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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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079 階段塔の底で

「やった!」


 何度かネーデはゴーレムの足に剣を刺し、徐々に崩していった。

 そしてついに足を完全に崩壊させるに至る。

 流石に足を失ったまま立った体制を維持することは出来ず、ゴーレムは片膝をつく。


「っと!」


 しかし、その状態からでもゴーレムはまだまだ攻撃が可能だ。

 足を失っただけでゴーレムの行動が抑えられるわけでもなく。

 腕による薙ぎ払いがネーデを襲う。むしろ上体が下がって逆にやりづらい。


「もう片方の足も……狙った方がいい? このまま抜けるのは」

『(流石になあ……もう片方の足もあるし、追ってくる可能性がある。そもそも両足を潰しても腕があれば追ってくる可能性があるしきちんと潰しておくのが一番だと思うぞ? 仮に一番下に降りて上から降ってこられたらやばいしな。防げるけど)』

「そっか……でも、ちょっとやりづらいなあ……」


 両足で立っている状態では動いたりされるので地味に攻撃しづらいところだった。

 しかし、その分腕が上からの攻撃で比較的避けやすいものだった。

 だが、今はその上体が下がったことで叩きつけるよりも薙ぎ払いの方が主となっている。


『(膝を狙うか。片膝をついている感じだから膝がいい感じになってるし)』

「さっきは立ってたから脛狙いだったからね」


 何度か人間でいう脛部分を突き、瓦解させた。今度はもう片方の膝。

 流石に脛を瓦解させてもあまり意味はないというか、破壊後のバランスが取れてしまう。

 まともに立つことは出来なくとも、両方が膝までになれば逆にどうにかなりそうだ。


「たあっ!」


 先ほどまでは脛を突いていたが、今度は膝ばかりを狙う。

 脛と違い膝は本来可動部分、関節でよく動く部分である。

 それゆえにどうしても他の石材部分よりも弱く攻撃を受けすぐに壊れてしまった。

 ずしん、と膝を失い前へと倒れるゴーレム。


「よ、しっ!?」


 やったとばかりにぐっと腕を挙げようとして、<危機感知>が反応しネーデが一気に後ろに避ける。

 そのネーデのいた場所に倒れるままにゴーレムが腕を振り下ろしていた。


「あ、危ないっ!」

『(油断大敵。止めを刺すまでは気を緩めるな……足を崩して倒しただけなんだしな)』

「は、はーいっ!」


 最終的に破壊するべきなのは頭部か胸部。とりあえずネーデは比較的狙いやすい頭部を狙う。

 まだ足の機能は残っているし、腕もある以上ゴーレムも動けないわけではない。

 しかし、ゴーレム自身がそういう時にどう動くべきなのかを判断する能力に乏しい。

 そのため動きは不規則で乱雑なものとなっているが、それでネーデが振り払われるということはない。

 ネーデは頭を掴み、頭にしがみつき、その頭に剣を突き刺すための穴を作り、そこに剣を突き刺していく。


「っ! やあっ!」


 がぎん、と石の砕ける音と共に金属がへし折れるような音がする。


「あっ」


 剣がゴーレムの体から離れ飛んでいく。

 その刀身は半ばから折れておりもうほぼ使い物にならないだろう。

 しかし、同時にゴーレムもその体を震わせ、完全に倒れ微動だにしなくなる。

 どうやら頭部が弱点であるようだ。

 心臓部があるのか、それとも司令塔としての役割があるのか。

 詳しい所は不明だが、とりあえずゴーレムは破壊できた。

 ただしその結果をもたらすための犠牲は大きい。


「剣が…………」

『(折れたな。戻るか)』

「ま、待って! せめて一番下まで降りようよ!?」


 せっかく十階層の一番下の方まで来ているのである。ここで降りなければ損だろう。

 もっとも降りても先に進むことができないのだから無駄に体力を使うだけになるかもしれないが。


『(……まあ、それくらいならいいか)』

「うん……あ、スライム」

『(箱型の壁の一部に偽装していたスライムだな……)』


 倒れたゴーレムを餌にしようと壁の一部が動き出す。この十階層のスライムである。

 今までもちまちまと死体を食べていたが、その前にいなくなっていたので見なかった。


「食べなくていいの?」

『(ま、無理に食べる必要もない。急ぐ意味もないし)』


 アズラットはすでに結構なレベルになっている。進化するのを急ぐ意味はない。

 ネーデとの差が大きい、と思う所だがそこはあまりアズラットもネーデも気にしていない。

 それはともかく、二人はゴーレムの亡骸を無視して階段を下りる。


「やっと最下層……でも、剣が折れちゃったしなあ」

(…………ん?)


