103.ミスリルの打ち上げ②
「お待たせいたしました、こちら猪の肉料理になります」
打ち上げの最中、店員さんが猪料理を持ってきてくれた。これは今日の獲物、暴れ猪のお肉で作った料理だ。
「おー、美味しそうですね!」
「あの見てくれからは想像できませんが……確かに美味しそうですね」
エミリアさんとルークがそれぞれ感想を言う。
「あの暴れ猪、見た目は凄い凶暴な感じでしたもんね。あれのお肉がこうなるとは……。
まぁ、早速頂いてみましょうか」
「それじゃ僕も遠慮なく♪」
4人それぞれ取り皿に取り、タイミングを合わせて口に運ぶ。
「おぉー、こういう味ですか。昔食べたのより美味しいなぁ」
「これこれ、これが猪ですよ! わーい、美味しいですー」
「少し野性味のある感じが良いですね」
「ふむ、これは精がつきそうだねぇ♪」
同じ料理でも感想が少しずつ違うというのは面白いものだ。
でも結局は美味しいってことだよね、ジェラード以外は。
「ふむふむ、こっちのサラダと一緒に食べるとまた良い感じですね」
「バランス良く食べると美味しいですよね。たまに舌のリセットをしていかないと!」
「……というとこっちのスープも良いですね。はぁ、しあわせー」
「そうですよ、アイナさん! 食事というのはやはり人間の基本だと思うんです」
「分かります! 美味しいものをたくさん食べるとしあわせですよね。
……実は私、大食いの人って苦手だったんですけど、エミリアさんのおかげでその意識も変わったんですよ」
「え?」
「エミリアさんってたくさん食べるけど、美味しく食べるのが前提じゃないですか。
私の知ってる大食いって、量を食べることが目的になってる場合が多かったので」
「そ、それは褒めてるんですか?」
「もちろんですよ。見ていてしあわせになりますもん」
「ふえぇ~……。私が男性だったら、このままアイナさんをお嫁さんにもらいたかったですーっ!」
「エミリアちゃん、その場合はルーク君を倒さなきゃいけないよ~?」
「私の愛はルークさんには負けま――……あ、いや。同じくらいだと思ってますので大丈夫です!」
「あはは、勝ってはいないんだ?」
「ジェラードさん! ルークさんのアイナさん愛を馬鹿にしてはいけませんよ!」
「エミリアさん……何を言ってるんですか……」
突然生まれた不思議な流れにルークも困り顔だ。
私はネタにされるのも案外嫌いじゃないから、こういう流れも純粋に楽しいんだけどね。
「まぁまぁ、みんなのおかげで旅も上手くいってますし、いつも本当にありがとうございます」
「あはは、アイナちゃんまでどうしたの? でも、僕も楽しませてもらってるし――」
「私たちも楽しんでますよ! ね、ルークさん!」
「ええ、もちろんです」
「えへ、打ち上げっていうことなので、たまには改まるのも良いかなと思いまして。
それにメルタテオスでの目的も果たしましたし、次は王都に向かうことを考えないとですね」
「そうですねー。それにしても案外早く終わりましたよね」
「はい、特にジェラードさんが頑張ってくれましたから」
「この調子で王都でも頑張るよー♪
ところでさ、メルタテオスはいつ発つの?」
「明日はさすがに急すぎるので、明後日くらいはどうかなって考えてます。
また一週間、馬車での移動になりますからね。やり残したことが無いかを改めて確認したり、準備をしたり?」
「今回は挨拶まわりに行くような方もいませんしね」
「そうなんだよね、そういった意味では少し寂しいかも?」
「ところでアイナさん、ガルルン教の展示スペースはあのままにするんですか?」
エミリアさんが思い立ったようにガルルン教の話を始めた。
あれもあんまり後先のことを考えないで作っちゃったから、どうしようかなぁ……。
「うーん……。特に何も考えてませんね」
「私、髪がふっさふっさになった教祖さんのこれからに興味があるんですが……。
何か神託を下していった方が良くないですか?」
「えぇ? 神託って――……」
「ほら、ガルルンの聖地も復興のために大変な時期ですし。
メルタテオスで慈善事業をやっているくらいなら、そちらを手伝ってもらったりとか」
ガルルンの聖地っていうのは、つまりガルーナ村のことだよね。
「ふむぅ……。エミリアさん、それは信仰心を利用しているような感じがしますよ?
