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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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077 迷宮観察

「っ! だあっ!」


 がつん、と体を押されガーゴイルが壁に激突する。

 石でできた体だが迷宮の壁はその体以上に堅い。そもそも破壊できない物質であると思われる。

 アズラットの持つ万能消化のスライム種の能力でも消化は不可能なのだ。

 それがガーゴイルの体がぶつかった程度で破壊されるわけがないだろう。


「ぐぬぅーっ!」


 ネーデはガーゴイルの体を壁に押し付けながら、その体へと剣を突き刺している。

 いや、剣を突き刺した結果がそのまま壁に押し付ける結果となったのかもしれない。

 そのまま剣はガーゴイルの体を突き刺していき、ひび割れが広がる。


「っ! やあっ!」


 そのまま剣を思いっきり振り上げる。ガーゴイルも押し付けられたままではない。

 その腕を背中へと振るってくるのだからネーデもなかなかつらい。

 耐えることはできるが、何度も受ければ倒れてしまうことになるだろう。

 ゆえに早めに終わらせた方がいいと剣を振り上げた。

 頭部を破壊しながら無理矢理斬り抜け、その結果ガーゴイルは動きを停止する。

 そのままネーデにのしかかるようにガーゴイルは倒れてきた。


「わわっ!?」


 その倒れてきたガーゴイルをネーデは避ける。こういった場合<危機感知>には反応しない。

 仮にこれが坂を転がって来た大岩などなら反応すると思われる。

 しかし、ただのしかかるように倒れてくるだけの石像では反応しないようだ。

 この辺りの違いは何なのか、スキルを持っているネーデもわかっていない。


『(頭部が弱点か? 心臓とかに核があれば、と思わなくもないが……もしくは頭に核でもあるんだろうか)』

「さあ……でも、なんとか倒せた……けど」


 ネーデは自分の武器を見る。流石に相手の硬度の問題もあって少しボロボロになっている。

 石像と斬り合って通常の武器が無事でいるはずがないだろう。

 まともな生物相手でも結構消耗するものだ。

 一応ネーデの武器はそれなりに良い物なのでまだましだが、あまり長持ちはしないだろう。


『(武器の問題か……さすがにそろそろ一度外に戻って購入したほうがいいんじゃないか?)』

「う……」


 迷宮内で武器の確保は難しい。

 死んだ冒険者の武器をうまく回収するしかないだろう。

 しかし、そう都合よく武器を回収できるはずがない。

 集落で武器が手に入ったのは僥倖だっただろう。


「……とりあえず、一度一番下まで降りてみてから考える」

『(それだと遅い気もするが……)』

「でも、ここから外まで戻るのも大変だし……」

『(大変だからむしろ早めに戻ったほうがいいと思うが)』

「駄目そうなら全力で逃げればいいだけだし……」

『(…………ま、そう言うならいいさ)』


 ネーデはどうにも外に出たくない、という意思を強く見せている。

 それをアズラットはどうにも拒み切ることはできない。

 それがネーデの意思であると言うのならば。

 ネーデがどうしてそう行動するのかというと、アズラットからあまり離れたくないと言う意思ゆえだ。

 冒険者に対する不信はあれども人間に対する不信ではないため武器の購入くらいはできる。

 だが外に出る場合アズラットはついてこないだろう。それがネーデとしては嫌なのだ。

 なのでネーデは武器購入のために外に出ていきたくない。

 また、少しだけネーデには不思議に思う点もある。迷宮での武器の確保についてだ。


「迷宮に入った人って武器はどうしてるんだろう?」

『(それはどういう意味だ?)』

「だって、奥に行けば行くほど外には出にくくなるでしょ? それだと奥に行く人はたくさんの武器を持っていかなきゃいけないよね?」


 迷宮の奥へ進めば進むほど外へは出づらくなり、敵も強くなる。

 必要な武器の数も多くなるだろう。

 そのうえここは竜生迷宮と呼ばれる迷宮である。竜が出てきてもおかしくない。

 そんな中武器を数本だけ携えて迷宮の奥へと向かうのは少々奇妙に思えてくる。


「それに、奥に行った人でも戻ってくる人ばかりじゃないでしょ」

『(死んだとかではなく?)』

「それならもっと色々と迷宮について言われてると思うよ。それに、それなら奥に向かう冒険者も減るんじゃない?」

『(……そうかもしれない、というだけだな。で、結局何を言いたいんだ?)』


 ネーデの言っていることは結局のところ多分に推測を含んでいる内容になる。

