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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第1章 辺境都市クレントス
11/911

11.もしかして:ここがすべて始まり

「あの、すいません。ルイサおばちゃ……いえ、ルイサさんが変なことを言って」


 宿屋から出ると、まずはルークさんが口を開いた。

 家族がはしゃいでるのを友達に見られて恥ずかしい……、簡単に言うとそんな感じかな? とても申し訳無さそうに、バツが悪そうにしている。


「あはは、仲良くて羨ましいなって思いましたよ! 私なんて独りですし」


「そう言えば……アイナ様はお独りで旅をされているんですか? お供などは付けずに――」


「はい、ずっと独りです」


 ずっとも何も、この世界でのスタート地点はこの街を出てすぐのところだったわけだが。


「ところでルークさん、何で私のこと『アイナ様』って呼んでるんですか? 別に『さん付け』とかで構いませんよ?」


 ルークさんのことは固いキャラクターなのかな? と思っていたのだが、ルイサさんとのやり取りがとても普通だったので、ちょっと聞いてみた。


「そ、そんな失礼なことは出来ません! プラチナカードをお持ちのような方を『さん付け』だなんて……!!」


 プラチナカード? ああ、そんなのあったね……。

 でもそれって、そんなに恐縮することなの?


 鞄の中に入れたプラチナカードをまさぐり、鑑定をしてみる。


 ----------------------------------------

 【プラチナカード】

 王族や神職者に与えられるとても貴重なカード。

 身分や身元は秘匿され、暴こうとした者には重大なペナルティが科される

 ----------------------------------------


 ……ナニコレ。

 いや、確かに神様からいろいろもらったけどさぁ……。


 『身分や身元は秘匿され』ってことは、つまり王族とかのお忍び漫遊記みたいになってるってこと?

 ……っていうのであれば、『様付け』に拘るのも……分かるのかな。


「あ、うん、何だかごめんなさい」


 そう言う私に、いやいや! と身振り手振りで慌てるルークさん。


「そ、それよりもアイナ様こそ、私には敬語など使わず、呼び捨てにでもして頂ければ……!」


 あ、うーん。あんまり親しく無い人には、私って敬語派なんだよね。


「いえいえ。それでは引き続き、お互い今のままで」


 なおも反対するルークさんを、私は笑顔で屈服させるのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おや、ルークじゃない。おはよう。私の家まで、どうしたんだい?」


