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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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097 本当に怖い迷宮の話

「はっ!」

『(ここでも出てくるか……砂、岩と続いて泥か)』

「弱いし倒しやすいから……でも、動きにくいから相手しづらい……」

『(砂地の方がまだまし。砂は砂で厄介だけど。岩は硬いしなあ……泥は泥で斬れば簡単には直らないみたいだが、足場が悪い)』


 大沼の階層、その最大の問題点は出てくる魔物よりもその足場。泥と水中である。

 出てくる魔物はかつて倒したことのある魔物、水中を泳ぐ雑魚に近い魔物、空を飛ぶ魔物など。

 途中で見た大蛇のような強力な魔物もいないわけではないが、そう多くはない。


「っ…………何あれ」

『(……大きな人型の草? 人の形をした草の塊、か?)」


 移動するネーデを感知したのか、水の中からのそりと現れる大きな影。

 もともとは泥から生え、水から出ていた草のようなものが一塊になっていた。

 それがまとまり、大きくなり、立ち上がった人型の存在である。


「……えっ、ちょっと待って、これ、私泥で動きにくいんだけど?」

『(<跳躍>、<跳躍>を使う)』

「……それしかないよねっ!」


 もう一度言うが、この階層における最大の問題点は出てくる魔物よりもその足場。

 泥で動きにくく、体が水中に浸かりさらに動きにくい。

 それに対し魔物は元々この場所の環境に合わせたもの。当然動きやすい。


「っと!?」


 草の塊、巨大で立ち上がったそれが自分に攻撃を仕掛けてきたネーデを殴り飛ばす。

 <防御>もあるし、剣でも受けられることもあるため大したダメージにはならない。

 しかし、場所が場所である。


「きゃっ!? ぶっ!」


 ばしゃん、と水に落ちるネーデ。通常の跳躍ならある程度着地を制御できる。

 しかし今回は殴られ吹き飛ばされた形であるため、不安定な体勢のまま水に落ちた。


「うっ! くぅっ……」

『(大丈夫か?)』

「うん、水に落ちたからちょっと……うー」

『(まあ、今は置いとけ。倒さないと意味ないし、そもそも水場から出ないとだめだしなあ……)』

「そうだね……水から出ないと意味ないよね」


 この場所にいる限り水に浸かったままである。半身だけ水に濡れるか全身が濡れるかの差だ。


『(あれ倒すのなら俺でもいいが?)』

「むー……アズラットに頼るのは、ちょっと……」

『(まあさほど強くはなさそうだしなあ……でも、やりづらい相手だが)』


 巨大な相手に動きにくい場所での戦い。実にネーデにとってはやりづらい状況のようだ。

 幸いなことに相手の攻撃の威力が低く<防御>や単純に剣で受けるだけでも十分なようではあるが。






「トンボッ!」


 蜻蛉。それも大きな蜻蛉がネーデを襲っている。

 この階層の魔物は基本的に空にいるか水にいるの二種の特徴を持つ。

 それなりに種類はいるものの、そもそも脅威となる魔物は多くない。

 泥を体とした人型魔物、水中の魚の魔物、虫系統の魔物。珍しいものとして、草の塊の大怪人。

 あとは蛇系だろう。とはいっても、最初の方に見た大蛇以外には大量に群れている蛇だけだが。


「くっ! 速いーっ!」


 大蜻蛉は動きが速い。だが本来の蜻蛉ならもっと速いと思われるが、それよりも遅く感じる。

 少なくともネーデで対応できるくらいの速さである。

 それでも空中をぶんぶん飛び回るのはなかなか厄介な所だ。

 こんな場所では<投擲>を使うための投げるための道具もない。

 そういう意味合いでは空を飛ぶ魔物を相手にするのは実にやりにくいことだ。

 <跳躍>での空中戦闘も流石に限度が存在する。


「た、あっ!」


 アズラットを頼る、というのはネーデとしては望ましいものではなく。

 また、それ自体もなかなか厳しい。

 ある程度の速度ならなんとでも相手ができるかもしれないが、蜻蛉はその動きが速い。

 全体的な速度としてはともかく、要所要所ではかなり速い。

 なのでアズラットを投げつけても恐らくは当たらないだろう。


「はあっ!」


 ゆえに相手の攻撃のタイミングを狙うしかない。

 幸い<防御>で防げるので受けてから直後での反撃が一番いいだろう。


「っ! たあっ!」


 首を落とし、ようやく蜻蛉を落とすことができた。


