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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
106/911

106.エミリア先生の魔法講座②

「エミリア先生! 分かりました……この感覚ですね!」


「はい! ルーク君、よくできました!」


 宗教都市メルタテオスを発ってから4日目。

 王都ヴェセルブルクまではあと3日というところで、ルークはマナの感覚を掴むことに成功した!


「おー、ついにやったね! おめでとー」


「やりましたよ、アイナ様!」


 馬車の中で喜びを分かち合う私たち。

 他の乗客も一瞬何事かと驚いていたが、すぐに冷静を取り戻していた。


 馬車の移動中以外でも、ルークはいつも掌を見たり擦ったりし続けていた。

 その甲斐もあって、魔法の適正はあまり無いようなのだが――それでも最初の壁を超えることができたのだ。

 きっとその真面目な性格がそうさせてくれたのだろう。ちょっと根を詰め過ぎていた気もしたけど。


「それにしてもエミリア先生。マナを感じ取るのに、何で手を擦り合わせるんですか?」


 私は今更ながらに、素朴な質問をぶつけてみた。


「ふふふ、それはですね――手の感覚を敏感にするためです!」


「え、それだけですか? 確かにずっと擦ってるとヒリヒリしてきますけど……」


「そう、それです! それが重要なんです!」


「えぇ……? 魔法というか、これってむしろ物理な感じがしますけど……」


「いえいえ。確かに一般的なイメージとしてはそれは分かります。

 でもこの世界は両方の力が織り交ざってできているんです。不思議なことは無いんですよ」


「そういうものなんですか?」


「はい。逆に言うと、攻撃魔法を受けると物理的に肉体がダメージを受けますよね。

 魔法と物理はお互い無関係では無いんです」


 ふむ……。そう言われると確かに。

 相手の魔力にダメージを与えるなんていう魔法もゲームとかでは見たことがあるけど、そういうのはそもそも数自体が少ないしね。


 そんなことをエミリアさんと話している横で、ルークは嬉しそうに自分の掌を眺めていた。

 新しいことができるようになったらとても嬉しいよね。苦労を重ねたものなら、それはなおさらだ。


「――それじゃ、次の段階に進める感じですか? ルークの補習はもうおしまい?」


「はい! アイナさんにはずっと待ってもらってしまってすいませんでした」


「あ、そうですね……。アイナ様、申し訳ございません」


「ええ? 別にそんなこと気にしてないですよ!? 別のことをしてましたし」


 2人の補習の光景を眺めながら、実はユニークスキル『創造才覚<錬金術>』を使っていろいろ調べものをしていたからね。

 補習で1週間を使っていたとしても、時間を無駄にするということは無かったのだ。


「では次に、マナの集中と操作を学びましょう。

 今までは私が発するマナだったり、ご自身の身体の漠然としたマナを感じてもらっていたんですが――この辺りを学んで頂きます」


「……なるほど、確かに次の段階って感じがしますね」


「それで、最初のイメージですが……まず、身体のすべてにマナが均等に宿っていると考えてください。

 右手を開いて頂いて――それぞれの指に、マナが10ずつあるとします。

 例えばそこから、人差し指に他の指からマナを1ずつ移動させる感じです」


「ふむ……。そうすると、人差し指には14、他の指には9ずつマナが残ることになりますね」


「その通りです! それで、魔法を使うときはその人差し指の5……14から9を引いた分ですね。

 これを消費して魔法の効果を作り出すんです」


「ははぁ、なるほど。……必要な分だけのマナを集中させるということですね」


「これは慣れてしまえばイメージでできますから、厳密に数字みたいのをイメージする――といった必要は無いですよ。

 先ほどの説明はあくまでも説明上のものなので、分かりにくければ忘れてしまってください」


「ところでエミリア先生。マナを集中させるだけで、魔法というのは使えるようになるんですか?」


「いえ、そのあとにも手順が続きます。詠唱や魔法陣が必要な魔法もありますし、複数個所にマナを集中させなければいけない魔法もあります。

 ただ……この辺りは難しい魔法になってくるので、私の講座ではやらないことにしますね」


「奥が深いですねぇ……」


「はい、学ぶことはたくさんあります。

 そういう手順や手間を考えると、アイナさんのブレスレットはやっぱり凄いものなんですよね」


 私のブレスレットに付いた錬金効果は、光魔法『バニッシュフェイト』が使えるようになるというもの。

 ブレスレットができた瞬間、エミリアさんが叫んでいたよね。

 それくらい騒ぐほどなのだから、本来的にバニッシュフェイトを使うのはかなり難しいだろうことは想像できる。


「それにしても、私のアクセサリは2つとも魔法が付いてるんですよね。

 これは神様が楽をして良いと言っているのでは――」


「アイナさん! 神はそんなことを仰いませんよ!」


「エミリアさん! 私はルーンセラフィス教ではなく、ガルルン教ですから!」


「むぐ……っ!?