 長屋のような建物の部屋のひとつ。そこから品の良いお婆さんが顔を出した。

 先日広場で見た、脚の悪いお婆さんだ。


「アイーシャおばちゃん、おはよう! あのね、今日は良いお知らせを持って来たんだ!」


「良いお知らせ……?」


 そう言いながらアイーシャさんは私を見て、静かに優しく微笑んだ。


「ふふふ、そうかいそうかい。こんな可愛いお嫁さんをもらうんだね。お幸せにねぇ」


 ……そうだよね。若い男が若い女を連れてきて、『良いお知らせ』だなんて言ったら……まぁそう思うよね。


「えっ!? ……あっ! ち、違うよ、アイーシャおばちゃん! そうじゃないっ!!」


 アイーシャさんが何を言っているのかを理解した瞬間、ルークさんが真っ赤になって慌て始めた。

 ああもう、昨日までの真面目で爽やかなイメージが台無しだよ、ルークさん。


 そんなことを思いながら、ルークさんとアイーシャさんの話に入っていく。


「はじめまして、私はアイナと言います。あの、錬金術師をやってまして、脚に効く薬を調合したのでいかがかなと」


 横から私が口を挟むと、アイーシャさんは薬の瓶を見て驚いた顔をする。


「そうそう、この薬の話なんだよ! 俺もちょっと信じられなかったんだけど、今朝ルイサおばちゃんに会ったら、脚が良くなってたんだ!」


「ええ? ルイサの脚が……? ……それって本当かい? ……いえ、ルークが言うんだから、嘘じゃない……んだよね?」


 私は困惑しているアイーシャさんに、瓶を静かに差し出す。


「ただのお節介なので代金は要らないのですが、いかがでしょう?」


「アイーシャおばちゃん! どうかアイナ様を信じて飲んでくださいっ!!」


 ルークさんも懸命にお願いをしてくれる。どういう関係かは知らないけど、子供の頃からお世話になっているのかな。


「もう、ルークったら……。……それじゃ、ありがたく頂きますね」


 アイーシャさんはにこりと微笑み、静かに瓶に口を付けた。

 その姿にも、どこか気品を感じる。


 飲み終わった後、アイーシャさんをすぐさま鑑定をする。

 ステータスの身体状態から『歩行障害(小)』は綺麗に無くなっていた。


「治ったと思いますが、いかがでしょう?」


「え、もう? やだわ、そんなにすぐに治るわけが――」


 アイーシャさんは脚を眺めながら身体をよじる。しばらくして、おもむろに脚を上げて動かし始めた。


「……あら? あらら? う、うそっ!? ね、ねぇ、見て! 脚が……上がるわよ!?」


 信じられない光景に驚くアイーシャさん。


 その横でルークさんも呆然とつぶやいている。


「し、信じてたけど……本当だったんだ……」


 ルークさん。それって本当に信じてたんですかねぇ……?

 じとっとした目でルークさんを見つめるが、彼がこちらに目線を移すことは無かった。


「あ、アイナさん! 素敵なお薬をありがとう……! 本当に、本当にありがとう……っ!!」


 アイーシャさんは両手で私の手を取り、拝むように頬を当ててくる。


 そんなに喜んでくれると、こっちも嬉しくなるもんだよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それにしてもアイナ様は、本当にすごい錬金術師様だったんですね!」


 アイーシャさんの家からの帰り、ルークさんが興奮気味に話してくる。

 ふふふ、何せレベル99の上にユニークスキルもあるからね!


 得意げに答えるのもどうかと思い、外面的には誤魔化すように微笑み返す。


 ところで――


「そういえばルークさんは、私に何か用事があったんですか? 流れでアイーシャさんの家までご一緒してもらいましたけど」


「あ……、えっとですね! それはもう大丈夫になりました! 気にしないでください!」


 ……え?

 アイーシャさんの家の道中で解決したってことかな? ……何だか分からないけど、まぁいいか。


「そうなんですか? てっきりデートのお誘いかと」


 改めてからかい直す。

 ルークさんはあわあわと何かを言っているが、やっぱり真面目な青年なんだなぁと思い至る。


「わ、私がアイナ様をデ、デートにお誘いするなんて、そんなことが許されるはずがありませんっ!!


 その台詞を力強く言わせるのは、例のプラチナカードの影響か。


「ああもう、私はそんなに偉くなんて――」


 言い掛けて、街の遠くから歓声のような声が上がるのが聞こえてきた。


「あれ? 向こうの方、何か賑やかですね?」


「あ、はい。今日ですね、この街に英雄シルヴェスターが訪れることになっていまして、その歓声かと」


「へー。英雄、ですか」


「はい! 世界を股に掛けて冒険し、行く先々の国で直面する問題をいくつも解決して――」




 その後、ルークさんの熱弁は5分ほど続いた。




「――はっ!? も、申し訳ありません、自分ばかり長々と!」


「いえ、とても楽しかったですよ? ルークさん、英雄に憧れてらっしゃるんですね」


「はい!」


 元気に肯定するルークさん。

 男の子って、強い人に憧れるものだからね。


「それでは、私たちも見に行きますか!」


「え? 私に気を遣って頂かなくても! 私はアイナ様を宿屋までお送りする義務が――」


「ああもう、私も見たいんです! 良いから行きましょう!」


「――ッ!?」


 ごちゃごちゃ言うルークさんの手を握り、私は歓声の方に向かって走り出す。


 手を握って走るなんて。いやー、青春だねー。

 我ながら、そんなことを思ってしまったよ。

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