118.幸運の鐘①
「こんばんわ♪」
「ほら来た!」
ガルルンのご神体にお祈りをしたあと、3分ほど経った頃にジェラードが現れた。
「おお……これがガルルンのご加護ですか……」
「え? え?」
私の自信たっぷりの言葉とエミリアさんの感心の言葉を受けて、さすがのジェラードも混乱していた。
「――すいません、こっちの話でした。ジェラードさん、こんばんわ!」
「こんばんわー」
「こんばんわ」
「こ、こんばんわ? 遅くなってごめんねー、お待たせしちゃったかな?
あ、もうガルルンの置物は見ているの」
「いえ、これは受け取り確認のときに見ちゃったやつなんですけど――これだけお披露目してたんです」
「なるほど。ところで、今回はどれくらい受け取ったの?」
「全部で11個ですね。案外多いなーって思ったんですけど、よくよく考えたら100個注文してました。
あと89個、いつか受け取らないと!」
「アイナさん……。改めて考えると、それって凄い量ですよね……」
「王都までの道中で売ったりあげたりする予定でしたからね……。
手にするのが王都までずれ込むだなんて、思ってもいませんでしたけど」
「それなら王都で広めれば良いんじゃないかな。ここはこの大陸で、発信力が一番強いしね」
「そうですね! さて、それじゃどんどん出していってみましょうか」
そう言いながら、私はアイテムボックスから包みをひとつずつ出して、順番に開いていった。
2体目、スタンダードタイプの普通のガルルン。これはメルタテオスに置いてきたやつと大体同じかな?
3体目、片腕を上げているガルルン。少し躍動感があるものの、やはりどこかシュールである。
4体目、背中を反らせてブリッジをしているガルルン。低い頭身ながら、その頑張りは見る者を勇気付けてくれる。
5体目、口を大きく開いて威嚇しているガルルン。魔除けに良いかもね。
「――いかがでしょうか」
「動きが加わると、無駄にシュールさが出てきますよね。
私はスタンダードなやつが今のところ好きです。他のはご神体っぽくないですし」
「さ、最初はご神体にする気なんてありませんでしたからね……」
「もしかして、金属製ならもっとご神体っぽくなるのでしょうか……」
ルークがぼそっとそんなことを言った。
「――それ、採用!」
「え?」
うーん、5体目にしようかな?
一旦アイテムボックスに戻して――れんきんちかーんっ
バチッ
「「「!?」」」
いつもの音と共に私の掌に現れる鉄製のガルルン。
錬金術の置換により、木を鉄に置換したのである。
「ルークの意見を参考に、鉄製にしてみました!」
「おお……。す、凄いね、アイナちゃん……」
「わぁ、なんだか良いですね!
――もしかしてもしかして、ダイアモンドのガルルンとかもできちゃうんですか!?」
「あー、多分できるとは思うんですけど――
ダイアモンドのカットまでは難しいので、ガルルンの形をしたダイアモンド原石ができると思います……」
「はうぅ。輝きが無いのではダイアモンド原石の無駄遣いですね……」
「カットをしない宝石ならできると思うんですけどね。
ささ、横道に逸れてしまいましたが、続きを見ていきましょう!」
「はーい!」
6体目、横を向いて寝ているガルルン。机の上に置いておいたら和みそう。
7体目、ちょこんと座っているガルルン。これは何体か並べたい衝動に駆られる。
8体目、他の3分の1くらいのサイズのガルルン。それ以外はスタンダードタイプと同じだ。
9体目、片足立ちで何か頑張ってるガルルン。頑張れ、超頑張れ。
10体目、頭の上に鳥の巣を乗せているガルルン。……いや、作りが細かいね。特に鳥の巣!
「――いかがでしょうか」
「私、この鳥の巣のやつが好きですね! 可愛い~♪」
これは単純に可愛いからね。うん、分かる分かる。
「僕はこの小さいやつが好きかな。プレゼントにも良さそうだしね」
小さいやつは邪魔にどこに置いても邪魔にはならないしね。さりげなくテーブルの上に置いておくにもは良さそうだ。
「…………」
「……で、ルークは?」
「は、はい。そうですね、うーん……。強いて言えば、先ほどの鉄製になったやつでしょうか」
なんと! 10個もあるというのに、ルークの心を射止めるガルルンがいなかったとは!?
これはルークの好みを調査して、その内セシリアちゃんと企画会議を開かなければ……!
「ちなみに私は片足立ちしてるやつが好きかな。
――さて、それじゃ最後の11体目を出しますよー」
ドスン。
「うわぁ。アイナさん、大きいですねコレ」
「大きいから最後に取っておきました!」
「あ~。アイナちゃん、これは――……ぶはっ」
「やっぱりコレですか? この前、ジェラードさんが途中まで言い掛けたやつ!」
「そうそう、こんな大きさだったよ! ささ、開けてみてよ!」
「どれどれ……?」
期待に心を躍らせながら包みを開けると、そこには――
「ぶはっ」
「うへっ」
「こ、これは……」
――頭はガルルン、身体は人間の形をしたボディービルダーばりのムキムキ筋肉。しかも2等身。
しかも他のものより1.5倍くらいの大きさがある。
「あ、あれぇ? こんなの、打ち合わせにあったかなぁ……?」
「アイナさん、これは酷いですね!」
「もしかしたら、作っている最中に何かが降りてきたのかもしれないよ……!」
「いろいろな価値観がありますね……」
四者四様の反応。
いや、これは傑作だけど――キワモノ枠にしか入らないね!?
ご神体とは真逆の位置付けの存在になってしまった。真逆というと邪神? いや、それともまた違うなぁ……。
「……だ、誰か要りますか? このムキムキ」
しーん。
「――え、えー? ジェラードさん、いかがですか?」
「い、いや……! 見る分には良いけど、僕はいらないよ……!!」
「力説ぅ! アイテムボックスの片隅にでもいかがですか?」
「僕のアイテムボックスはアイナちゃんのより小さいからね!?
余分なスペースは無いんだよ……!」
……あ、そうか。アイテムボックスって、レベルによって大きさが違うんだよね。それじゃ無理を言えないなぁ……。
仮にルークやエミリアさんにあげたとしても、結局は私のアイテムボックスに戻ってくることになるだろうし。
あ、いや――
「エミリアさん、大聖堂のお部屋に「結構です!」」
途中で遮られた!!
「くぅ、それではひとまず私が管理しておきましょう。他のやつも――あ、これだけはルークに渡しておくね」
私は鉄製のガルルンをルークに渡した。
「え?」
「いや、ほら。ルークがまだガルルンに馴染んでいないから?」
「むむ……。でも失くしてしまいそうですし――」
もう少し可愛いものなら『私だと思って』とか言えるんだけど、ガルルンはキモカワイイ系だからね……。
さすがにそれを、そんな風には言いたくないわけで。
あ、そうだ。もしかしてもう少し実用的なら良いのかな? 今はただの置物だもんね。
それじゃ一回アイテムボックスに戻して――
「アーティファクトれんきんっ」
バチッ
「「「え?」」」
「――を、してみました!」
「こ、これにもできちゃうんですか? すごーい」
「ふふふ、それじゃ鑑定といきましょう! かんてーっ」
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【不思議な置物(S+級)】
鉄で作られた不思議な置物
※錬金効果:幸運の鐘
※追加効果:幸運が1.0%増加する
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……あ。
良さげなものが、付いちゃった……?