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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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099 空より来る暴虐

「魔物出なくなったね」

『(ちまちまいるが、流石に全部が襲ってくるってことはないな。そもそも、さっき襲ってきたのを倒したところに群がってるのもいる。一斉に襲った場合は違うが、そうでなければ残された死体を食べるほうが都合がいいだろうな、向こうも)』


 弱肉強食とはいうものの、この迷宮においては喰らうために殺すわけではないこともある。

 襲われればその襲ってきた相手を倒す。追い返す余裕はなく、倒すしかない。

 もちろん逃げるのであれば見逃すだろうが、そもそも先に襲ってきたのは相手の方。

 冒険者側も迷宮攻略の意図があるとはいえ、襲われて手を抜くこともない。

 そして彼らも別に獲物の取り合いをしたいと言うわけでもない。

 隙ある獲物、弱そうな獲物、数の少ない単騎の獲物。そういうものを狙うのが基本だ。

 それゆえにネーデは他の魔物と半ば共同に近い形で襲われた。

 もっとも、ほとんどは倒され、一部は逃げた。そしてできた多くの死体は食料となる。


「そういうものなの?」

『(スライムを見ろ。スライムは基本的に魔物を襲うことができない。ゆえにできた死体やその辺に転がっている魔物の一部に群がる。仮にスライムが魔物を襲うことができるとしても、襲うよりも死体がある時に死体に群がって食べるほうが都合がいいだろうな。戦闘力がないし)』

「えっ?」

『(ネーデ、スライムに関しては俺を基準にするなよ? 絶対にするなよ? 普通はスキルを持つスライムや、意思を持つスライムってのはいないからな? 多分ネーデの中でスライムと言えば俺なのかもしれないが、俺みたいな強いスライムってのは普通いないからな? せいぜいビッグスライムかヒュージスライムくらいが限度だ。それも俺みたいに小さいままなのは普通いないからな、多分)』

「う、うん……」


 ネーデはずっとアズラットといるためか、スライムという存在の感覚が少々間違っている。

 別にその辺りにいるスライムをアズラットと同等とは思わないが、基準がアズラットだ。

 流石にアズラットのようなスライムがたくさんいるはずがない。

 もし仮にそんなことになれば世界の終わりだろう。

 実のところスライムに知能や知恵が発生した場合、かなり世界が危険なことになる。

 そういう点ではアズラットのような存在が増えるのは困ることなのである。

 もっとも、アズラットは極めて特殊な事例で増殖しても同じように知能を得ないだろう。

 本人も増殖をする気はないので安心だ。そもそも、今のアズラットが増殖した場合どうなるか。

 レベルで言えば四十を超えるほどだが、分裂の場合半分になる。

 だが問題はレベルではなく、種族。進化したスライム種の五番目、スライムキング。

 スライムキングが増殖し、一体でも野に放たれることになれば……とんでもない事態になり得る。

 だからアズラットの増殖は基本的に望ましいことではない。

 まあ、本人は増殖のやり方もわからないのであるが。


『(しかし……この階層、スライムもいないのか。ゴミ処理どうやってるんだ?)』

「え? あ、ここスライムいないの?」

『(まあどこでも見かけるからどこにでもいるものかとも思うんだが、いないところにはいないな。五階層とか。スライムは基本的にちまっとした埃とか血や肉の破片を食べる生き物、分解者としての役割があるんだが、いないのはそれが必要ないからなのかね)』

「……よくわかんない」

『(まあ、別にそれでいいさ。魔物はあまり見かけない。いくらかいるが、さっき一度に襲ってきたやつのは別として基本的にまばらだな……っていうか、隠れている魔物が多い。大きいのも小さいのも。隠れているって言っても、大きさが大きさだから隠れられてはいないが。あまり動かず、陰になるような場所にいるのが多い感じか? 何でこうなってるんだ……さっき襲ってきたのが例外っぽいな)』

「そうなの? でも、あまり魔物に会わないって言うならこっちとしてはいいかも。次の階層への道も探しやすいし」


 ネーデとしては魔物が襲ってこないのであれば探索がしやすいと喜ぶ。

 確かに探索しやすいのは事実。そのうえこの階層では魔物が獣ばかり。

 倒すことで次の階層へと移動できるかどうかを確かめる必要もない。

 既に十分倒せるだけの実力はある。

 最初の大きな襲撃を対処できたのだからそれで十分判明している。


(次の階層か……順当に行けばこのまままっすぐか、それともあの上の穴だと思うんだが。だけど確かあの穴に通じる道はなかったはずなんだよな。ってことは多分あの壁のどこかってことになる。森が広くてさすがに確認のしようが……いや、上から見直せればおおよその位置くらいは把握できたのか? 戻るのも手か。でも、あそこはあそこで見通しがいい。空を飛ぶ魔物もいるし、階段を魔物が登れないと言うことも……ないのか? 崖くらいなら自力で登ってくる奴もいるかもしれないしな。まだ見かけていないだけでどんな魔物がいるか。だいたい動物もいるし……そもそも、何で獣系の魔物や動物だけなんだ。どう考えてもおかしいよな、この階層)


 アズラットにとってこの十四階層はかなり疑問の多い階層である。

 何故ならこれまでの階層は基本的に進むほど難易度が上がっているからだ。

 特殊な階層になっているゆえに難易度が落ちている階層もあるが、徐々に魔物が強く環境的な脅威も増えている。

 十一から十三階層の環境的に厳しい迷宮は実にわかりやすい例である。

 その次の階層であるこの階層がただの森と言うのも奇妙な話である。


『(ま、次の階層……がどこにあるかわからないが、広いからな、森。っていうか壁にあるのかもわからない。もし森の中のどこかに隠されているとかだとなかなか面倒そうだな)』

「うう……そういうこと言われると探したくなくなる」

『(十三階層はそんな感じだったよな。次の階層への道が陸地でわかりやすかった…………)』

「アズラット?」

『(ネーデ、空から見えない位置に隠れろ。どこでもいい)』

「え? うん、わかったけど……」


 アズラットが振動感知で魔物の存在を把握する。そしてネーデに即指示を出す。

 ネーデも慣れたもので、理由は問わず言われた通りにする。

 空から見えない位置、ということは魔物は空にいるということ。

 ネーデが隠れた後、上空を魔物が通る。その姿は大きい。

 もちろんネーデの目にも見えた。


「…………アズラット、あれって」

『(竜だな。まあ、竜は竜でも翼竜、ワイバーンとか言われる奴なんだろうけど)』

「大きい……あれ、でもあの魔物、上から見た時に見た覚えないよ? 森にいた……とは思えないんだけど?」


 ワイバーンの巨体で森にいたならば、その動く音が聞こえてもおかしくない。

 九階層で巨虫が樹々をなぎ倒す音が聞こえてきたように。しかし今回はそれがなかった。

 つまりあのワイバーンは森から飛翔し空に出たわけではないと言うことである。


『(あの穴だ。森からも見えた、壁に空いた穴。多分あの穴だろ)』

「あそこ……」

『(ああ。とりあえず、だ。あれに見つからないように行動しよう。流石にあれを相手にするのは無理かもしれん)』

「うん……私もちょっと怖いし。でも、竜、かあ……竜生迷宮って言うし、やっぱり出るんだね」


 竜生迷宮。その名前がこの迷宮につけられているが、今まで竜の類は見たことがない。

 しかしこの十四階層でようやくその魔物が出てきた。竜の魔物。それは途轍もない脅威。

 二人はそれに見つからぬよう、森に隠れ、森を進み、次の階層へと目指す。

 その先に待つものも知らず。

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