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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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008 最弱者の生活

(…………………………)


 スライム穴の中から一体のスライムが外を見ている。その視線の先には魔物の死体がある。

 そして、その死体にスライムが群がっている。ごく普通の迷宮内ではよくある光景だ。

 だが、スライム穴の中にいるスライムはその死体に近づこうとはしない。

 スライム穴の中にいるスライムはアズラット、かつてスライムではなかった今はスライムに転生したと認識している存在である。

 本当ならば死体に近づき死体を食べ、自分のレベルを上げたいと彼は思っている。

 だが、死体に対する違和感、なんとなく感じる嫌な予感。

 それが彼を死体に近づけることはなかった。


(おかしい。あの死体はおかしい……何がおかしいって、色々おかしいんだよな)


 具体的に何がおかしいと言うと、その死体の様子である。

 迷宮内にある死体は基本的にその階層にいる魔物だ。

 だが、その魔物は体の大きい魔物で、一階層にいるスライム、大鼠、大蝙蝠の三体ではない。

 外から侵入してきた魔物か、もしくは下階層から一階層に来た魔物か、とも思うが、魔物の死体の様子からも奇妙だ。

 魔物として殺されたにしては、傷が殆ど無い。

 この一階層の魔物ならばあっさり殺されることもあるだろう。

 しかし、その魔物は一階層の弱い魔物ではなく、恐らくはそれなりに強い魔物であると予測できる。

 スライムが群がっている状況なので少し判断はしづらい。

 だが、それくらいはなんとなく見て推測できる。


(……ん?)


 様子を見守っていると、振動感知に近づいてくる存在が引っかかる。

 その振動に引っかかったのは迷宮内を移動する人間達だ。

 それも、普通の冒険者とは少し違っている。

 何が違うかと言うとその数だ。冒険者は多くても六人くらいの人数で迷宮を探索する。

 これは迷宮の大きさの問題やその冒険者達での分配の問題、役回りの問題など色々とあるだろう。

 要はそれくらいの人数が冒険者としては安定した人数である……その中でも最も多いのがそれくらいということだ。

 だが、その振動感知で引っかかった人間は十数人ほどの数がいる。

 一体何事か、何を目的にしているのか。

 スライム穴からその人間たちの動向を確認するアズラット。

 そしてその人間たちはやって来た。その人間たちは振動感知、明瞭ではない視界で見る限り、布の袋を持ち手袋のようなものをつけている。

 彼らは置かれていた死体に近づいたかと思うと……そこに張り付いているスライムたちに手を伸ばし、掴んだ。


(っ!?)


 そして彼らはスライムたちを袋詰めしていく。

 スライムは悪食である。何でも食べる。触れているものは何でも食べられる。

 例外として迷宮の壁や地面、天井などはあるものの、金属ですらスライムは溶解して食することができる。

 ならば袋に閉じ込めた所で袋ごと溶解して脱出するだろう。もっとも対策手段はある。

 中に食べられる、スライムにとっては食しやすい生物の肉を入れる、袋を多重構造にするなど手立てはある。

 しかし、そこまでして彼らは何をしたいのか、スライムを持ち去って何をしたいのか疑問である。


(一体何をしているんだ?)


 スライムを持ち去る理由は何か。

 アズラットは現在スライムの体である。自分も連れ去られる可能性がある。

 それを考えると何故、どうして、何を目的に、その情報を知っておきたいところではある。

 まあ、彼の場合他のスライムとは違い、振動感知で常に警戒し、食事時でも近づいてきたら逃げればいい。

 もしくは死体の一部を溶解し切り離し、体内に取り込み別の場所で消化するなどでもいい。

 ただ、それでもいったいどのような危険なのかは気になる。


(……スライムの利用法か。スライムの液体部分を何かに使うとか? 創作だと美容用品、薬品の融解に使ったりといろいろな使用方法があったな。もしくは錬金術や薬学系への利用……素材としての利用価値か。核も何かに使えるかもしれない。まあ、やっぱり利用価値としては何かの素材と考えるのが一番だけど……)

『素材としてでなくスライム自体にも利用方法はあるんですよ?』

(っ!?)


