117.本日は下見にて②
昼食後、私たちは武器屋へと向かった。
武器屋が集まっている場所――というよりも、そこは様々なお店が集まっている場所らしい。
ミラエルツは同業のお店が集中している感じだったけど、ヴェセルブルクは商店街みたいな感じで多様なお店が集まっていることが多いとのこと。
欲しいものがあって比べながら探すならミラエルツ、同じところでいろいろと買い物をしたいならヴェセルブルク……って感じかな。
好みは分かれると思うけど、これはこれで街の特色なのだろう。
「――とはいっても、これから行くところには武器屋が3軒ありますからね。
そのお店に無いものであれば、他のお店を紹介してもらえると思いますよ」
「へー。お客さんを融通しあってるんですね」
「やはり得手不得手があるものですし、武器は一点ものも多いですし。それに紹介するときもあれば、されるときもありますから」
「なるほど。お互い様、というわけですか」
餅は餅屋って言うくらいだもんね。
得意でないものは他に譲って、その分得意なものを受ければ良い、というのは納得である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えぇっと……ここら辺ですか?
なるほど、確かにいろいろなお店がありますね」
武器屋に、服屋に、アクセサリ屋に、雑貨屋に、八百屋に――って、本当にいろいろあるなぁ。
何だか本当に、元の世界でいうところの商店街のような感じだ。
「冒険者に良し! 住民に良し! の場所ですよ。
冒険者で且つ住民なら、冒険の準備と一緒に夕飯の準備もできてしまう優れものです!」
うん、確かにそうだけど……。
でも武器屋の隣に八百屋があるっていうのも、何だかシュールじゃないかな……。
「アイナさん、『武器屋の隣に八百屋があるっていうのも、何だかシュールじゃないかな……』って顔をしていますね!?」
「えっ!?」
まずい。一言一句、言い当てられた!?
いや、それって何だか怖いけど……まぁいいか!
「実はあそこはですね……。親が武器屋で、子供が八百屋を営んでいるのです!!」
「な、なるほど……!」
それは納得!
でも、どうでもいい情報だった!! ……それにしても、そんな情報まで知っているものなんだ……?
まぁそれはそれとして――
「便利そうですけど、私はミラエルツの方が好きですね。専門のお店がずらーっと並んでいるのは、やっぱり見ていて気持ち良いですし」
「アイナさんは職人さんですからね。あそこは職人の街ですし、水が合うんでしょう」
「おお、なるほど……。今、凄く納得しました! ちなみにルークはどっち派?」
「私ですか? 私は飾りっ気の無いほうが好みですので、ミラエルツですね」
「ふむふむ。それではエミリアさんは?」
「それじゃ、ミラエルツで」
「……それじゃって、なんですか……」
「これで仲良し3人組です!
よーし、せっかくですし1軒くらいは入ってみませんか?」
「そうですね、入ってみましょう」
エミリアさんの元気な声に釣られ、武器屋に3人で入ってみることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ!」
武器屋に入ると店員さんがすぐに声を掛けてきた。
それなりに広い店内の壁に武器がいくつも飾られている。
剣や槍、ハンマーや斧、星球武器――いわゆるモーニングスターなんかも置いてあった。
「はぁ……いろいろありますね」
「はい! 当店は近接職の方向けに、様々な武器を取り揃えてございます!
今日はこちらの、男性の方の武器をお探しでしょうか?」
「私は剣を使うので、どんな剣が置いてあるのかと思い――」
「はい! 剣はこちらでございます!!」
ルークの答えをすぐさま拾い、店員さんは流れるように剣のコーナーへと案内した。
「いかがでしょう! 当店の専属鍛冶師が心を込めて打った品々です!」
「なるほど、なかなかのものが取り揃えてありますね。
これ以外のものはありますか?」
ルークが飾られている剣を一通り眺めてから聞くと、店員さんは眉をピクリと動かして言葉を続けた。
「何と、一瞥でこれ以上のものをお求めになるとは……。
さては名の通った剣士様でしょうか! そうですね、これ以外のものになると本店に行った方が良いかもしれません……!」
「本店、ですか……?」
「本店はここから1時間半ほどのところにございます!
