119.幸運の鐘②
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【不思議な置物(S+級)】
鉄で作られた不思議な置物
※錬金効果:幸運の鐘
※追加効果:幸運が1.0%増加する
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――さて、思いがけずアーティファクト錬金で新しい効果が付いてしまったわけだけど……。
「見るからに幸せが訪れそうじゃないですか? 錬金効果も追加効果も完璧ですよね」
「うーん、確かに……」
イメージとしては招き猫みたいな感じの縁起物……っていうか、本当にそういう感じがするし。
錬金効果と追加効果がばっちり同じ方向を向いているのも、何だか見ていて気持ち良いよね。
「それでアイナさん、『幸運の鐘』ってどういう効果なんですか?」
「何でしょうね? それじゃ、かんてーっ」
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【幸運の鐘】
持ち主の祈りを集め、その願いを何時か叶える
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「――こんなの出ましたけど」
「……ざっくりした説明ですね」
「でもこれ、願いが叶うんでしょ? 凄いんじゃないの、アイナちゃん」
「何時になるのかが分からないのと、あとはお祈りも必要そうですけどね。
それじゃルーク、はいどうぞ」
そう言いながら、鉄製ガルルンをルークの手の上に乗せる。
「え? やっぱり私に? しかし何やら凄い効果が付いているものですし――」
「私は途中でどんな効果が付こうが、最初に渡そうとした人にあげる主義だよ」
「……そうでしたね。分かりました、それではありがたく頂きます!」
「うん、素敵なお願いを叶えてね」
「はい!」
ルークは何をお願いするのかな? でも、きっと素敵なことに使ってくれるだろう。
私が使うなら――う~ん、やっぱり錬金術関係になるんだろうなぁ。
「それにしてもこんな効果が付いてしまうと、一気にご神体っぽい感じが跳ね上がりますよね。
これはこれで、ある意味では神器なのでは――」
ルークの手の上に乗せられた鉄製ガルルンを見つめるエミリアさん。
願いを叶えてくれるなんて代物は、確かに神器と言ってしまっても過言では無いからね。
でもクレントスで『神剣デルトフィング』を見たとき、『神器』の定義も調べたけど――それはこんな感じだったっけ。
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【神器】
極限の創造技術により生み出されたアイテム。
通常では見られない、様々な効果が付与される
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いくら願いを叶えてくれるといってもこの定義からは外れてしまうから、この世界においてはこの鉄製ガルルンは神器では無いのだ。
『極限の創造技術』では無く、ただのアーティファクト錬金で作ったものなのだから。
「――さて。最後に一波乱ありましたけど、これにてガルルンの置物のお披露目はおしまいです!」
「うーん、いろいろなガルルンがあって楽しかったです!」
「私がもらった以外にも、最終的にはいずれ99体のガルルン……末恐ろしい……」
「セシリアちゃんもずいぶん力を入れて作っていたよ。今後も楽しみだねー」
皆は思い思いに10体のガルルンをいじっている。
そんな光景を見ていると、お店を作って売り出すっていうのもやっぱり面白そうだよね。
「そういえばレオノーラさんから商売するのを勧められましたね。彼女がどこまで本気なのかは分かりませんけど」
「レオノーラさん……って? アイナちゃんが商売をするの?」
「あ、ジェラードさんは知りませんよね。レオノーラさんというのは、大聖堂のエミリアさんの同期の方なんです。
その方とお会いしたときにヘアオイルとかを差し上げたんですけど、そうしたら商売にしてしまえば――って言われまして」
「ふーん? そのヘアオイルって、やっぱり錬金術で作ったのかな?」
「はい、なかなか良い感じなんですよ。私もエミリアさんも愛用しています」
「へぇ、それなら僕も試しに使ってみたいなぁ」
「使うなら差し上げますよ。――はい、どうぞ」
アイテムボックスからヘアオイルを出してジェラードに渡す。
女の子なら乳液もセットだけど、まぁ男の人だからいいか。
「おお、ありがとう。早速使ってみるよ」
「感想も聞かせてくださいね。
せっかくだし、ルークも使ってみる?」
「そうですね……。それではおひとつ、頂けますか?」
お、今日のルークは素直だ。
まぁ4人中3人が使うのであれば、頑なに拒む必要も無いからね。
「はい、どうぞ。多少の調整は効くと思うから、髪質に合わないとかあったら教えてね」
「え? そういう調整もできるんですか?」
「試してみたら案外いけたんですよ。エミリアさんも何か要望があれば調整しますよ」
「元々の品質が良いのに、さらにそんなこともできるんですか……。
やっぱりお店、開いた方が良いんじゃないですか?」
「そうですね、そうしたら一緒にガルルンも売れますし!
……うーん、でもお店で接客とかはやりたくないですね。本業にはしたくないというか――」
「それなら人を雇って売る、っていうのも良いんじゃないかな?」
「むぅ。それだと人に合わせての調整ができませんね……」
「例えば1週間の1日くらいを相談する日にして、その日だけアイナちゃんが相談に乗るっていうのは?
あとの6日は雇った人に販売してもらう――って感じで」
「おお、それなら良さそうかも。
実際に人と話しながら薬を渡していったこともありますし、あんな感じでやれば良いのかな」
「ガルーナ村の話ですね。
あのときのアイナ様は、とても神々しかったです」
「いやいや、何だか懐かしいね――っていうのは置いておいて。
それじゃ、王都でやることをやって、その上で良い物件があったらちょっと考えてみますか。
そのときはお手伝いをよろしくお願いしますね!」
「私、大聖堂の人に宣伝してきますよ!」
「それじゃ僕は、王族や貴族の女性に宣伝してくるよ♪」
「私は――品出しくらいならできますよ!!」
ルークは知り合いがいないから、宣伝というかそういうことになるよね……。
っていうかむしろ、ジェラードはもう王都に知り合いがいるの?
「ところでジェラードさんは、今は何をされているんですか? 私たちより先に王都に着いていたと思うんですけど」
「うん、今は王族や貴族と顔を繋いでいるところだよ。
あ、そうだ! そのためにまた育毛剤が欲しかったんだ」
「え? また?」
「髪に悩んでいる人は多いからね。女性の美容みたいなものさ」
「それじゃ、育毛剤もお店で売れるかもしれませんね」
「ああ、間違いなく売れるとは思うんだけど――でも、育毛剤はあまり売らない方が良いと思うなぁ」
「え? 何でですか?」
「お金持ち相手にここぞというときに売った方が、お金稼ぎや交渉には良いからね。
希少価値というか、売り手が圧倒的に有利だし」
「なるほど、確かにそうかもですね。ふむふむ、販売戦略を考えるのも面白そう」
「アイナさんの場合は、そもそも普通にポーションを作るにしても高品質ですからね。
錬金術のお店を開いたら、これは間違いなく売れますよ」
「むむむ、本当にやりたくなってきた……」
「王都には錬金術師ギルドの他にも、錬金術の工房を個人で開いている人もいるからね。
機会があったら参考に見に行ってみるのも良いと思うよ」
「それも良いですね! やることリストに入れておきましょう」
ゲームみたいに錬金術師をやる――っていうなら、やっぱり個人のお店を開くのが王道だよね。
何で私は旅をしているんだろう。……いやまぁ最初の場所が場所だったのと、あとは作るものが作るものだからなんだけど。
それにしても王都に来てから、錬金術に絡む情報が一気に増えてきたなぁ。
ひとまず明日は錬金術師ギルドに行く予定だから、まずはそこでいろいろと見学してみよっと。