122.それぞれの自由行動
「――というわけで、錬金術師ランクはS-ランクをもらってきたヨ……」
「さすがアイナ様」
「さすがアイナさん」
「さすがアイナちゃん」
「アハハハハー」
夜、宿屋の食堂に4人集まって今日あったことを話す。
まずは私、錬金術師ギルドでの話をしていたところだ。
ちなみに補足なのだけど、錬金術師ランクでもS-ランク以上は冒険者ランクと同様で人数制限があるらしい。
S-ランクは10人、Sランクは7人、S+ランクは3人……といった感じた。
今回はちょうどS-ランクで欠員があって――何でも高齢の為に亡くなられたという話なのだが、その場所に入り込むことができたのだ。
「そしてもらってきました、これが錬金術師ギルドのカード! どやー!」
新しく発行されたピカピカのカードを自慢げにテーブルに出す。
何せS-ランクですから! プラチナカードには負けるけど、冒険者カードよりも圧倒的に立派ですから!
「おお……立派なカードですね……」
「良いですねー。私が持ってるカードは冒険者カードだけだから羨ましいですー!」
「あれ、大聖堂にはそういう身分証明みたいなものは無いんですか?」
「あるんですけど、大聖堂は十字架なんですよね」
そう言いながらエミリアさんは綺麗な十字架をテーブルに出して見せてくれた。
「……む、これは綺麗。特別感があって、私はむしろこれが羨ましい」
「そうですか? ふふふ♪」
「それにしても早々に実力が認められちゃったわけだね。
アイナちゃんは、これからは錬金術師ギルドで活動するの?」
「うーん、時間ができたらっていう感じでしょうか。他にやることがたくさんありますし」
「合間にやるっていうのも良いと思いますよ。アイナさんって一瞬でいろいろ作ってしまいますから」
「そうですね……。
確かにしばらく王都にいるのであれば、自由時間も増えそうですし。それも良いかな?
――さてと。私はそんな感じでしたが、エミリアさんはどうでした?」
「1日中、お掃除してました……」
「はい。……あ、おしまいですか?」
掃除って案外時間が掛かるからね。
1日がそれだけで終わってしまっても十分にあり得る話ではある。
「そうだ! 途中でレオノーラ様が来て、少しお話をしたんですよ」
「レオノーラさんもしっかり来ますよね。やっぱりエミリアさんのことが好きなんですね……、微笑ましい」
「あはは……。その流れで装飾魔法のお話をしたんですけど、レオノーラ様が『それなら私が教えてあげるわ!』と言い始めまして……」
「おお、レオノーラさんは使えるんですか。灯台下暗し!」
「『都合の良いときを教えなさいよね』とも言ってましたけど、すでにもう教える気満々でした……。
アイナさんはそれでも良いですか?」
「私は大丈夫ですよ! 日時はあとで決めましょう」
「はぁい」
「ところでアイナちゃんたちは装飾魔法を覚えたいんだね?
僕もあれ覚えてみたいな……、一瞬で服を変えるやつ」
「そうなんですか? ジェラードさんも一緒に教わりにいきます?」
「いや、僕が覚えたいのはかなり高度な部類に入るから、専門家じゃないと無理じゃないかな……。
あとはもう少し応用させて、服だけじゃなくてお化粧もしたいし」
「――え? ジェラードさん、そういう趣味が……」
「いやいや! 変装の一環だよ!? 男と女の見た目の変化を早く付けられれば、仕事も幅が広がるからね」
「ああ、なるほど。そういう感じでしたか。
ちなみに私は女装が趣味だとしても大丈夫ですからね!」
「い、一体何が大丈夫なのかな……」
「趣味の許容範囲的に……。
それはそれとして、そういえばエミリアさん。お引越しされた信徒さんの情報って分かったんですか?」
「はい、その方は別の街に引っ越してしまわれたそうです。
王都から南西にある街なので、アイナさんはご存知ない街かと思いますが」
王都から南西――そもそも私たちの旅は、基本的に南西方向にずっと向かっていたんだよね。
クレントスから王都までは南西方向に3週間ほどの道のり。でもこの大陸は、王都の南西側にもまだまだ続いているのだ。
「機会があればご挨拶に――って思いましたけど、王都の外なんですよね。
私たちがそこに行くとするなら、そのときはもうエミリアさんはいないことになるのかな……」
「むぅ、そうですね。私も次に外に出られるのがいつになることやらって感じですし。
――っとまぁ、私の1日はそんな感じでした」
「……ちなみに、お部屋は全部片付いたんですか?」