 そうした内容を語り一体何を彼女はいいたいのか。無駄に話を長くせずアズラットは結論を聞く。


「迷宮の中に武器を確保できる当てがあるんじゃないか、ってこと」

『(…………ありえない、とは言わないけどな)』


 そういった可能性はアズラットとしては少ない、と思う所だ。ただしないとは言わないだろう。

 迷宮には謎が多い。ゴブリンたちが拠点にしてた集落もある意味そういった謎の一つである。

 あの場所はネーデとアズラットが拠点としていたが、魔物が外から入る以外での出現の無い場所。

 一種の安全地帯ともいえる場所だ。なぜそういう場所があるのか。


『(まあ、戻らないならいい。ただガーゴイルを相手にするにはいくらか……そうだな、その死体から石片をはぎ取ろうか。<投擲>用に)』

「あ、いいね」


 そうしてガーゴイルの破片を回収しネーデは先へと進む。


「……他の石像は動かないのかな?」

『(みたいだな。近づいて動く、というわけではないのか……)』


 少々その際ガーゴイルの謎について考えながら、二人は巨大な階段状の足場を降りていく。






 階段を下り、その時々に出会う魔物を対処する。

 そんな風に進んでいると途中で落下してくる何かに気づく。


「うわあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………」


 落下していくのは人間だ。ネーデと同じ冒険者。


「……ああなるのは怖いね」

『(俺は大丈夫だが)』

「スライムって羨ましいなあ……」

『(最弱でいいなら)」

「それはちょっと……」


 いくら色々と利点があると言っても本来スライムは最弱の魔物。

 積極的にそれになりたいとは思わないだろう。


「でも、何で落ちてきたんだろう……」

『(ネーデもガーゴイルと押し合っただろう。あれ、さり気に落としにかかってたぞ?)』

「へっ? そう……なの?」


 どうやらネーデは気付かなかったようだがガーゴイルはネーデを落としにかかってきていたようだ。

 まあ、そこまで長い間戦ったわけではないのでしかたないのかもしれない。


「だけど落とされるほど? 他の冒険者はみんなパーティーでしょ?」

『(ふむ……上、見えるか?)』

「んー……一応。あ、ガーゴイルが……五体も飛んでる」

『(冒険者の残りは四人か……あ、逃げた)』

「一斉に襲われたんだ……」


 どうやら複数のガーゴイルを相手にした結果抑えきれずに一人落とされたようだ。

 そして流石に落下した仲間は助けようがない。四人では不利であると判断し戻ったようだ。

 犠牲が出たのは痛ましい話だが、その判断自体は悪くないだろう。命あっての物種だ。


「でもなんでたくさん動いたんだろう? 私の時は一体だったよね」

『(ふむ…………恐らくだが)』


 アズラットが己の推測を語る。


『(落ちてきた冒険者も含めて上にいた冒険者は五人。ガーゴイルも五体。そしてこっちが戦った時はネーデが一人。相手も一人。つまりこちらの人数に合わせた数が動き出すと言うことなんだろう)』

「……なんでそんなことに?」

『(俺が知ってるわけないだろ。迷宮に訊け)』

「うん、そうだね……あれ? でも、アズラットもいたよね? それなら二体じゃないの?」

『(いや、俺は魔物だからな? 元々迷宮の魔物だし侵入者扱いされていない可能性もある。人間もしくは侵入者が範囲に入って来た数が動く対象になるんじゃないか?)』

「あ……うん、そういえばアズラットはそうだったね」


 半ばアズラットのことを迷宮にいる魔物であると忘れかけているネーデ。

 <従魔>で従えた魔物ですらない。しかしネーデはずっと一緒にいるためかそういう感覚が薄い。


『(まったく……まあ、そういう仕組みなんだろ。魔物が横切っただけで動き出して魔物を襲うとか面倒な仕掛けになるしな)』


 この十階層には他にも魔物がいて空を飛んでいる。

 それらが近づいた時動くのは迷宮側にとって不都合だろう。

 ゆえに魔物には反応しない、迷宮内に初めからいる存在には反応しないと言うのは大いに可能性がある。

 <従魔>で従えられている魔物の場合どういう扱いかは不明だが細かい所はどうでもいい話だろう。


「迷宮って不思議だね……」

『(そうだな)』


 迷宮には謎が多い。探索を進め先に進み、幾らか把握できても謎は謎のままだ。

 それはそれで構わないだろう。自分たちの命取りにならないのであれば。


「……アズラット、あれって」

『(……魔物かなあ。ガーゴイルみたいな感じの)』


 再び出てきた魔物。それは柱のようになって壁に引っ付き存在していた。

 仮にガーゴイルと同じならばやはり石と同じくらいの硬さを持つのだろう。厄介である。

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