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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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096 大沼の階層

 第十三階層。砂漠を越えた先、岩場の中にある道。

 その向こうには確かに水気の存在する階層である。


「…………広い」

『(広いな。そのうえ陸がない……沼か湖……海ではないだろうが……)』

「……もしかして、これ、水のところを行かなきゃいけないの?」

『(おそらく)』


 入って来た場所周辺にはそれなりに陸地がある。しかしながら、それ以外の場所は全部沼。

 そして陸地周りに次の階層へとつながる道が存在するようには見えない。

 つまりこの沼を越えた先、もしくは途中のどこかに次の階層への道がある。


「……ふあ。いけるかなあ?」

『(ひとまず……この安全かもしれないこの付近で休もうか)』

「……うん」


 凍土を越え、砂漠を越え、ようやくたどり着いた十三階層。

 オアシスを素通りした結果、休める場所もなく巨大な魔物にも追われた。

 当然溜まっている疲労もかなりのもの。ここにきて疲れが押し寄せる。


『(……ネーデ)』

「……」

『(……とりあえず、大丈夫そうなところに運ぶか)』


 立ったまま眠りについたネーデ……ということはなく、入ってきた所の近くに寄りかかっている。

 流石にそこに放置するわけもいかず、しかたなくアズラットはネーデを運ぶことにした。






 そして睡眠をとって翌日。太陽の変化を確認できないので正確な日付は不明である。

 よくよく考えれば十二階層もおかしいが、この十三階層もなぜか太陽光が差している。

 それが迷宮だと言われれば仕方ないのかもしれないがやはりどこかおかしいと思えてくるだろう。

 もっとも、太陽の動きがない以上あくまで疑似的なものである考えられる。

 そんな話はさておき、ネーデとアズラットは沼地に身を投じていた。


「んー……足、結構深く入る……」

『(ぎりぎり下半身が入り込まない、といった具合か。それはそれで微妙だな……)』

「水に浸かるよりも、地面に沈み込むのが……う、足動かしにくい」


 水中での動きというのはネーデにとっては初めての物である。

 一応水場での活動というのは経験があるが、水に入り込んだ経験はほとんどない。


「くっ、んっ、っと!」

『(<跳躍>か。要所要所で便利だな……っていうか、<跳躍>しないと動けないか?)』

「普通に動くのもできるけど……遅くなるから。でも<跳躍>だと水から出ちゃうね」


 水の中、地面に足が入り込むため、それを持ち上げて動かなければならない。

 それゆえに動きが遅くなる。それをどうにかしようと<跳躍>すると自ら出てしまう。

 そして再度水に入り、その時歩くよりも余計に沈み込む。また、水飛沫と音も厄介だろう。

 なぜならこの場所は沼地が主となる階層。基本的に迷宮の魔物は階層に合わせた生態を持つ。


『(……ネーデ。<振動感知>)』

「っ……何か来てる? 魚?」


 ざざざと水の中を進む存在を<振動感知>にて探知する。水の動き、水飛沫、音。

 ネーデが動いた結果起きたことに反応して寄って来たものだろう。

 あれだけ大きな音を出していればしかたない。

 ただ近寄るだけでは<危機感知>に反応はしないが、動けば<振動感知>に反応する。


「……水の中、だよね? どうやって相手するの?」

『(そりゃ普通に水に向けて剣を振って)』

「えっ」


 水の中の戦闘という点において、アズラットから何も言えることはない。

 そもそも、ネーデの戦闘に関してアズラットから言えることは特にない。

 アズラットは確かに水中戦ができる。しかし、そもそもの攻撃が取り付いて包み潰し殺すのみ。

 水の中だろうと外であろうと攻撃手段は変わらない。教えられるようなことはない。


「わっ!! ちょっ! くぅっ!?」

『(<防御>が仕事してる……って、すぐ消えるか。数が多い、攻撃回数が多い。ちまちました攻撃だが回数のせいで<防御>がすぐ効果を無くすのか)』

「前は、空飛んでたのにっ!!」