馬車を使えばもっと早く着くことができますが――」
1時間半って、ちょっと遠いなぁ。今から行くのは少し厳しそうだ。
ルークもそう思ったのか、その提案はさっさと断っていた。
「それでしたら結構です」
「それは残念。ではここにある分だけでも見て頂けますと!
奥には試し切りのブースも設けてありますので!」
「ほう……」
あ、ルークの心に引っ掛かったみたい。
何だか興味深そうなつぶやきを漏らしていた。
「ささ、いかがでしょうか?」
「……すいません、今日はあまり時間がありませんので。
明日は時間が取れると思いますので、改めてお邪魔することにします」
「ではクーポン券をお渡ししますので、ぜひ明日もお越しください!」
そう言いながら店員さんはルークに小さな紙きれを渡していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さっきのクーポン券ってなぁに?」
武器屋から出てすぐ、ルークに聞いてみた。
「何だか記念品がもらえるらしいです。詳しくは分からないのですが」
「記念品……。なんだろう?」
元の世界では結構そういうものはあったけど、こっちの世界では今日初めて見た。
そもそもクーポン券という概念があること自体、驚きだったかもしれない。
「明日また来ますので、もらって帰りますね。楽しみにしていてください」
「うん、分かったー」
「私も楽しみです!
――さて、次は装飾魔法を教えてくれる場所を探してみましょう!」
「えぇっと……魔法を教えてくれる場所って、そもそもどういうところなんですか?」
「魔術師ギルドが定期的に開催している勉強会もありますし、個人で教室を開いている方もいますね。
あとは使える方の元を訪ねて直に教わるとか――」
「なるほど。それで、心当たりはあるんですか?」
「はい、実は信徒の方で魔法の教室を開いている方がいらっしゃいまして。
今日はその方にお話を伺いに行こうかと思っていたんです」
「おお、さすが顔が広いですね」
「それほどでも♪ それじゃ、早速行きましょう!」
「「はい」」
私たちはエミリアさんを先頭にして、その信徒の方が住んでいるという家に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――まさか引っ越してしまわれたとは……」
宿屋の食堂で残念そうな声を出すエミリアさん。
あのあと信徒の方の家――魔法の教室を訪ねたのだが、何でも3週間ほど前に引っ越してしまったらしい。
ついでに魔術師ギルドの勉強会の日程も調べてみたものの、装飾魔法の勉強会はやっていないようだった。
「まぁ……、引っ越しではどうしようもありませんよね……」
「そうですね……。でも、それなら最後にご挨拶をしたかったですね……」
3週間前に王都に着いていたら挨拶をできたかもしれない――そう考えると、ガルーナ村やミラエルツで滞在させてしまったことが少し申し訳無くなってくる。
「――すいません」
「あ、いえ! そういう意味では無いですよ、アイナさん!」
「もしかして、大聖堂に聞いたら分かったりしますかね?
個人教室を開くような方でしたら、大聖堂でも活動をしていたり、知ってる人がいるかもしれませんし」
「……あ、そうですね! それでは明日、大聖堂に行ったついでに聞いてきます。
分かったら嬉しいんですけど……」
「私も引っ越し先が分かるように、お祈りしておきますね」
「お祈り? それってもしかして――」
「もちろんご神体に!」
タアアアアアンッ!!
そう言いながら、良い音を響かせながら、すでに公開済みのガルルンの置物をテーブルに出す。
「ああ、その熱意がルーンセラフィス教に向かって頂けたら嬉しかったのに……。
でも、これはこれで嬉しいので――お祈りの方、よろしくお願いします!」
「はい!」
――それでは祈りましょう。
引っ越した信徒の方の行く先が分かりますように――
あ、それと、ジェラードが早くここに来ますように――
もう21時ですよー?