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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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092 次の階層への途中で

「……本当にこっちでいいのかな?」

『(流石に冒険者が他の冒険者にわざわざ嘘を教えないだろ)』

「…………多分ね」


 現在ネーデはオアシスから出て次の階層へと向かっている。

 二人とも次の階層への道はまだ把握しているわけではないのでどこに進むかは決めていなかった。

 そこで次はどうするか、どちらへ向かうかという所で話しかけてきた男に対し質問をしてみた。

 次の階層はどちらに向かえば進めることができるのか? そう聞いてみたのである。

 結果、男から教えられた方向がこちらである。


『(こっちに進めば岩場がある、そこに次の階層に繋がる洞窟がある。割と具体的な話だったな)』

「そうだね」

『(……嘘だと思ってるか?)』

「………………」


 ネーデ自身その内容を嘘だと思っているわけではない。何故なら嘘をつく意味がないからだ。

 そもそも冒険者が他の冒険者に手を出す意味合いが少ない。

 特にネーデの場合、貧相で幼い少女趣味でもない限りは余程飢えてなければ手を出さないだろう。

 争いすること自体そこまでメリットのある物でもない。奪える物も大したものがない。

 単に殺す、死なせるだけなら、競争相手を減らすのならばオアシスの事を教えなければよかった。

 あのまま行けばネーデはオアシスの水を飲み死んだことだろう。

 そもそも、冒険者が他の冒険者に情報を教えるのは将来的な見返りを期待してのものだ。

 同じ迷宮への挑戦者、何か危険なことがあれば手を取り合い助け合うこともある。

 そういった時、相手の自分への心象という者は重要だ。

 ゆえに嘘を教えず真実を教え、相手に恩を売りいざという時の助けとする。

 その方が教える側にとって都合がいいし得も多い。


『(ネーデ?)』

「嘘だとは思ってない……それは本当」

『(……そうか)』


 その言葉は事実だろう。嘘だとは思っていない。

 だが、やはりネーデの心の奥に刻まれている冒険者への不信は根強いと言うことだろう。

 それゆえにその言葉を信用しきることができない。


(……まあ、ネーデが他の冒険者と一緒に行動する機会はいつか訪れる…………といいなあ。正直、ずっと一人を貫くかもしれない。俺がいる間は他の冒険者と一緒に行動する機会は恐らくないだろう。はっきりと信頼、好感度的に見れば冒険者よりも俺の方が高い。これは自惚れではなく、客観的に見た上での判断だ。うん、そこまで信頼されるようなことしたかな……俺)


 ネーデの信頼が重い、とアズラットは思っている。

 まだ頼り切りとまではいかないのが救いだろう。


(……ん?)


 移動をしている中、アズラットは何かを感じる。アズラットの振動感知能力は高い。

 それゆえにある程度遠くにいる魔物でも、砂の中にいる魔物でもかなり多くの物を感知できる。

 しかし、今回のアズラットの感知は全体の振動だ。まるで地震のような振動。


(地震……迷宮の中で? ありえないとは言わないが……いや、単に地面が揺れているだけか? それはそれで変な話だが、ありえないとも……でかい魔物とかが踏み鳴らすだけで、いやそれはない? だってここ砂漠、あるとすれば大地の中にいる……にしては振動がでかい。大きな魔物が地面の中を進んでいるような……って! やばいんじゃっ!? いや、気づかれていないだけで)

