121．錬金術師ギルドにて②
「それじゃ承認取ってくるわ。その間、アイナさんを案内しておいてくれ」
「はい、主任！ 分かりました！」
ダグラスさんは一通りの書類をまとめると、テレーゼさんにそう言って奥に消えていった。
「承認って何ですか？」
「アイナさんはかなりの実力者なので、錬金術師ランクの特例を掛け合いに行ったんです！
本来ですと冒険者ランクと同様、Fランクのスタートなんですが……さすがにレベル51ですと……！」
なるほど、確かに……。
まぁ上から始めさせてもらえるなら、それに越したことは無いかな。
「ありがとうございます。それでは早速、案内をお願いできますか？」
「はい、まずはこちらに！」
そう言いながら、テレーゼさんは私を掲示板のところに連れていった。
「冒険者ギルドで依頼を受けたことはありますか？
この掲示板は大体それと同じですが、錬金術関連の依頼に特化しているのが特徴です」
掲示板に張られている依頼を見てみれば、アイテムの製作依頼や素材の調達依頼、あとは錬金術の家庭教師なんてものも見つけることができた。
書かれているアイテムや素材は、知っているものもあれば知らないものもあり――
「なるほど。冒険者ギルドで錬金術の依頼を受けたことはありますが、まさかこんな大量にあるとは……」
「錬金術の依頼は、王都ではここに集中しているんですよ！
一部は冒険者ギルドでも受け付けているみたいですが、専門性の高いものはやはりこっちです！」
えっへん！ といった感じでドヤ顔をするテレーゼさん。
何だか気持ちは分かるけどね。
「さすがにたくさんあるので、あとで見ることにしますね。次の案内をお願いします！」
「はい、かしこまり！ ではこちらにずずいと！」
次に案内されたのは、奥の通路をしばらく進んだ先の部屋。そこは――
「図書室ですか？」
「はい！ 錬金術師ギルドが誇る図書室です！
錬金術の本が多いですけど、魔法の本もそれなりにはありますよ」
「おぉー。ここは自由に使って良いんですか？」
「はい、錬金術師ギルドのメンバーなら手続きを取れば大丈夫です！
ただ申し訳ないのですが、錬金術師ランクによって閲覧制限があります。また、貸し出しは行っていません」
ここで早速登場の錬金術師ランク！
できることが変わってくるなら、可能な限り上を目指したいよね。
「ここも見始めたら時間が掛かりそうですね……。というか、今はまだ手続きが終わってないから見れませんね」
「主任もじきに戻ってくると思いますので！ ささ、それでは次は食堂へ！」
「食堂もあるんですか？」
「はい、錬金術師の憩いの場としてご利用ください。
ここは少し変わったメニューも置いているんですよ。錬金術の発展のために――」
「え？ 食堂と錬金術に何の関係が……？」
「一部のメニューは、バイオロジー錬金で作られた食材を使っているんです！」
「へー。バイオロジー錬金ですかぁ」
バイオロジー……って、何だっけ？
普通に聞いたことがあるような、無いような……。バイオだから、生物関係かな？
まぁこの食堂を使うことになったらちょっと鑑定で調べてみることにしよう。
「アイナさんはバイオロジー錬金はやるんですか？」
「いえ、さっぱりですね」
「そうですか、これは個人ではなかなか手掛けられない分野ですからね。
ホムンクルス錬金と同様、錬金術としての方向性が問われますし」
「では機会があれば、ということで――」
「できたらアイナさんには、ぜひ研究して頂きたいですけどね……」
「え？ 何でですか？」
「ここら辺の研究をしている錬金術師って、どこか変わった人が多いんですよ。
アイナさんなら話しやすいし、こちらとしても対応が楽と言いますか……」
「あ、あー。そういう理由です？」
「も、もちろん実力があるっていうのが前提ですからね！
ささ、次は買取受付と販売受付に行きましょう！」
テレーゼさんの先導で少し歩くと、今度は広い部屋に出た。
何人かの職員がちょこちょこと働いているのが見える。
「えぇっと、私の立場で言うと――買取受付が売るところ、販売受付が買うところでしょうか？」
「はい、その通りです。
何か買いたいものがあれば販売受付へ、何か売りたいものがあれば買取受付にお持ちください！
一部のアイテムは錬金術師ギルドが直接売買を行いますが、それ以外は委託という形でお預かりすることになります」
「……とすると、他の錬金術師の方が委託販売しているものも見れたりするんですか？」
「この奥の部屋で見ることができますよ。貴重なものもあるので、ここも錬金術師ランクで制限がありますけど」
む、またもや錬金術師ランク！
「それにしても錬金術師ランクって結構出てきますね。これはできるだけ上げないとなぁ……」
「さらにですね、錬金術師ランクをA+以上にすると、この建物内に研究室を持つことができるんですよ！」
