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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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076 環境利用の戦い

「とおっ! やあっ!」

『(小回りが利いて厄介な……! ネーデ、投擲用の石は?)』

「もうないかな……結構使っちゃってるし」

『(まあ、あまり準備してないし仕方がないか。嵩張るものだから持ち物を圧迫するしな)』


 現在ネーデは魔物に襲われている。ネーデの戦闘能力はかなり高い。

 少なくとも普通に魔物を相手する分には十分なだけの実力を備えているだろう。

 それは九階層で戦った魔物を見ればわかることだ。

 もちろん十階層でもネーデは十分に戦える……わけなのだが。


「はあ…………っと! 面倒だねここっ!」


 戦闘能力ではどうにもできないことも世の中には常々存在する。

 今ネーデが相手をしている魔物は梟や鷹の魔物。そしてハーピーと呼ばれる魔物もいる。

 それらは鳥獣系の魔物であり、当然空を飛ぶことができる魔物。

 襲ってくるときも飛行しながら上空からの襲撃がメインである。

 そしてそれを相手取るネーデは地上での迎撃が対処手段となる。

 相手が一撃離脱に執着すれば、攻撃できる機会は大幅に減ってしまう。

 そしてネーデは普通の人間であり空を飛ぶことはできない。

 必然的に相手を倒すためにとることのできる手段が大幅に減じてしまう。


「跳躍はだめ?」

『(下手に跳躍してみろ。運悪くあの穴に突っ込んでいっても知らないぞ)』

「うう……無いとは言えないかなあ」


 一応空を飛ぶ魔物相手にする手段としてネーデには<跳躍>と<投擲>が存在する。

 既に幾度か<投擲>による攻撃手段は行っているが、<投擲>は実弾が必要だ。

 迷宮に入り込んでいるネーデはどうしても持てる物が少ない。

 これが複数人の集団であれば全体で幾らか持っていることもできるだろう。

 そもそも複数人いれば遠隔攻撃手段に困らないものだとも思われるが。

 <投擲>に使用している実弾は基本的には手のひらに収まるくらいの鉱物が主である。

 別に石でも鉄でもなんでもいい。それなりに重く硬ければ十分だ。

 しかし、それは逆に実弾を保有するのが中々に大変である事実に繋がる。

 重い物を持っていれば動きが遅くなるし、体力の消費も増える。

 ゆえにそれほどの量を持ってくることはできない。

 そして魔物の出現頻度も十階層はそれなりにある。幾らか波はあるが。


「たっ!」


 最後の一体をようやく倒し、戦いが終わる。


「……ふう、っ!」


 気を抜き息を吐く……その刹那、壁から襲い掛かってくる魔物が一体。

 それにネーデは的確に対処した。<危機感知>は常に発動している優秀なスキルである。


「……蛇だ」

『(見かけは……石のように見えるが、普通に斬れたな)』

「硬くはなかったからそう見えるだけだと思う」


 襲ってきた蛇は石のような見た目をしているが実際に石と同じ硬度をしているわけではない。

 ネーデが攻撃に反応しあっさり斬れたように普通の魔物の蛇と同等の防御能力だ。


「ところで……これ、どこにいたの?」

『(普通に壁を這ってたな。見えなかったか?)』

「うん……」

『(ってことは擬態していたのかね。まあナナフシの例もあるし、あの猪みたいのもいるからな)』


 擬態や迷彩で周りに潜んでいたということだ。その手の魔物は珍しくない。

 これで実際に石並の硬度を持っていたり高い攻撃能力や不意打ち性能があれば危険だった。

 しかし、ネーデの<危機感知>に反応し一撃で対処できるレベルの危険ならば大したものでもない。


「これ、使えるかな?」

『(何に?)』

「<投擲>に」


 石のような魔物ならば実際に投げるための意思として使えるのではないか。

 そうネーデが思ったゆえの提案だろう。


