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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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080 竜生迷宮十階層突破

 十階層、階段とも思えるような連続した足場の塔の底。

 その場所にいた、隠れた何者か。それはどうやら冒険者ギルドの職員であるらしい。


「……本当に?」


 しかし、それには疑問点が数多くあることだろう。

 まずなぜこの場所、十階層の一番底にギルドの職員がいるのかということ。

 そしてなぜ彼はその姿を隠していたのかということ。

 そういった不明点がどうにも怪しく、行っていることが真実なのかの判別が難しい。


「ああ、本当だ。ほれ」


 職員らしい男はぽいっとネーデに何かを投げてくる。

 ネーデはひゅんと空中を飛んでくるそれを受け取る。<危機感知>は反応していない。


「……冒険者カード?」

「それの実績の欄を見ろ。流石にこれは偽造できるもんじゃないからな」


 ネーデは受け取った冒険者カードに視線を移す。

 名前、レベル、称号、スキルなどももちろん見える。

 しかし重要ではなく、また別に知ったところで意味がないのでさっと見る程度にとどめ、実績を見る。

 そこにはいくつかの迷宮の階層突破の実績と、その中で異質な冒険者ギルド迷宮監督というものがあった。


「……迷宮監督?」

「ああ。迷宮において冒険者の階層突破の報告は基本的には持って帰った迷宮の魔物が基本になる。浅い階層はまあそれでもいいんだがな? 深い階層となるとちょっと話は違ってくるんだ。世の中ずるしてお金で……例えば竜生迷宮、ここの奥にでる魔物の素材をこの迷宮から戻る冒険者から購入してそれをギルドに提出する、なんてこともできるわけだからな。そうすると本来の実力では到達できない階層を突破したと言う実績になるわけだ」


 現状のギルドの実績はギルドで書き換える必要性のある物。

 人間が行う仕組みであるため、またその判断手腕の問題もあって完璧なものではない。

 それゆえにそういったずるをして実績を得ることができるのである。

 もっとも、レベルやスキルから可能か不可能かわかる。

 それゆえにそこまで問題ではないかもしれない。


「そういう手段があるんだ……」

「おいおい」


 感心したようにネーデが呟く。流石にその反応に職員の男は困ったように反応する。


「ま、確かにそういう手段ができてしまうのは事実だ。だから俺のような職員がこんなところにいるんだよ。まあ別の意味もあるけど」

「……?」

「ギルドの職員がここに来た冒険者に、この階層を突破したという証明をするんだ。それがなければたとえ深い階層に出る魔物の素材を持って帰っても実績に記録されない。その証明を俺が発行しているというわけだ」

「そうなんだ」


 ネーデは正直に言ってどうでもいい感じである。

 ネーデにとって特にギルドの実績は重要ではない。

 そもそも実績があろうがなかろうが、今のネーデは冒険者に対し不信を持つ。

 実績は主に冒険者の実力を示すものである。

 つまりはこれだけの実力を持つと見せる相手が必要だ。

 逆に言えば、ネーデのような一人で探索するような冒険者には実績をわざわざ更新する必要性がない。


「……ま、お嬢ちゃんはそのスライムと一緒に行動しているだけならあまり関係ないかもな。それ、従魔か?」

「別に何でもいいでしょ」

「取り付く島もないか。ま、とりあえず俺としては仕事をしたいわけなんだが……冒険者カードを渡してくれねえか?」

「……それくらいなら」


 職員の男のギルドカードを返し、ネーデは自分のギルドカードを投げ渡す。

 未だ男が敵か味方かもわからない。

 仮に語っていることが真実であっても男が味方であるとも限らない。

 なのでネーデは今も変わらず警戒をし続けている。

 もっとも、持っている武器は折れているのでどうしようもないわけだが。


「っと……うむ、わるいな。さて…………やっぱり<従魔>はないわけか」

「…………っ!!」


 職員の男がギルドカードを受け取りその中身を見る。そして呟くその言葉。

 その意味合いを、ネーデはその言葉を聞き……少し時間をおいてから理解した。

 <従魔>は魔物を従えるスキル。ネーデの頭の上にいるスライムは恐らく従魔であるもののはず。

 しかし、そのスキルに<従魔>がないのであれば、それは野放しになっている存在であるはずだ。

 つまりこの迷宮に存在する魔物の一種。そして、何故かネーデに手を貸している謎の魔物。

 それを危険視するかもしれない、その結論にネーデは至った。


「あなたっ!」

「落ち着け。俺は流石に何かするつもりはねえ。冒険者の問題は冒険者で解決するべきだ。それに……お前の頭の上にいるそいつが特に害があるわけでないってんならこっちから手を出すわけにもいかん。下手に手を出して藪蛇になることはよくあるこった。だからここにいる俺は特に何かをするつもりはねえよ。そもそも俺はここにいて長いんだ。補給とかはあるが入れ替えは碌に来やがらねえしな」

