116.本日は下見にて①
「おはよー♪」
私たちが宿屋の食堂で朝食をとっていると、ジェラードが現れた。
「あ、おはようございます。お久し振りです、戻ってたんですね」
「うん、3時くらいに戻ってきたよ。さすがに遅かったから、ルーク君の部屋には行かなかったけど」
ルークの部屋――というのは、受付に頼んで伝言の話だね。
合流するために、そんな伝言を残していたのだ。
「別に起こして頂いても良かったのですが」
ルークはそう言うものの、ジェラードは静かに首を横に振った。
「いやいや、さすがにそれはね。朝に会えれば良いかなって、そのまま寝ちゃったよ」
「でも、4時間も寝ていないわけですよね……」
「ああ、睡眠はまたどこかで取るから大丈夫さ。
でもこれからちょっと出かけないといけないからさ、また夜にでもお話をしようよ」
「そうですね、それでは今日の夜に。
ガルルンの置物も受け取ったので、みんなで見ようって話していたんですよ」
「あ、そうなの? いやー、僕のことを忘れないでいてくれて嬉しいねぇ」
「でも先にネタバレは止めてくださいよ」
「あはは、もちろんさ。……それじゃ、待ち合わせの時間があるから僕はもう行くね」
「「いってらっしゃーい」」
「いってらっしゃい」
挨拶を終えると、ジェラードは小走りで食堂を出て行った。
「――慌ただしい人ですね」
「今は何を動いてくださっているんでしょうね。そこら辺のお話も夜に伺いましょう」
「そうですね!
あ、そうだ。明日の話になるんですけど、明日は自由行動にしませんか?」
「え? 急にどうしたんですか?」
「ほら、今日は街中をいろいろ回る予定じゃないですか。
そこでそれぞれ、何か見たいこととかやりたいことができるかな――って思いまして。
私は錬金術師ギルドをじっくり見てみたいですし、ルークは武器屋をじっくり見てみたいかな、とか」
「私は?」
「エミリアさんはお部屋の片づけがあるじゃないですか!」
「ぐふっ……。わ、分かりました。オティーリエ様がいないことを祈りつつ、行ってきます……。
大聖堂に行くのであれば、ついでに大司祭様に滞在先もお伝えしようと思うのですが、この宿屋で大丈夫ですか?」
「うーん、とりあえずそれでも良いですかね?
1週間後には褒章の件でまた大司祭様とお会いするでしょうし、それまではそうしておきましょうか」
「分かりました、それでは明日伝えてきますね」
「アイナ様、私も分かりました。
では今日のところは武器屋はさっと確認する程度にしておきましょう」
別にじっくり見ても良いよ――と言おうとしたけど、そうしたら私の錬金術師ギルドも同じ感じになっちゃうかな。
今日はさっと見て、明日じっくり見ることにしよう。
「了解! お金が必要なら前に出したボーナスを預かってるから教えてね」
「大丈夫です、即買いはしませんので。
欲しいものがあっても、しっかり検討することにしているんです」
おお、それは素晴らしい。
私は我慢できないでポーンと買っちゃう人だから、家に持ち帰って検討できる人って尊敬しちゃう。
「うん、分かった。足りなかったら用立てするから、気楽に教えてね」
「ありがとうございます」
2人にはお給料のようなものを渡しているからある程度は持っているはずなんだけど、高いものは高いからね。
そして高いものは基本的に良いもの。長い旅路なんだから、できるだけ良いものを買って欲しい――というのが私の思いではある。
……私も遠慮なく高いものを買ってるし!
