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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第5章 王都ヴェセルブルク
105/911

105.エミリア先生の魔法講座①

 ゴトゴトゴト……。


 乗り合い馬車はいつものリズムで街道を走る。

 慣れ親しんだこの揺れと暖かな陽気が相まって、徐々に眠気が襲ってくるのだが――


「――さて、アイナさんとルークさん。そろそろお勉強を始めましょう!」


「え? お勉強、ですか?」


 不意を衝かれ、エミリアさんの言葉に何も考えず返してしまう。

 お勉強って一体……?


「ま、魔法のお勉強ですよ! 馬車の移動中にやるっていったじゃないですかっ!!」


 ――あ、そうだった。


 アドルフさんからもらった属性石のナイフを使うために、私は水属性の、ルークは土属性の魔法を勉強する……という話だったよね。

 私も当初はやる気があったんだけど、アーティファクト錬金で使えるようになった魔法――バニッシュフェイトやクローズスタンを使ったせいか、何となくそれで満足してしまっていたのかもしれない。


「す、すいません。それではエミリア先生、よろしくお願いします!」


「先生……?

 むふー、分かりました♪ ささ、ルークさんも良いですか?」


「は、はい。よろしくお願いします」


 鼻息を荒くする(?)エミリアさんに促され、私とルークはエミリアさんの方に向き直った。


「それでは始めますよ!

 先日に本屋で魔法の本を買いましたが、その前に魔法の元――マナを感じるところから始めましょう。

 ちなみにお二人は、マナを感じたことはありますか?」


「いえ、まったく」


「同じく、です」


「魔法の勉強をしようとしなければ、そういうことには縁がありませんからね。

 それではアイナさん、私の掌にアイナさんの掌をかざして頂けますか?」


 そう言いながら、エミリアさんは掌を私の方に向けた。

 えぇっと、同じ感じでかざせば良いのかな? そう思いながら、エミリアさんの掌に自分の掌を向ける。お互いに掌をかざし合っているような状態だ。


「――はい、いかがですか?」


「え?」


 いかがですか――と言われても、何も起きないけど……?

 でも話の流れからして、ここは何かを感じ取れるところなのかな? そう言われてみると、そういえば――


「エミリアさん! 何か温かいものが伝わってきます!」


「はい! それは私の体温です!」


「――ッ!!」


 ……言われてみればその通りだね……。これは今までに感じたことがあるよ……。


「えっと、今は本当に手をかざし合わせただけなので……特に何も感じないと思います。

 上級者になってくると、これだけでも微細なマナを感じ取ることができるそうなんですが」


「へぇ……。ちなみにエミリアさんは――」


「いえ、私はさっぱりです」


 なるほど……。エミリアさんくらい魔法が使えても、それはできないのね。

 それじゃ私とルークはひとまずその高みは目指さないで大丈夫かな。


「さて、アイナさん。もう一回かざして頂けますか?」


「はーい」


 エミリアさんの言葉に従って、再び掌をかざし合わせる。

 先ほどと同じく、エミリアさんの体温が伝わってくるのだが――


 ――ピリッ。


「うわっ?」


「何か感じましたか?」


「えっと……何かピリッとしたものが。静電気の弱いような感じの――」


 静電気――とはまた少し違うんだけど、大体そんな感じ?

 何ていうのかな、静電気を温かくしたような……というか、静電気と空気を混ぜた……というか。

 ああ、確かにこれは言葉では伝えにくい!


「はい、それがマナです。今、私の身体のマナを掌に集めて、分かりやすいようにしたんですよ。

 ささ、それじゃ次はルークさん!」


「はい、お願いします」


 そう言いながら、エミリアさんとルークが掌をかざし合った。

 さてさて、ルークはどんな反応になるかな? 私は新しい感覚を感じることができて、内心とてもドキドキしているんだけど――


「――はい、どうですか?」


「えっと……。すいません、特に何も……」


 ……あれ?


「むむ、ルークさんはそこからですね」


「そこから……? 私と何か違うんですか?」


「マナの感じ方は人によって違うんです。

 先ほどアイナさんはピリッとしたものが――と仰っていましたが、そう感じない人もいるんです」


「へぇ……感じ方は人それぞれ、ということですか」


「はい。これはその人の魔法の適性だとか、他のスキルとの相性だとかがあるそうです。

 ルークさんは今まで肉体を使う方に特化してきましたから、恐らくはその辺りが原因でしょう」


「――とすると、私はマナを感じ取れない……というわけですか?」


 エミリアさんの言葉にルークが不安そうに尋ねる。

 このまま感じ取れないなら、早々に魔法のお勉強が終わっちゃうからね。


「いえ、大丈夫です! そこら辺は魔法使いの先人たちが、解決方法をしっかりと遺してくれていますので!」


「へぇ……、そういうのもあるんですね」


「エミリアさん、ぜひ教えてください!」


 安心するような、懇願するような声でエミリアさんにお願いするルークだったが――


「ルークさん……? エミリア――何ですって?」


「……!! え、エミリア先生! 私にその方法を教えてください!!」


「よろしい! 教えて差し上げましょう!」


 察しの良いルークとノリノリのエミリアさん。

 何だかこの二人も、端から見てるとなかなか面白いコンビかもしれない。


 それにしても、先人たちが遺した解決方法とは一体……?


「それじゃルークさん。右手と左手を擦り合わせてください」


「え? こうですか?」


 そう言いながら、ルークは自身の手をごしごしと擦り合わせ始めた。


「もっと速く!」


「はい!」


 ルークはさらに速く手を擦り合わせる。

 しばらく経つと、ようやくエミリアさんが言葉を続けた。


「そろそろ良いでしょうか。それでは掌をこちらに向けてください!」


 エミリアさんがそう言いながらルークに掌をかざすと、ルークも掌をかざして向かい合わせた。


「さぁ、どうですか?」


「む……。エミリア先生、何だか温かいものが伝わってきます!」


「はい、それは私の体温です!」


 ――既視感(デジャブ)っ!!


「そうしたら――、その上でこれは分かりますか?」


「…………」


「…………」


「……えっと、何がですか?」


 エミリアさんのドヤ顔に対して、ルークのきょとんとした顔。

 今の流れからして、多分ここでマナを感じ取って欲しかったんだろうな……。


「……ルークさんは補習ですっ!」


「えぇっ!?」


 ルークから驚きの声が挙がる。

 確かにここを乗り越えないと先に進めないからね……。っていうのは良いとして――


「――エミリア先生、私はどうすれば?」


「アイナさんは、今日の授業はおしまいです!」


「えぇっ!?」


 授業が始まってから、時間にするとまだ10分くらい。

 そのタイミングでルークは補習、私は終業となってしまった。……でも、ここが基礎のところだから仕方ないのかな。


 その後、ルークはエミリアさんの指導のもと、ひたすら手をごしごしと擦り合わせていた。

 端から見てるといまいち効果は無さそうなんだけど――本当にこれで上手くいくのかなぁ?

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