「………………」

「どっちにしろバレちまったんだからそっちがどうにかできるわけじゃねえ。ま、俺を殺すってんなら話は違ってくるかもしれねえが……やれると思うか?」


 周囲の空気がピリピリと肌を刺すようなものになっていく。

 ネーデもアズラットもその気配に気づく。

 男との実力差は極端に大きなものではない。

 うまく戦えれば二人が勝つこともできるだろう。

 しかし、そこまでしてこの男を消す意味合いはあるものか?

 ほとんど意味のない戦いになる以上、やらない方がいい。


『(ネーデ。別に俺の事に関しては知られても特に問題はない……とは言わないが、あちこちに流布されるならともかく知ったが言わない、ってなら別に気にする必要はないぞ)』

「……!」『(で、でも……)』

『(別にこいつだけにばれる危険があるわけじゃない。それに、あまり気にしても仕方がないところでもある。従魔とかだろうが、迷宮の魔物だろうが襲ってくる奴は襲ってくるしそうじゃない奴はそうじゃない。何かあればその時に対処すればいい。ネーデはそういう部分で心配するな。全部俺が対処するから)』

『(……わかった)』


 アズラットとしてはそこまで気にすることでもない。

 最悪ネーデから離れて隠れる、逃げる手段をとることができるのだから。

 その場合でもネーデ自体に害が及ぶことは恐らくないだろう。

 称号に存在する契約は少々怪しまれるかもしれないが。


「っと。ほれこれで終わりだ」

「っ」


 職員の男がネーデの冒険者カードを投げてきて、それをネーデが受け取る。

 何かされていないかをネーデが確認し、実績に見慣れないものを見つけた。


「竜生迷宮十階層突破かっこかり……?」


 竜生迷宮十階層突破(仮)。

 それが冒険者カードに書き込まれていた。(仮)がちょっと間抜けだ。

 いや、それはいい。どうやらギルド職員である男は冒険者カードに書き込みができるようだ。

 もっとも、恐らくそれは自由なものではなく十階層の突破に関するものだけだろう。


「ああ。それで外の冒険者ギルドにもっていけば、そこで仮ってのが外れて改めてそれまでの実績に上書きされるってわけだ。ってか、お嬢ちゃん三階層からずっと冒険者ギルドに行かずにここで攻略してたのかよって見てて思ったぞ」

「……別にどうでもいいでしょ」


 男の言葉にネーデは睨みつけながら言葉を返す。

 誰に何と言われようともネーデにはよろしいものではない。

 ネーデにとって信じるに値するのは今のところアズラットくらいなのである。

 むしろ依存に近しいくらいの信頼になっているのはアズラットとしても少し不安に思う所であるが。


「ま、俺にはあまり関係のないこった。次の階層に行くならそこだぞ」


 男が指した方向には次の階層への入り口がある。


「……それじゃあ私は行きますから」

「ああ、好きにしな」


 男は特に何をするでもなく、その場でのんびりゆっくりと佇んでいる。

 その姿をネーデは奇妙に思いつつ、しかし別に気にしても仕方がないと考える。

 

「よし、なら次の階層へ!」

(……ん? あ)


 アズラットが何かに気づくが、その前にネーデは男の存在から逃げるように次の階層へと入っていった。

 竜生迷宮の十一階層。そこに何があるのか、どのような魔物がいるのか、まだ二人は何も知らない。

 そしてどのような脅威が襲ってくるのか……それはすぐにわかることになるだろう。






「さ、さむっ、さむいっ!!!」

(さ、流石に凍りかける……いや、すぐには凍らないけどさあ……)


 あっさりと二人が帰って来た。

 十一階層には今までの階層とは違う新たな脅威があったためである。

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