 ま、まさかガルルン教の影響がこんなところに出てこようとは……」


 エミリアさんが何かショックを受けている。

 ふふふ。ガルルン教の後ろ盾がある限り、ルーンセラフィス教の教義からはいくらでも逃げられるのだ!


「エミリア先生! うなだれていないで続きをお願いします!」


「――はっ! そうですね、失礼しました。

 ではまず、身体の中にマナを感じるところから始めましょう。さっきの例を参考にして、右手の人差し指にマナを集めてみるところから!」


「はい! ――……って、取っ掛かりがまるで分からないのですが」


「えっと、左手の人差し指で、右手のどこかを触ってください」


 ぴとっとな。


「はい、できました」


「触れているところに、そういった感覚がありますよね」


「はい」


 普通に触っている感覚がある。

 マナとは別に関係の無い、五感の内のひとつ――触覚だね。


「それでは、そのまま指を付けながら――親指から人差し指までをなぞってください。

 その指先は、常にマナを感じていくイメージでいてください」


「なるほど。……うーん、難しそう」


「今までの進行具合から、王都に着くまでにできれば万々歳といった感じですよ。頑張りましょう!」


「エミリアさん……。それはアイナ様がですか? それとも私が……?」


 ルークが不安そうに聞いてきた。

 確かに私ができるまでと、ルークができるまでは時間が違いそうだし。

 先ほどようやく補習が終わったばかりなのだから、やはり心配になるのだろう。


「そうですね、これにはアイナさんも少し時間が掛かると思いますよ。

 というわけで、アイナさんで3日くらいというお話でした」


 それを聞いたルークは見るからにほっとした表情を浮かべた。


「それじゃしばらくはそれの練習ですね。

 魔法の本はせっかく買いましたけど……この移動中にはそこまで進まないってことになりますか」


「確かに! でも、王都で私が教える機会はいくらでもありますし、続きのことは別に心配なさらなくても!」


「あはは、そうですね。それでは引き続きよろしくお願いします」

「私も、よろしくお願いします」


「はい、最後まで面倒は見させて頂きますよ! おふたりとも、私の可愛い生徒ですから!」


 ちなみに私は次の日、右手の中だけでは結構操作できるようになっていた。

 それを聞いたときのルークの表情は、ちょっと忘れることができなさそうかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 宗教都市メルタテオスを発ってから7日目の昼過ぎ。

 私たちはついに王都ヴェセルブルクの大きな街を目にすることができた。


「――うっわ、何あれ……大きい……!」


 かなりの建物が密集している一番奥に、ひときわ巨大な建物が立っている。

 大きい、ではなく、巨大。圧倒的な存在感を放ち、街自体がその建物を中心にしているかのようだった。


「ふふふ♪ 一番奥にあるのは王城――王様がいらっしゃるところですよ」


「むう……。今までとは何ともスケールの違う街ですね……。

 街、というか、それこそ都市という感じ……。いや、それもちょっと違うような……」


「私もアイナ様と同感です……。いや、クレントスも十分に開けているとは思っていたのですが……ははは、田舎町と言われても仕方ないですね」


 王都に入るまではまだ距離がある。街門を通る必要もあるだろう。

 そんな状態にも関わらず、大きくて強い迫力を感じた。


「この国は、三大国家のひとつですからね。

 王都ヴェセルブルクは、世界の中で最も栄えている場所のひとつなんですよ」


「ははぁ……。それじゃボリュームたっぷりにもなりますよね……。

 何かもう、この街だけでいろいろとできちゃいそう……」


「いくらでもお付き合いしますよ! いろいろなことをやりましょう!」


「アイナ様、もちろん私も手伝いますので!」


 初めての場所だけど、とても頼りになるこの2人がいる。

 そしてさらに、ジェラードとも合流するのだ。

 そう考えると、やっぱりこの街に滞在するのは楽しみだな。


 よし、やることはたくさんあるけど、ひとつずつしっかりこなしていこう!!






 ――しかし、私たちはこのとき全く想像していなかった。

 王都ヴェセルブルクを去るのが、まさかあんな形になってしまうだなんて。


 ……でもそれはもう少し未来のお話。

 そのときまで、私たちはここでの暮らしを満喫することになるのだ。

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