 ネーデがこれからどうしようと思っていると、アズラットが何かに気づく。


「ねえ、アズラット……どうしよう?」

(…………)

「アズラット?」

『(ネーデ、少し口を閉じていなさい。いや、会話するならこの念話に返信するように心の中でこっちに話しかける感じにやってみてくれ)』

「えっ?」


 いきなりのアズラットの発言にネーデは戸惑う。

 しかし、アズラットの言うことには意味がある。

 ならばやってみるしかない。

 なので言われた通りに心の中で色々とやってみる。

 <アナウンス>と<念話>は似通っているが実際には違うものだ。

 しかし、同じような機能は持つ。つまりは一方通行ではない。

 言葉を交わせない者と言葉を交わすためのものだ。そういうものだろう。

 もっとも、アズラットの場合は振動感知で音を聞き取れることもあり聞く分には問題がない。

 何故その知識があるのかを考えれば少々おかしな話かとも思うが。


『(ん、んー! こ、れで……い、い?)』

『(まだ少々慣れない感じだな。少し待つからしっかりとやってくれ)』

『(そそそれは、いいけ、けど。いきなり、な、ん、でこういう風にしない、といけな、いの? っと、ん? あれ? んー? アズラットー? うまく話せてるー?)』

『(ああ、うん、まあ問題ない感じに話せてはいるぞ?)』


 どうやら念話のコツのようなものをうまく得られたのか、綺麗に会話できるようになるネーデ。

 まあ、その綺麗な会話を聞けるのはアズラットのみだが。

 そもそも念話で会話する必要はあるのか。


『(それで何でいきなり?)』

『(ああ、人がいるからな。俺に話しかけているのを聞かれるとまずいのでは、と思ったからだ)』

『(……)』「えっ?」


 ネーデはすぐに<振動感知>を使う。そして、その感知範囲に人の存在があるのに気づく。

 しかし、それにネーデは気が付かなかった。なぜかと言うと、それは目に見えなかったから。

 <振動感知>を使いようやく気付くの存在。それは明らかにおかしい。


「っ!」


 一気に<身体強化>と<跳躍>でその存在から距離をとる。敵か味方かわからないからだ。

 少なくとも襲ってこないと言うことは敵ではないのかもしれない。

 しかし、ならばなぜ姿を隠すのか。

 味方であれば姿を隠す意味はないだろう。ならば敵なのだろうか?

 それがわからない。だが、少なくとも人間であることに間違いはない。

 <振動感知>が確かならば。

 そしてアズラットの発言からそれはほぼ人で確定的だろう。


「誰っ!!」


 アズラットを自身の頭上に置いているネーデにとって人間は警戒する敵だ。

 特に冒険者の部類は。そもそもネーデ自身に不信があるせいでもあるのだが。

 アズラットは魔物である。それも<従魔>で従えているわけでもない、ただの魔物。

 そのうえスライム種の進化形で現在はスライムボスと呼ばれるような謎のスライム。

 ヒュージスライムよりも上の進化形であるそれは明らかに異常で危険な代物。

 ネーデの師匠であるが、そんなことを考慮に入れてくれる冒険者がいるだろうか。

 そもそも<従魔>で従えられているわけでもない魔物である以上討伐しても問題はない。

 それゆえに、ネーデは人間に対してアズラットを守るために、生かすためにかなり警戒的である。

 まあ、ネーデよりもアズラットの方が強いのであまり意味がないことなのかもしれないが。


「おいおい……落ち着け」


 空気が溶けるように歪み、そこから人の姿が現れる。

 <隠蔽>のスキルではない別の隠れるタイプのスキル……恐らくは<隠密>のスキルだろう。

 <隠蔽>は動かない物にかけるもので、かなり隠す力が高いスキルである。

 それに対し<隠密>は動いている時もかかっているが、代わりに隠蔽力が低い。

 まあ、そういう話は今はどうでもいいことだろう。

 重要なことはその存在が何者であるかだ。


「あなたは…………?」

「ああ、俺は冒険者ギルドの職員だよ。ここ、十階層の担当のな」

「……え? ギルドの職員?」


 その人物はどうやら冒険者ギルドの職員であるらしい。

 しかし、何故冒険者ギルドの職員が迷宮にいるのか。

 そしてなぜ姿を隠していたのか。今の状況ではまだわからないことばかりである。

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