078 石造の魔物
壁に張り付くようにいた柱の魔物。これもまたガーゴイルに近いものである。
石造りの体にただの斬撃は効果が薄く、ネーデには相手しづらい魔物である。
しかし柱の形という特徴から相手も攻撃手段はあまり持っていないようだ。
もちろんただの柱というわけではなく、手足のようなものもあるのだが。
「っ! やああっ!」
「…………!」
斬撃は効果が薄い。これは確かに事実である。
しかし剣での攻撃が効果がないと言うわけではない。問題となるのは攻撃の手段。
攻撃にはいくつかの属性がある。斬撃は線の攻撃となるだろう。
基本的に攻撃範囲が広くなればなるほど、攻撃の威力というのは拡散し弱まる。
ならば攻撃を点にすればいい。つまり斬るのではなく突くこと。
相手の体にその身体能力と体重を合わせ一点を貫く。そうして剣を貫通させた。
「たあっ!」
それだけで相手が倒せるほど容易くはない。無生命の魔物であるため痛みもない。
ただ貫いただけでは倒せない。ではどうするべきか?
体の中に入り込んだ剣はそのままだ。その剣をネーデが蹴り飛ばす。
「……!」
体内に撃ちこまれている剣が蹴り飛ばされたことで動こうとする。
びりびりと蹴り飛ばされた衝撃が伝播し柱の形をした魔物に響く。
それは撃ちこまれた時にできた傷とそこに走る僅かな罅割れをより大きくする。
柱の魔物の体は柱ゆえに細目。そのため剣を撃ちこまれるとどうしても罅割れが発生する。
そして衝撃によりそれは大きくされ、よりはっきりと大きな罅へと変わる。
罅さえできてしまえばあとは難しいことはない。脆くなった体を破壊すればいいだけだ。
「はあああああっ!」
剣の柄、持ち手としている部分にネーデが跳躍し、その柄を思いっきり踏みつける。
ネーデは少女であるがそれなりに体重はある。もちろんあくまで少女の体重ではあるが。
その剣は相手の体に突き刺さったまま。となればその剣は当然相手の体の中で持ち上がる。
「………………!」
ばきんと柱の魔物の体が折れる。流石に体が折れて魔物が無事なわけがなく、その命が消える。
もっとも見た目だけで言えば手足が動かなくなるくらいで本当に死んだか判別がしにくい。
『(終わったか……武器は大丈夫か? あんなに負荷をかけて)』
「えっ……と……うん、大丈夫、みたい」
剣を見て、一応まだ大丈夫であるとネーデは判断を下す。
もっとも、大丈夫であると言うだけで今まで通りに使えるとも言いにくい所である。
いくら剣の方が魔物よりも強度が高いとしても流石に石材の体に攻撃して問題ないはずもない。
少し歪みがはっきりと見え、刃こぼれもかなりのものとなっている。
一応まだ武器として扱えるが、本当にそろそろ寿命だろう。
『(やっぱり戻ったほうが……)』
「それはやだ。さ、行こ」
『(あ…………はあ)』(仕方がない、と言っていいものか。まあ駄目ならその時は全力で守ってその後で戻るように仕向けるしかないか?)