『(それはそっちが例外だな)』


 六階層で出会った空を飛ぶ魚の魔物。それは比較的相手がしやすい物であった。

 しかし、今度は水の中にいる。外にいれば相手をしやすいが、水の中はなかなか面倒だ。

 もっとも、こっちが普通なのだが。


「とっ! やっ! ふっ!」


 水の中にいる魔物に対しネーデが的確に剣を振るう。

 沼地の水は濁っており目で見て魔物に対処するのはかなり難しい。

 しかし、アズラットもそうであるがネーデにも<振動感知>ができる。

 水を進むその魔物は<振動感知>により居場所が把握できる。ゆえに対処が可能だ。


「た、倒したー…………」

『(お疲れ。ま、とりあえずこれで…………って、言いたいんだが。すぐにこの場から離れるぞ)』

「え? 何で?」

『(あれ)』

「……っ!? で、でっかい!?」

『(逃げるぞー)』

「うん! 逃げるっ!」


 アズラットのふんわりとした指示でネーデが向いた方向には巨大な水をかき分ける何かが存在した。

 それを遠目ながらネーデが確認し、ネーデもその大きさに驚き逃げることを選ぶ。

 その存在は僅かにその姿を確認できるがネーデすら容易に飲み込めるような大蛇である。

 なぜ現れたのかは不明だが、ネーデを狙ってきたか、鮫のように倒した魔物の血に寄って来たか。

 わからないが、ひとまずその場所からネーデは離れることにした。


「う、動きが、遅いー!」

『(<跳躍>を使え。移動するときはしかたない。魔物が寄ってくるかもしれないが、それはそれだ。急いで逃げること優先!)』

「わかった!」


 とりあえず現状は魔物の対処よりも、危険な魔物からの逃走の方が重要である。

 そのため<跳躍>を使い、一気にその場を離れるのであった。






『(思えば、<跳躍>すると目立つから追われる危険もあったな)』

「今更だよね、それ。追ってこなかったからよかったけど……っと!」


 先ほど大蛇を見かけた場所から大きく離れ、現れた魔物の対処をする。

 以前の階層でも見かけた魔物が何体かこの階層でも出現している。

 水棲系の特徴、あるいは水中生物、そういった特徴を持つ魔物達が。


「はあっ!」

『(……上で何度も倒したことのある魔物だから今更ここで出てきてもな)』

「弱いよね……でも、食べる分にはちょうどいいかな?」

『(まあ、でかくて喰う部分には困らないし、大きいから肉を取りやすい。小さいと水の中にいる場合探しにくいしなあ)』


 魚のように水の中にいる小さな魔物の場合、倒しても回収がしづらい。

 なぜかこの沼地では水の中に沈んで行ってしまう。物理法則とかは気にしてはいけない。


「……蛇!」

『(小さいが数は多いな。倒せるか?)』

「魚と同じだから倒せなくはないけど……河馬の方に来てる?」

『(じゃあ無視してはなれるか。食料は?)』

「まだあるから大丈夫」

『(よし、なら他の所へと向かおう)』


 魔物も全てが迷宮の侵入者である冒険者に向かっていくことはない。

 彼らもこの迷宮で生きる生き物の一種。それゆえに襲いやすいものを優先する。

 生きている冒険者よりも倒された魔物の方が抵抗せず食せる。


「……鳥がっ!」

『(空の魔物は水中行動を気にする必要がなくて楽そうでいいな)』

「くっ! な、投げる物はっ!?」

『(ネーデが持っていないならないってことだろ……じゃあ、俺を投げとけ。<圧縮>を解除して全部飲み込むから)』

「…………うん、わかった。ごめんなさい、お願い!」


 頭の上にいたアズラットをネーデが掴み、それを鳥に向けて投げた。

 <圧縮>を解除し、ぶわっと広がったアズラットの体はネーデを襲おうと上空にいた鳥を飲み込む。

 そして着水。一気に再度<圧縮>し、大きさを元に戻す。


『(……っと。悪いな)』

「いいよ。アズラットには助けてもらってばっかりだし。私の方こそ投げてごめんなさい……」

『(気にするな。持ちつ持たれつってやつだ)』


 アズラット自身基本的には何もしないことの方が多い。これくらい、と言った所だろう。

 もっともアズラットはネーデが寝ている間に周囲の監視を行っているので本当に全く何もしていないわけでもないが。

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