120.錬金術師ギルドにて①
私は今、錬金術師ギルドの前に1人立っていた。
今日はそれぞれ単独行動。
ルークは武器屋に、エミリアさんは大聖堂に、そして私は錬金術師ギルドに――という流れだ。
それぞれ有意義に過ごしてくるだろうから、私もせいぜい有意義に過ごすことにしよう。
「さて、それじゃ早速入ってみようかな……」
錬金術師ギルドの入口は3つ。
お店フロアの入口、錬金術師用の入口、職員用の入口――の3つだ。
昨日はお店フロアの入口から入ってみたから、今日は錬金術師用の入口から入ってみよう。
大丈夫、鑑定によれば私はしっかり錬金術師なんだから。場違いなことは無いはず……!
そんなことを思いながら緊張しつつ入ってみると、少し奥に冒険者ギルドと同じように受付があった。
遠くの方に掲示板が見え、そこにはいろいろな紙がピンで留められているようだった。
恐らくは錬金術の依頼を張り出しているのだろう。
何となくは分かるけど、ひとまずは受付にいって案内をしてもらうことにしよう。
受付には可愛い女の子の職員さんがちょこんと座っていた。うん、話し掛けやすそうで助かるな。
「おはようございます、よろしいでしょうか」
「はい、いらっしゃいませ。今日はどういたしましたか?」
「私は辺境都市クレントスからやってきた錬金術師なのですが、お話を伺わせて頂こうと思いまして」
「わぁ、そんな遠くからいらしたんですね!
錬金術師ギルドはその名の通り、錬金術師の方々をサポートするギルドになります。
登録が必要なのですが、王都で活動するなら絶対にお勧めですよ!」
あ、事務的な対応じゃない!
クレントスのケアリーさん以外はみんな事務的だったから――それだけで何か心躍るものがあるね。
「それではお願いしたいです!」
「ありがとうございます!
登録にあたりまして、魔導具によるステータス確認と、年会費と手数料を頂くことになります。
年会費は錬金術師ランクに応じて変わりますので、まずはステータス確認をさせてください」
おお、懐かしい。
クレントスの冒険者ギルドでもやったけど、それ以来かな。
受付の職員さんはステータス確認用の石板を取り出し、カウンターの上に置いた。
「えっと、手を乗せれば良いんでしたっけ」
「はい、2回目の音がするまで乗せていてくださいね」
「はーい」
ピッ。
手を乗せると、石板から音がした。
ピピッ。
しばらくしたあと、もう一度音がした。
……と同時に、石板の上の空中に半透明のウィンドウが開いた。
「それでは情報を記録させて頂きます。
えぇっと、『アイナ・バートランド・クリスティア』さん……っと。
職業は『錬金術師』……で、問題ありませんね。
それで錬金術レベルが――」
ガタアアアアアンッ!!
「――へ?」
私の目の前で、唐突に受付の職員さんがのけぞって椅子ごと後ろに倒れた。
「ちょ……だ、大丈夫ですか!?」
私もカウンター越しに心配するが、その音を聞いた他の職員さんが様子を見るようにやってきた。
「おい、テレーゼ。大丈夫か?」
「……はっ! 主任!」
「どうした、突然ぶっ倒れて」
「あわわ、すいません……! こちらの方の錬金術レベルが高くて思わず意識がぶっ飛んでしまいました!」
「お前なぁ……。いくら高いっていっても、倒れるほどのものじゃ――……は?」
テレーゼさんの言葉を受けて主任さんがウィンドウを覗き込むと、そこで言葉を失っていた。
あれ? ユニークスキル『情報秘匿』を使って、錬金術のレベルは14にしてなかったっけ?
「……レベル51、だって……!? え、この娘が……?」
――あ、そういえばどこかのタイミングで14から51にしてたんだっけ……。
驚いているところ申し訳ないけど、本当は99だよ! さすがにそれは黙ってるけど。
「すいません、何か不都合ありますか?」
「え、あ……いや、申し訳ない!
錬金術レベル51だなんて、才能ある錬金術師が一生を賭けて辿り着くレベルだから……少し驚いてしまった」
「しかもまだ17才でだなんて……。アイナさん、私と友達になってください!」
「こら、テレーゼ! 公私混同はダメだぞ!」
「とほー」
レベル51っていうのも一応は自重していたつもりだったんだけど、やっぱりそれでも高いんだね。
でもそこらに流通している以上のアイテムを作ってきたし、見せかけとしてはそれくらいがちょうど良いのかな?