ネーデの様子にアズラットは本気で心配に思う。もっとも今の状態では聞いてくれないだろう。
ゆえにアズラットは焦らずその機会を狙うつもりだった。いつになるかはわからないが。
道中に出てくる魔物は飛行する魔物が主体である。一応ガーゴイルや柱の魔物も出てきたが。
それらの魔物は途中で確保した柱の魔物やガーゴイルから獲得した石材を主な攻撃手段としている。
<投擲>によりダメージを与え弱らせた後、剣で止めを刺す。
そのおかげで剣を使用する頻度は少なく、剣もまだ限界には至っていないようである。
「……ん?」
『(……お?)』
そこそこ広い足場。これまで進んできた中でかなり広い足場が見える。
突き出た足場は下手をすれば上から落ちてくる人物が引っかかるくらいに突き出て広い。
明らかにそこは怪しい。そして、ここまで来ると幾らか最下層が近くなってきている。
階層の境界と思われる入り口も一応若干見えるようにはなっていた。
『(誰がどう考えても怪しいな)』
「うん……あれ?」
『(あー……駆け抜けても間に合いそうにない、な)』
「へっ? あ、え!?」
わずかな振動をネーデが感知し違和感を抱き、アズラットはより明確にその振動の元を感じる。
その結果、ネーデとアズラットで判断が違いネーデの行動が遅れた。
ネーデも遅れながらも、<振動感知>の範囲にそれが入ったためその存在に関してわかってしまった。
「………………」
「っ! で、でっかい! それにこれ、硬い……よね?」
『(当たり前だ! ってかゴーレムかよ! 壁から出てきたぞこれっ!)』
迷宮の壁、広い足場となっている部分の奥、突き出た足場の反対側の壁。
少々そこはへこんでおり、その壁の一部がゴーレムに変生して足場の方に出てきたのである。
仮にこれを知っていればゴーレムになる前に一気に走り抜けて無視できたかもしれない。
いや、今も無視できる可能性はあるだろう。
「どうしよう……戦う?」
『(あの足場的にそうなんだろうな……っていうか、階段の前に立ってるし邪魔する気満々だろ)』
もし走り抜ければ追ってこない可能性もあるが、確実ではない。
そして仮に追ってきたならば他の冒険者もいる以上倒さなければ迷惑になる。
ネーデは冒険者に対する不信があるとしても流石に自分を追ってきた魔物を他の冒険者に任せる気はない。
「じゃあ、やるしかない……ね!」
跳躍しネーデがゴーレムに対し斬りかかる。
これまでの柱の魔物やガーゴイルとは違う人型の石質の魔物。
いや、ガーゴイルも人型に近い形ではあったが。
斬りかかったネーデだが、それまでの石材の体を持つ魔物と同じく斬撃は効果が薄い。
そしてそんなネーデに横薙ぎにゴーレムの腕が振るわれる。
「ひゃっ!?」
咄嗟にしゃがんで避けるネーデ。いや、もう伏せに近い。
立ち上がりすぐに後ろに避ける。そこをゴーレムの足の踏み付けが襲う。
「ふえ……あ、危ない」
『(まあ、ネーデが避けなければ踏みつけは受け止めたが……しかし、これまでと同じだがどうする?)』
「やっぱり突くしかないんじゃない? どれも同じ倒し方だったよね?」
『(それはそうなんだが。問題はゴーレムの大きさだよなあ……)』
ガーゴイルはそこまでの大きさではなく、柱の男は細長いだけでそこまでではなかった。
しかし、巨人ほどではないにしてもゴーレムの大きさはかなり大きい。
確かに突きは悪くない攻撃手段なのかもしれないが、しかし相手の大きさの厄介さがある。
跳躍しながら突く、というのは攻撃手段としては厳しい所だ。
「……じゃあ、足を突いてみる?」
『(足を崩すか。確かに悪い手段じゃない……それだけじゃ倒しきれないけどな)』
相手の足を奪い機動力を無くす。確かにそれは悪い手段ではないのかもしれない。
相手を動けなくすればそれだけでこちら側の対処手段が増える。
いや、この場合は相手側の攻撃手段が減ると言うべきなのだろう。
そうすればネーデでも全く問題なく相手をすることができる。その後腕を落とすのもいい。
そこまで行けば腕や脚ではなく、胸部や頭部を狙うこともできるだろう。
『(相手の足を破壊し体を崩して倒した後、頭か胸かを狙う、そんなところか)』
「なんで頭や胸?」
『(弱点のセオリーだな。まあ、こういうのでどこが弱点というのは見た目じゃわからんが……大体は人間と似通っていることが多いんだ。人間に近いのはな)』
「へえー」
あまり興味ないようにネーデがアズラットの語る内容に応える。
ともあれ、ネーデはまず足に狙いをつけ、足を崩しにかかる。
でかくタフな相手との戦いは経験済みである。ゴーレム相手でもそれなりに戦えるようだ。