 アズラットが色々と考えているところにアノーゼが声をかけてくる。


『利用方法?』

『はい。スライムはなんでも溶かし、何でも食べる……それは結構な利用価値があります』


 何でも溶かすことができる、何でも食べることができるというのは当然ながら利用価値が大きい。

 たとえば処理するのに危険な物質、捨てるしかないゴミなどの処理が容易になると言うことだ。

 また、排泄物も浄水施設のようなものを作らなくともスライムに食わせ処理させることができる。


『基本的にはやはりゴミ処理が一般的ですね。スライムをゴミのある場所に放り込んで、食べさせる』

『それはまた……なかなか考えられてるな』

『そして物を食べたスライムは肥え太り、分裂して増えます。以前話した通り、スライムは食べれば食べるほど経験値を得て、レベルが上がり、体も大きくなります。その危険はわかりますね?』

『ああ……確かに』


 ゴミを処理したスライムは大きくなり、レベルが上がる。そして数も増える。

 いくらスライムが雑魚であると言っても、レベルが上がり数が増えればその危険は増す。

 一匹だけ残す、ということもかつては考えられたが、それはある事件によって取りやめられた。

 スライムは食べれば食べるほど強く大きくなる。

 そして分裂するが、食事しながら分裂するわけではない。

 一度に食べる量が増えれば分裂しても結構大きい状態のまま残る。

 その大きくなった状態のスライムがまた同じだけ食事したことにより、スライムが進化した事があった。

 スライムは雑魚だが、その進化先であるビッグスライムは雑魚ではない。

 倒すのも一般的には容易ではない相手であり、危険度は高い。

 ゆえに、ある程度スライムが増え成長するとスライムを全て掃討することが決められた。

 なお、このときのスライムの討伐はレベルを上げたい貴族などが行うことが多い。

 経験値をため込んだ雑魚のスライムなので都合がいいのである。

 現在ではゴミの分量に関してもスライムが進化しないようにどれだけまでなら問題ないかが調査済みである。

 なのであまり危険はない……もちろん、絶対的な安全というものは存在しない。

 何かの事故でたまにビッグスライムに進化することもある。


『それでスライムを持っていくのか……』

『はい、そうです』


 アノーゼがアズラットにそういったいろいろなスライム利用法を伝える。

 何故こんなことにアノーゼが詳しいかと言うと、アズラットのような存在、スライムに関することなので調べているからだ。


『アズさんは引っかからないように気を付けて下さいね?』

『了解……』

『まあ、アズさんなら仮に連れていかれても脱出は出来るでしょうけど……殺されないとは限りませんから』


 アズラットであるならゴミと言うスライムが食べやすい物に惹かれず、外への脱出手段を考えることだろう。

 アノーゼからスライムを持ち去った後の実態についても話されている以上脱出以外の道を選ぶことはない。

 ただ、脱出するにしてもそれを安全に実行できるかどうかは不明である。

 なぜならそういった所は逃げられた場合の対策をきちんとしている可能性があるからだ。

 ゆえにアズラットと言えど、安全に脱出できるかはわからない。

 何よりも捕まらないことが一番優先なのである。


『わかってるよ』

『ならいいんです……そうならないように、安全にお願いしますね!』


 そうしてアノーゼからのアナウンスが切れる。


(はあ……迷宮内にある死体には一応注意しておくべきか?)


 外から持ち込まれただろう死体に群がるスライムだけを対象にしてるのならば対処は難しくない。

 だが、もし彼らが迷宮内で殺した魔物に群がるスライムも対象にしているのならば?

 今までは倒されていた死体を気にせず他のスライムのように群がり食事していたが、それも安全とは限らないと言うことになる。


(スライム穴に近づいた虫を襲う……のは悪くないかもしれないが、時間がかかるな)


 待ちで近づいた獲物を食するのと、自分から出向き死体を食むのとでは効率が全く違う。

 流石に今の食事を知っているアズラットは以前の待ちでの食事に戻るつもりはない。


(……やっぱり溶解して切り取って取り込んで穴でゆっくり消化、というのがいいか。まあ、いろいろとやってみるのがいいな)


 ひとまず、色々と試してよさそうな手を考える。そう判断したアズラットであった。

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