「ふう…………」

『(休んでいる暇はないぞ! っていうか、でかいの来たっ!)』

「えっ!? あ、で、でかいっ! っていうか、あれってあの蛇!?」


 ネーデとアズラット、その目と感知能力で確認される巨大な水飛沫とその体。

 かなり早くに見た巨大な蛇、大蛇である。


『(アナコンダか何かかあれ……?)』

「あなこんだ?」

『(いや、いい。っていうかあれ明らかにこっちを狙って動いてきてるんだが)』

「は、早く逃げるっ!」


 前回大蛇が現れた時はなんとか逃げることはできた。

 しかし、今回はどうやら追ってくるようだ。


「っ! くぅ、地面、柔らかくて、逃げにくいっ!!」

『(水もあって移動が厄介。そのくせ相手は水中を泳ぐように……あれ、泳いでるのか?)』

「知らないよっ!」


 大蛇はネーデを追ってくる。熱を感知しているのか、食いでのある獲物だと思ってるのか。

 魔物にとっての食欲、必要な餌としての要素はまた不明点が多い。

 アズラットを見ればわかるが、強い魔物の方が餌としての要素は大きい。

 単に食欲を満たすなら大きいだけの方がいいのだが。

 まあ、アズラットの場合は食べる事が経験値を稼ぐことに直結する。

 そういう点では他の魔物は微妙に違ったり変わったりするのでまた話が別だろう。

 もっとも、他の魔物がどういう事情かは知らないし、全部同じかどうかもわからない。

 そういう話はさておき、大蛇は迷わず惑わずネーデを追跡する。


「あれ、どこまで、追って、来るのっ!!」

『(振り切るまで逃げるしかないよな……駄目そうなら、俺が相手をするしかないだろうけど)』

「うう、頼りっぱなし、ちょっといや、だなあ……っと!」


 大蛇は恐らく特殊な攻撃能力がないだろう相手。

 一応蛇なので毒くらいは持っているかもしれないが、それがアズラットにはほぼ通用しない。

 なのでアズラットであれば問題なく大蛇を対処できるだろう。

 砂漠のワームと違い、大きさはそこまで極端に大きくないので単に体で飲み込むだけでいい。


「……?」

『(……あれ? いきなり逸れていった?)』


 逃げながら大蛇をどうにかする手段を彼らは考えていた。

 しかし、大蛇は何故か途中で別の方向へと逃げた。


(考えられるのは縄張り、もしくは追うだけの余裕が無いか別の獲物を見つけたとか? いや、それならもう少し何かあってもいい。そもそも縄張りだってこの場所はあれと最初に出会った場所よりも……っていうか、他にも大蛇がいる可能性もあるか。何とも言え)

「っ!?」

(っ!)『ネーデ! <跳躍>!』

「わ、かった!」


 アズラットの言葉に反応しネーデが<跳躍>する。

 もっとも、ネーデはアズラットの言葉の前に反応だけはしていた。

 それゆえにアズラットの言葉に応答しながらの<跳躍>である。

 まずアズラットの振動感知、ネーデの<危機感知>にそれが引っかかっていた。

 そしてネーデは<跳躍>を使い、<危機感知>の反応に従い大きくその場から離脱。

 その一瞬後。ネーデのいた場所が地面から現れた大顎によって喰われた。


「…………え。なに、あれ」

『(…………なんだ今の)』


 ネーデも、アズラットも、今の物に関しては何も説明できない。

 巨大な大顎が地面の中から口を開き、その場に存在するものを呑み込まんと閉じた、というのが見たままだ。

 ネーデは見たこと以上に理解が及ばないが、アズラットは少し詳しい部分まで理解してしまう。

 それは生き物のように存在せず、ただ地面から発生し大顎を伸ばしていた。

 そう、生き物ではない。食べる部分の口だけしか存在しない生き物なんて存在しない。

 魔物は多種多様だが、それでもまだ生物らしい様相をしている物だ。

 もっとも、特殊なスライムだと言われれば、まだ納得はできるかもしれない。

 アズラットみたいな特殊なスライムならば、口だけに見かけ上の変形は出来そうだからだ。


『(とりあえず、逃げるぞ。あれはなんかよくわからん、恐ろしい)』

「アズラットも怖がるんだ……」

『(何かわかるならまだいいんだが。わからないものが一番怖いんだぞ)』

「……そうなんだ」


 迷宮の中で見た謎の存在。それにアズラットは怯えを見せ、ネーデもそのことから恐ろしく思う。

 実体としては一つ前の砂漠のオアシスに近い。環境型の環境そのものの魔物。

 対処手段はほぼないと言っていい魔物である。それゆえに恐ろしく感じでも仕方がないだろう。

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