると、何となく理解できた気はした。気のせいじゃないことを祈ろう。

 そのうち『工程省略<錬金術>』を使わないで何か作ってみるのも良いよね、経験的な意味で。


「ま、それは後回しにして、賢者の石に必要な素材は――」


 ・竜の血

 ・七色の水

 ・精霊の雫

 ・秩序の炎


 ――とのこと。

 今持っているのは『竜の血』だけ。他の素材は聞いたことも見たことも無いっていう……。

 ちなみに後半3つの素材については、本の各章でも詳しく説明がされていた。

 使用する素材を別の素材から作り出すという流れが延々とあって、見ているだけで頭が痛くなってくる。

 しかも、今までの街で素材を大人買いしてきたものの――それでも全然種類が足りていないことが分かった。


「……これはダメだ。作るにしても、かなり後回しにしよう……」


 賢者の石が欲しい理由は、神器の素材となるであろうオリハルコンが欲しいためだ。

 このオリハルコンさえ手に入るのであれば、別に賢者の石は作らなくても良いわけだからね。


 ちなみにこの賢者の石の使い道だが――様々な金属を作り出す他にも、ホムンクルス錬金の素材として使うと目覚ましい効果があるらしい。

 最近何となく縁のありそうなホムンクルス錬金。さっきも魂の本なんて取っちゃったし――

 でも今のところ、人間が命を創るだなんておこがましい気がするんだよなぁ……。


「――さて、賢者の石はいったん置いておいて……神器の本は無いかな?」


 そう思いながら本棚を改めて探す。

 1時間ほど探したところで、1冊の本を見つけることができた。


 本のタイトルは――『神器作成』。


「おおおおおっ! ついにきたっ!!!!」


 まさにそのものズバリのタイトル!

 私はこれを求めて王都に来たといっても過言では無い!!


 さてさて、内容はどんな感じだろうか……。


 前書き……。

 この本は、すでにある神器を研究して書かれたものらしい。つまり作った人が書いた本では無い、ということだ。

 できれば作った人のものを読みたかったんだけど――

 ちなみにこの本、書かれたのは300年前である。さすが神器、かなり歴史があるものなんだね。


 第1章……。

 神器の歴史――最初に発見されたときの記録と、それ以降どのように伝えられてきたのかが書かれていた。

 この本に書かれている神器は『神剣カルタペズラ』。

 火属性の剣らしく、何でも火山の溶岩の中から見つけ出されたらしい。……いや、それってどうやって拾い上げたんだろう? 魔法か何かかな?

 そのあとは見つけた冒険者が国に献上して、その代わりに貴族の位を頂いたそうだ。


 第2章……。

 神器の構成――つまり作り方に関することが書かれていた。

 概ねアドルフさんに教えてもらったことばかりなので、特筆することは無いかな。

 そう考えるとアドルフさんって凄いよね。『神剣デルトフィング』を見て、自分でそこまでの理解を得たんだから。


 第3章……。

 神器の素材――ここには神器を構成している素材が書かれていた。

 よくよく読んでみると、既に存在している『神剣カルタペズラ』からその素材を推測した内容になっている。

 他の神器のことは特に書かれておらず、素材自体も『神剣デルトフィング』と似たような感じだった。

 むむむ……。これは正直、期待外れ……ッ!


 第4章……。

 竜王の存在――って、あれ? 何で急に竜王の話に?

 この章によると、竜は竜王の眷属、竜王は神の眷属ということらしい。

 素材には竜の魂が使用されるため、その関係でこの章が書かれることになったのだろう。

 竜王は6属性に対応しており、全部で6体が世界に存在しているとのこと。

 人間との接触の記録が残されているものもあれば、そういった記録がまったくないものもいるそうだ。


 第5章……。

 オリハルコンの生成――これも神器の素材として使われるために章になっているようだ。

 内容は先ほど見た本と大体同じ内容ではあるが、こちらの方が簡潔に書かれている。


 第6章……。

 神器に関連すると推察される伝説の数々――ってこれ、いつの話だろう。

 普通に500年前とか1000年前とかあるんだけど……いや、凄いねこれは。

 『世界が炎に包まれたとき、炎の剣が生まれた』

 『神の使徒が現れ、昼と夜を7回繰り返したあとに光が訪れた』

 『刃には勇気あるものの希望が満たされた。世界から闇を振り払うために』

 『神の刃が誕生したとき、生きとし生けるものが祝福を与えた』

 『過分な力は世界を滅ぼす。役目を終えた刃は燃える大地に鎮めよう』




「――……ぶはぁっ!?」


 思いがけずのめり込んでしまい、読み終えたときには少し酸素が足りていなくなっていた。

 そんな経験、いつ以来だろう。小学生とか中学生振りじゃないかな……?


 欲しかった具体的な情報は見つからなかったけど、何となく神器のあらましが分かったから良しとしよう。

 具体的なところはユニークスキル『創造才覚<錬金術>』で調べられるからね。

 逆に言えば、それを使って調べなくちゃいけないんだけど……反動がやっぱり怖いところだなぁ。頭痛だけで終わるなら良いんだけど……。


 窓の外を見れば昼過ぎといった頃だった。

 区切りも良いし、いったんここで昼食にでもしようかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