『(硬さ、重さ。石のように見えるだけで石の重さも硬さもないだろ。それをどう使うってんだ)』

「あ」

『(それならまだハーピーの頭でも切り取って投げるほうがまだ有用……ああ、そういう手もあるか? でも戦闘中でやるのは難しそうだし持ち歩きも大変そうだしなあ……)』

「そ、それは流石に遠慮します!」


 ハーピーは人に近い鳥獣の魔物。頭部こそほとんど人間だが体は翼主体、体も幾分か鳥獣に近い。

 比較的人型に近い魔物であるためネーデとしては少々死体は扱いづらい所がある。

 アズラットは元人間の意識に近しい存在だがこちらは今更と言った所だろう。

 そもそも生きている人間ならともかく死んだ人間のようにも見える魔物に忌避はない。


『(ま、肉はそれなりに重さがあるから投擲に使うってのもできなくはないだろうな……頭かどうかはともかく、小さめな鳥を倒してそれを投擲物にするってのもありか。回収は恐らく難しいし投げやすいとは思えないが、それなりに使えるかもしれない)』

「そうかな……?」

『(一度試してみよう。駄目なら駄目で別の手段を考えていいわけだしな)』

「…………うん、一度やってみてもいいかもね。機会があれば」






 と、そんな風に十階層では空を飛ぶ魔物や周りの環境にその姿を隠す魔物が主体である。

 先ほどネーデを襲った壁に擬態している蛇はわかりにくい方だ。

 わかりやすい例がすぐに二人の視界に入ってくる。


「ねえ、あの石像って……」

『(ただ単に迷宮に置かれているだけの置物……ってわけじゃないんだろうな。動く石像、ガーゴイルとかそういう物じゃないか?)』


 明らかに迷宮内部において異質な置物、悪魔のような姿をしている石像である。

 誰がどう見てもこれは魔物ですと宣言しているように壁に設置されていて怪しい。


『(近づいたら襲ってくる、先に攻撃しても襲ってくるかもしれないな……<投擲>できるものは?)』

「今はもうほとんどないけど……」

『(ならやめておこう。仮に投げて攻撃できるとしても、恐らくはあまり有効になりそうにないしな)』

「見た目通り……かな?」

『(やってみないとわからんな)』


 見た目が明らかに石像である。当然その防御力も石像相当と思ってもいいだろう。

 ただ、二人は少し前に壁に擬態して襲ってくる石のような見た目の蛇を相手している。

 ガーゴイルがそれに近しい魔物でないとは限らない。そもそも動く石像というもの自体が異常だ。

 いったいどういう理屈で石像が普通の生命と同じ動きができるのか。

 いや、まだ動いていないので厳密にそういった動きをするかも謎なわけなのだが。


「とりあえず近づいてみる?」

『(そうだな……ずっとここで話していてもしかたがない)』


 二人は先へと進む。そうして石像からある程度の範囲に近づくと石像が動き出す。


「…………!!」


 動いた石像は一体のみ。他にも同じような石像は周りに数体存在するが、それは動いて来ない。

 向こうの索敵の範疇に入っていないか、それとも一体しか動かない不文律でもあるのか。

 もしくは何かの要因で動く数が変わるのか定かではないが襲ってくるのが一体なのはありがたいことだ。


「っ!」


 重い一撃が振り下ろされる。幸いなことに相手の大きさは一般的な人間より少し大きいくらい。

 しかしその大きさに対しネーデに対しての攻撃はなかなかに強烈な一撃になっている。

 恐らくはその体が石像の見た目そのまま石でできているからだろう。


「ふっ!」


 ギッと、硬い物同士が擦れ合うような音を立て、ガーゴイルの体に浅い傷が刻まれている。


『(どうやら攻撃は効くみたいだが…………)』

「あんまり通用しないみたい!」


 今までも厄介な戦闘相手というものはいた。巨人のように耐久力の高い魔物。

 しかし、防御力そのものが高く倒しにくいのが今回の相手である。

 迷宮というものも意外に色々な種類の魔物を用意して侵入者に対する手を打ってくるものだ。

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