「――まだ勉強中の身ではありますが、ぜひ錬金術師ギルドで活動をしていきたいなと思いまして」
「おお! おお! それはとても助かる!
ここにはいろいろな依頼や相談が持ち込まれるからな。えぇっと……アイナさんと言ったか、これからよろしく頼むぞ!
俺の名前はダグラス・アラン・オールディスだ。覚えていてくれると嬉しい」
「私はテレーゼ・ブレア・アップルヤードです!
とりあえず住所を教えてください!!」
「こら、テレーゼ! 公私混同は――」
「ひぃぃんっ」
うーん? それにしても錬金術師ギルドってもっと知的なイメージがあったんだけど……何だか愉快な人々だなぁ……。
いや、他の職員さんたちは違うよね。変なノリなのはこの2人だけだよね……?
「えぇっと、私はアイナ・バートランド・クリスティアです。よろしくお願いします」
「よし、テレーゼ。さっさと登録するぞ、俺も手伝う!」
「なんと! いつもは仕事を人に丸投げの主任がそんなやる気を!?」
「ばっか! せっかくの逸材だぞ!? 逃げられる前に登録しちまうんだよぉ!!」
「そ、そうですね! かしこまりです!!」
あのー。本人が目の前にいますよー。
今の会話、少しぶっちゃけ過ぎじゃないですかー?
「テレーゼは書類をよろしくな。俺はアイナさんにいろいろ確認させてもらうから!
よし、アイナさん。錬金術レベルが51ということなんだが、専門は何だろう?」
「専門?」
「え? ファーマシー錬金とか、マテリアル錬金とか、アーティファクト錬金とか、ホムンクルス錬金とか――」
おぉ? アーティファクト錬金は知ってるけど、他のは全部初耳!
ファーマシー錬金は……薬関係かな? これはポーションとかそこら辺の分野だよね?
マテリアル錬金は……鉱物関係かな? ダイアモンド原石を作ったことはあるけど、そういう関係?
アーティファクト錬金は……アクセサリとかのやつだね。
ホムンクルス錬金は――え? それもあるの? これって人工生命を作るっていう……。え? 本当にあるの?
「……そういう括りですと、ファーマシー錬金とアーティファクト錬金が多いですね。
マテリアル錬金も少しばかり……? ホムンクルス錬金はやったことが無いです」
「なるほど、冒険者に寄っている感じだな。
ところで今までで何か作ったものは持っているか? 別の日でも構わないんだが、実物を見せて欲しいんだ」
「そうですね、どうしようかな……」
そう言いながらアイテムボックスから適当に今までに作ったものを出してみることにした。
高級ポーションと歩行障害(小)治癒ポーションあたりで良いかな? アーティファクト錬金で作ったものは、今は無いから置いておこう。
「お、アイテムボックスまで持ってるのか。
この薬は――ポーションかな? テレーゼ、鑑定を頼む」
「はい、喜んで!」
そう言いながらテレーゼさんは瓶をひとつ取って、石板の上に乗せた。
石板から音が鳴ってしばらくすると――
ガタアアアアアンッ!!
テレーゼさんが、また椅子ごと豪快に後ろに倒れた。
「おい! またかよ!」
ダグラスさんのツッコミも当然のことである。
「しゅしゅしゅ、主任! だってこれ!」
テレーゼさんは鑑定のウィンドウを指差して慌てている。
「おほぉ……これは……」
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【高級ポーション(S+級)】
HP回復(大)
※追加効果:HP回復×2.0
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「しれっと突然にS+級なんて出されたら驚きますよね!?」
「あ、ああ……そうだな……。
ちなみにもうひとつも鑑定を頼むぞ」
「はい! 心して!」
そう言いながらテレーゼさんは瓶をひとつ取って、石板の上に乗せた。
石板から音が鳴ってしばらくすると――
ガタアアアアアンッ!!
「またかよ!!」
「……だ、だってぇ~……」
テレーゼさんは起き上がりながら鑑定のウィンドウを指差す。
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【歩行障害(小)治癒ポーション(S+級)】
歩行障害(小)以下を永続的に治癒するポーション
※追加効果:筋力回復(中)
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「……何だ、これ……?」
「こんな薬……あるんですね……? 私、初めてみましたよこんなの……」
「俺も、こんなピンポイントな薬は初めてだわなぁ……。ついでにこれもS+級だし……」
私のポーションは錬金術の本丸、錬金術師ギルドでもこんな扱いである。
いやぁ、この世界では私は無敵だね! ※ただし錬金術に限る