「えっと……もう1日くらい欲しいかな……くらい……」
「まだお邪魔できない……と。私としてはそんなに片付いてなくても良いんですけど――」
「いやいや! それはダメです!」
「そ、そうですか? それじゃまたそのうちに……。
次はルークかな? 今日はどうだった?」
「はい、武器屋に行ってきました。
クーポン券でこんなものをもらいましたよ」
ああ、そうだそうだ。確か記念品がもらえるって言ってたよね。
って、これは――
「くまのぬいぐるみ」
手のひらサイズのくまのぬいぐるみがテーブルの上に置かれた。
「……可愛いけど、これって武器屋で配るもの?」
「店員が言うには、来店した客が恋人や家族に渡すために……だそうです。
男性客が多いですから、そういう配慮なのでしょう――と思っていたんですが、どうやら本店店主の趣味のようでした」
「へぇ……?」
「いずれは武器屋とぬいぐるみ屋を高度に融合させたお店を構えたいらしいですよ。
家族で楽しめる場所を作りたいのだとか……」
「わー、楽しそうですね!」
「そ、そうかなぁ……」
エミリアさんの無邪気な表情を見ながらも、私は冷静に反応してしまう。
こういうところで女子力に差が出ちゃうのかな。
「というわけでこのぬいぐるみ……どなたかどうぞ」
「エミリアさんがぬいぐるみ好きそうだから、ここは譲ることにしましょう」
「え? アイナさんはいらないんですか?」
「私にはガルルンがいますからね、大丈夫です!」
「ルークさんも、それで良いですか?」
「ええ、もちろんです。どうぞ」
「わーい、それじゃ頂きますね。ありがとうございます♪」
エミリアさんはくまのぬいぐるみを引き寄せながら喜んでいた。
そうそう、こういうものはこういう反応する女の子にあげたいものだよね。
「それで、武器はどうだった?」
「はい、いろいろな剣をお借りして試し切りのブースで使ってみました。
剣はそこそこ……といった感じでしたが、試し切りのブースは良かったですね!」
「へー、どんな感じだったの?」
「人を模した大きな藁人形が立てられていまして、それを斬るんです。
特殊な魔法が掛かっているようで、何回でも斬り付けられるのが良かったですね」
「ふぅん、僕も今度行ってみようかな。面白そうだ」
「でしたらご一緒しますか? 一度ジェラードさんの剣術も見てみたいと思っていましたし」
「それは良いね。僕もルーク君の剣筋を見せてもらおうかな♪」
何やらルークとジェラードの間で約束が交わされていた。
2人とも剣使いだから――っていうのと、私とエミリアさんは剣を使わないからね。
必然的に、話が一番合う2人になるのだろう。
「――それで、そのあとだったんですが」
「うん、まだ何かあったの?」
「店を出たところで、変わった女性に遭いました」
変わった女性――テレーゼさん! と一瞬思ったけど、テレーゼさんは私と会っていたし、もちろん違う女性なのだろう。
「変わったって、どういう?」
「突然体当たりをしてきました」
「「「え?」」」
「とっさのことでしたので避けましたが、そうしたら盛大に転んでいって……。
でも何か、高貴そうな雰囲気はしていましたよ」
「状況がまるで分からない……」
「私もです……。それで手を貸して起こしてあげたのですが、名前を聞かれたので簡単に名乗ってすぐに去りました」
「変な人がいるもんだね……。でもルークも客観的に見れば格好良い感じだし、一目惚れとかしちゃったのかな」
「ああ、体当たりって――偶然を装ってお近付きになる……みたいな感じですか。ルークさん、やりますね!」
「名乗ったのは失敗でしたか……。あ、ひとまず私はそんな感じでした」
「また会わないことを祈っておくよ……。
ちなみにジェラードさんはどんな1日でした?」
「あ、僕にも聞いてくれるんだね♪ 今日は、とある王族のお屋敷に潜入していたよ!」
「お仕事だったんですね。それにしても、普通な感じで潜入していますね……」
「慣れると楽しいものだよ♪
それで今はまだ具体的に何かっていうのは無いんだけど、どんな仕事を振られても大丈夫なように準備をしているところさ!」
「そうですね。大きな仕事をたくさんお願いするかもしれないので、よろしくお願いします!」
「楽しみに待ってるよ!」
――ジェラードも相変わらずで一安心。
それにしても、大きな仕事かぁ。
そろそろ神器についても、進めていくことを考えないといけないかな。
ジェラードもやる気があるし、ダラダラ過ごさせてしまうのも申し訳が無いしね。