なかなか良い案かもしれませんけど」
「疫病で寂れてしまった村を救う――神託としては特に違和感は無いかと思います!
それに多数の宗教って、信仰心を利用しているものかと思いますし」
「えぇ……? エミリアさんがそういうこと言っちゃって良いんですか?」
「いやですね、アイナさん。もちろんルーンセラフィス教は違いますから!」
あ、なるほど。自分のところ以外は――っていうことね。
確かに複数の宗教を容認する宗教は少ないから、ルーンセラフィス教がそうであっても特に不思議なことは無いか。
「それじゃまた袖の下を渡して、教祖さんが来たら信託のお手紙でも渡すようにしましょうかね……?
エミリアさん、また代筆をお願いしても良いですか?」
「はい、もちろんです!
神託の手紙を書けるなんて、聖職者冥利に尽きますよ!」
「いやいやエミリアさん。他宗教だし、そもそもガルルン教は創作宗教ですから」
「それでも貴重な経験をありがとうございます。――ってやつですね!」
「あはは、それじゃ明日にお願いしますね。
そうしたらガルーナ村の村長とセシリアちゃんにも話を通しておかないといけないかな?
村の特産品にしようとしてたものが、何やら急に御神体になってるわけですし」
「知らない人から見れば驚きの展開ですよね」
「作った本人も驚きですけどね」
実際、完全にその場のノリで作ったからね。
何であんなことをしたのか……という思いも少なからずあったりして。
「でも、私があの施設を案内したことが発端になったと思うと感動もひとしおです」
「ああ、確かにそうですね。エミリアさんは創立者の一人って感じですし……。
それではエミリアさんをガルルン教の枢機卿に任命いたします!」
「やったー! 辞退しますー!」
「えー」
速攻で辞退された!
「私はルーンセラフィス教に生きるので! その誓いは私の前提なんですよ!」
「エミリアさんは、こと宗教に関しては一本筋を持っていますからね。
……仕方ない、ここは諦めましょう」
「ありがとうございます。
この誓いが無ければ、そもそも私はずっとアイナさんの旅に付いていきたいくらいなんですからね!」
「あ……そうか、エミリアちゃんって王都までなんだったっけ。
アイナちゃんのお供はルーク君とエミリアちゃんでばっちりハマってるから、それは凄く残念だなぁ……」
「そうなんですよー!
それか、アイナさんがルーンセラフィス教に入って頂ければ良いのですけど……!」
「うーん、信徒ならともかく……。お抱えのプリーストとか錬金術師はやっぱり抵抗がありますね。
私はまだまだ旅を続けるわけですし」
「ふむぅ……。王都に戻ったら、そこを踏まえて上と相談してきます!」
「いやいや、無理はなさらず……」
「ところで王都に着いたら、エミリアちゃんとはすぐに別れちゃう感じなの?」
「あ、いえ。今のところ、私たちが王都を発つまではご一緒する予定です。ね、エミリアさん」
「はい! そこは何とか許可をもらおうと考えています!
もらえなければ長期休暇を取ってでも……!」
「私もエミリアさんとはできるだけ一緒にいたいですけど、将来不利になるような選択はしないでくださいよ……?」
「大丈夫です! たぶん」
「心配だなぁ……」
そのまま一時間くらい盛り上がったあと、眠くなってきたところで打ち上げは終了。
いつもみたいに歓談で終始するのも良いけど、何か目標を達成したあとの打ち上げっていうのもまた格別なものだよね。
また何か目標を達成したときは、ぜひ開催することにしよう。
次は王都で――うん、何が終わったあとになるかは分からないけど、それを想像してみるのも面白いなぁ。