そういえばダイアモンド原石の一件以来、特にお金稼ぎはしていないなぁ。
まだ金貨は5000と数百枚残っているけど、調子に乗ってたらすぐに無くなると思うんだよね。
オリハルコンが金貨5000枚! とか言われたら迷わず買っちゃいそうだし。
ひとまず欲しいものがものだけに、お金ももう少し稼いでおいた方が良いんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し時間を潰して、朝10時頃。
私たちは宿屋から出て、王都の街を歩いていた。
「それじゃ今日は錬金術師ギルドと、武器屋と、装飾魔法を覚えられるところを探す――って感じですね」
「はい、まずは錬金術師ギルドに行きましょう。
でもアイナさん、じっくり見るのは明日にするんですよね?」
「そうですね、今日は場所の確認と中の様子を軽くだけ見ておきたいです」
「分かりました! 錬金術師ギルドは、魔術師ギルドと隣り合っているんですよ」
「へぇ……。やっぱり関係性が強いんですね」
「はい。錬金術には魔法が必要なときもありますし、魔法には錬金術の道具が必要なときもありますし」
「なるほど――。
……ところで魔法と魔術って違うんですか?」
魔術と魔法って、なんだか違いがありそうで、無さそうで。
「厳密な違いは無いんですけど、魔術というのは手順を踏まえて行う魔法のことを大体指すんです。
魔法はあっさり、魔術はこってりって感じですよ」
いや、そこを味で例えられても。
「では魔術師ギルドというのは、魔法使いギルドって言うのと同じ感じなんですね」
「そうですね。でも簡略化できない魔法も扱っている――という意味を込めて、魔術師ギルドと名乗っている感じでしょうか」
「ふむふむ、なるほど。何となく分かりました」
話をしながら宿屋から30分ほども歩くと、大きな建物が2つ並んで見えてきた。
「あ、もしかしてあの建物ですか?」
「はい、そうです。右が魔術師ギルドで、左が錬金術師ギルドですね」
建物の大きさは同じくらい。
錬金術師の方が魔術師よりもマイナーっていうイメージがあったから、これには少し驚いた。
でもよくよく考えると、私はまだこの世界でいわゆる魔術師には会ったことがないんだよね。
錬金術師は1人会ったことがあるから、そう考えるとそこまでマイナーでは無いのかもしれない。
「それでは早速、中に入ってみましょう」
「記念すべきアイナさんの初訪問ですね!」
「私も錬金術師ギルドというのは初めてです。どのような場所なのか……」
そんなことを口々に言いながら中に入ってみると、そこは錬金術のアイテムが並んだお店だった。
「――あれ、お店ですよ?」
「はい、こっちの入口は最初がお店になっているんです。一般のお客さん向けですね」
「なるほど、それ以外は――あっちから奥に行けるのかな?」
周囲を見回すと、建物の奥に進む通路が別にあった。そこからいわゆる錬金術師ギルドの受付のような場所にいけるのだろう。
「はい、あちらからも行けます。あと、この建物には出入り口がもう2つあるんですよ。
1つが錬金術師の方たち用の出入口――これはあちらの通路と行き先が同じです。
そしてもう1つはここの職員用の出入口なので、ここには間違って入らないでくださいね」
「も、もし入るとどうなるのでしょうか……」
「恥ずかしいです」
「え? ……あ、はい」
それは普通のことだね!
でもそういうのって本当に恥ずかしいから、入るときはよく注意することにしよう。
「それじゃ、奥の方は明日行ってみますね。今日はこのお店のところだけ眺めて次に行きましょう」
「はーい」
「分かりました」
3人揃ってお店の中を見て回る。
魔法関連のお店を広くして、錬金術のアイテムに特化させた感じ……っていうのがしっくりくるかな?
品揃えについてはポーションや爆弾や宝石――この辺りは今まで見てきたものだけど、それ以外にもいろいろと置いてあった。
アーティファクト錬金のアクセサリなんかもあるけど、これはステータスが少し付いているくらい。
魔石もいろいろあるけど、これもステータスが少し付いているくらい。
他には食器や置物、油や樹液、見ただけでは意味不明な何かも置いてある。
魔法の媒介にするっていう宝石や結晶なんていうのもあった。
「種類はたくさんありますね。
もの自体はそんなに凄いものではないですけど」
「あくまで一般のお客さん用ですからね。奥に行けばもっと良いものとか高いものがあると思いますよ」
「なるほど、それでは明日を楽しみにしておきましょう。何か良いものを見つけたらお土産に買っていきますね!」
「「え」」
「え? な、何かおかしいこと言いました?」
「いえ……。こと錬金術に関して、アイナさんが良いと思うものって……ここにあるんでしょうか……」
「同感です……」
そういえば……、私も同感です……。