「っ!? な、何か……ねえ、アズラット、わかる?」

『(わかる? 何が……って、やっぱ振動が、来る! 全力で前へ駆け抜けろっ!」

「うん!」


 アズラットの指示の意味は分からずとも、アズラットの焦る気配にネーデは言葉のまま駆け出す。

 ネーデとしても<危機感知>に攻撃の危険を感知していた。


「っ!! で、か、またでたあっ!?」

『(ワーム……こんなところで出るとか。っていうか、偶然か? それとも、住処とか……あるいは)』


 アズラットはあることを考える。果たして魔物が一度獲物と定めた相手を逃がすものかと。

 魔物の種類にもよるが、色々と追跡手段がある。例えば臭い、例えば気配、例えば種族。

 感知できるものやその範囲、何をどうやって感知しているのかもわからないが、そういうことができる。

 種族特性か、それともスキルか。

 そこはわからないが、ともかくこのワームはそれを持っているようだ。


「追ってくる!?」

『(追ってくる!)』


 またもワームとの逃走劇が始まった。しかし、今度は先のように都合よく逃げられるだろうか。






(どうする? 流石にまた魔物の群れに出会うとも限らない。仮に以前会った奴と同じ奴で追跡してきているのなら、次の階層へと振り切るか倒すかするしかない。そもそも、それで完全に逃げられるか? また来た時に襲ってきたりしないか? いや、そもそも完璧に逃げ続けられるか?)


 巨大なワームに追われ、ネーデが逃げる中、その頭の上でアズラットは考える。


(……難しい相手だが、倒すしかない。ネーデで相手にすることは出来なくとも、俺ならば)『(ネーデ!)』

「何っ!?」

『(俺をあいつに投げろ! 体内に入って倒す!)』

「そんな、こと、できないっ!」

『(じゃあこのまま逃げられるか!? 今のうちに倒しておかないとまた出会うかもしれない! それに、前みたいに都合よく逃げられるとも限らない!)』

「……!」


 ネーデにとって師であり、恩人であり、大切な仲間であるアズラットを投げるのは苦しいことだ。

 それが魔物を倒すため、魔物に食わせるためというのもまた内容としては嫌なものだ。

 そうすることで相手を倒せる可能性がある、内部から溶解させるという攻撃手段があるのはわかる。

 わかるからといって、そういうことができるかどうかは別問題だ。


『(ネーデ! さっさとやれっ!)』

「っ! っ!! わ、わかったよ!!!」


 泣きそうになりながらネーデはアズラットの言葉に従う。

 そこまで彼女にとってアズラットを相手に投げつけ手放すのは嫌なことだ。

 しかし、この状況でそれを押し通すのもまた難しい。


「いくよっ!」

『(ああ!)』


 鍛えられたスキル、<投擲>のスキルでネーデはワームへと投擲する。その口へと向けて。


(ぎゃあっ!?)

「アズラット!?」


 後ろを振り返りながら走ると言うのはかなり厳しい。なので、ある程度しか様子を把握できない。

 そんな形であるが、ネーデはアズラットの様子を把握してしまう。できてしまう。

 ある程度成長した<振動感知>のおかげもある。無意識にアズラットを追ったためだろうか。


(ぐぬぬ…………まさか、うまく口の中に入らず、唇……歯……? そこに当たってしまうとは。まあ、ネーデの<投擲>も目標に完璧というわけではないし、俺の行動次第でも軌道が変わるかもしれない。それに相手も動いてるしな……走りながら投げるってのもきついか。しかたない……が、なんとか張り付けたが外側か!)


 ワームの外側、その場所にアズラットは張り付けていた。

 なんとかぎりぎり掴むことは出来ている。

 しかし、この状態ではワームを倒すのは厳しい所である。

 外側にいるため<圧縮>の解除では倒せない。

 仮に解除してもワームを包み込むのは厳しい所がある。

 それに相手も移動をしている。そんな中広がっても後ろに置いてかれそうになるだけだ。


(どうする……どうする?)


 現状を打開する手段をアズラットは持っていない。

 アズラットの今のスキルではどうしようもない。


(今、考える。この状態で新たなスキルを得る、それが打開策!)


 しかし、一つだけ手段がある。新たなスキル……まだアズラットはもう一つスキルを獲得できる。

 目の前の相手を打開するスキルを覚える。それがアズラットのとれる対抗手段である。

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