「え？ それは凄い！」
「はい！ 年会費がさらに高くなるなどはありますけど……。
でも研究分野によっては錬金術師ギルドから補助金も出ますし、アイナさんも機会があれば是非！」
「とは言っても、A+ランク以上なんですよね……？ 普通だったらどれくらい時間が掛かるものなんですか？」
「うーん、実力と実績次第ですから……。早くても大体20年とか30年……でしょうか」
それって普通に、大学の教授とかのレベルじゃないかな！？
すぐにどうのこうのいう話で無いなら今は置いておこう。
「――っとまぁ、案内はこれくらいですね。
さて、アイナさん！ 食堂でお茶でも飲んでいきませんか？」
「えぇっと……ダグラスさんはまだ時間が掛かりますかね？」
「そんなことより仲良くしましょう！ 連絡先も教えてくださいよー」
案内の仕事がひと段落するや、突然これである。
見た目は可愛い子なのに、何と言うかこう……怖い！
「いやいや、今回は控えておきます」
「そんな！ もし教えてくれたら、良い情報はこっそりお伝えしますよ！？」
うーん……。電話とかならまだしも、ここでいう連絡先って滞在先やら住所の話でしょ？
何か怖さを感じるから、ここは止めておこう。自分の直感を信じよう。どことなく残念感が伝わってくるし！
「それではテレーゼさん！ そろそろ受付の方に戻ってみましょう！ ダグラスさんも戻って来てるかもしれませんし！」
「ああ、アイナさん！ そんな、ひどい！」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、アイナさん。ちょうど良いところに！」
テレーゼさんを振り切るように受付まで戻ると、ダグラスさんが私たちを待っていた。
「アイナさぁああん――うわぁ、主任！？」
「……アイナさん、もしかしてテレーゼがまた何か……」
「はい、連絡先を聞かれました」
「テレーゼ……あとで説教部屋に来い……」
「ひぃっ！？」
「ほっほっほ……。そのときは儂もご一緒しようかのう……」
「ぎ、ギルドマスターまで！？」
不意に声がした方向、テレーゼさんの視線の先を見ると――そこには白髪の老人が立っていた。
「初めまして、アイナさん。私は錬金術師ギルドのギルドマスターをしておる。
ユストゥス・カミル・アロイスと申す」
「こちらこそ初めまして！ アイナ・バートランド・クリスティアです！」
「ほほほ、このお嬢さんがねぇ……。
ダグラス、ファーマシー錬金と……あとはアーティファクト錬金だったかね？」
「はい」
「アイナさんのファーマシー錬金の実力は、お預かりしたポーション類を見て確認できたんだが……。
どうしてもアーティファクト錬金の方も確認したくなってね。
今持っていないなら何かを作ってきてもらいたいのだが――」
なるほど、もう少し実力を見たい、まだ見足りないっていうことかな。
まぁこの場で作れるといえば作れるんだけど、さすがに一瞬で作るところは見せたくないわけで……。
昨晩ルークに渡したガルルンがあればなぁ――
――あ、違うな。
そういえば私の指輪とブレスレットって、アーティファクト錬金で作ったものだったよね。
普通にアクセサリとして使ってたから完全に失念していた……。
ということであれば今見せることができるのはクローズスタンの指輪と、バニッシュフェイトのブレスレットの２種類。
ここで見せるなら指輪の方かな。
「すいません。すっかり忘れていたのですが、この指輪も私が作ったものでした」
「ほうほう。それではすまんが見せてくれるかな？ どれどれ……」
ギルドマスターは私の指輪を受け取り、真剣な目付きでそれを見つめた。
その瞬間、宙に突然ウィンドウが現れた。ギルドマスターが鑑定スキルを使ったようだ。
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【リング(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果：風魔法『クローズスタン』使用可
※追加効果：ダメージを1%増加する
製作者：アイナ・バートランド・クリスティア
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「――ほう！ これはまた……！」
「す、すげぇ……。錬金効果に魔法が付いてやがる……」
「かっこいい……っ！！」
「ふむ……。ダグラス、儂の腹は決まったぞ」
「はい、いかがいたしますか？」
「アイナさんをS-ランクの錬金術師として承認しよう！」
「へ？」
「うおおお！ やったぜアイナさん！ さすが期待のエースだぜ！！」
「すごおおいっ！ 結婚してくださーい！！」
ギルドマスターの口から、どうにも思いがけない言葉が飛び出してきた。
え、最初からS-ランクで……良いんですか？ ……ヤ、ヤッター？
