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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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074 強大な魔物を越えて

「ガアアアアアアアアアッ!!」

「つっ!」


 横薙ぎに振るわれる折られた樹木による一撃。巨人の振るう武器である。

 巨人は基本的に素手で戦うが、時々武器を作って戦うことがある。

 九階層はたくさんの樹々が生えている森の階層。

 そこにある樹々を折って自身の武器とするのである。

 恐らくだがこれは巨人の中でもそれなりに経験のある巨人なのだろう。

 この迷宮に入ってくる冒険者と戦いその動きを学んだ結果なのではないだろうか。

 もしくは巨虫が折った樹々を利用して使っているだけなのかもしれない。

 まあ、そういう考察はともかく、今ネーデが戦っている巨人は樹を折って武器に使っている。

 それをネーデが体で受ける。もちろん<防御>を使っており攻撃を耐えている。

 しかし、<防御>があれば全てを無効にできるわけではない。

 <防御>の許容できる以上の攻撃力があった場合その防御を越えてくる。

 防御の効果が消え、横薙ぎの余った力がネーデの体を吹き飛ばす。

 幸い<防御>だけに頼らず横薙ぎを剣で受けていたこともあり、吹き飛ばされるだけで済んだ。

 流石に体でまともに受けていれば無事では済まなかっただろう。


「っと!」


 吹き飛ばされる中、その勢いのまま樹々の一つに体を向け、そこに着地する。

 そして樹を足場に跳躍する。<跳躍>のスキルをネーデは持っている。

 <跳躍>は単に跳躍力を高めるだけでなく、跳躍するための能力も高める。

 それゆえにあまりその方法に慣れていないネーデでも樹を足場にした跳躍ができる。

 そのままネーデは再び巨人へと向かう。巨人は名の通り巨大な人型の魔物。

 その大きさはかなりのもので、まともに戦うのが難しい相手。

 だが跳躍で上から攻撃をするのであれば、それなりの位置に届く。


「はあっ!」


 剣を振るう。横薙ぎに振るわれたそれは相手の胸部を切り裂く。

 流石に首や頭部に届くほど高所までは跳躍できなかった。

 まともに近づいての跳躍ならばともかく、吹き飛ばされたのち樹を足場にした跳躍だ。

 流石にそれでは届かないだろう。


「ガアッ! オオオオオッ!」

「きゃっ!?」


 地面を抉り破砕する大振りの一撃。しかしそれは大振りすぎるためかネーデには当たらない。

 しかし、それはネーデの横を通っていった。その風圧と破砕したことによる吹き飛ぶ地面。

 それらの影響を受ける。


「やっぱり強い……!」

『(虫を相手にするよりも厄介か。まああっちは対処しやすいパターンを見つけたのもあるが……)』


 九階層にてまだ倒していない魔物は巨人ただ一体のみ。

 残っていたうちのもう一体、巨大なクワガタムシの魔物はカブトムシと同じ方法で倒せた。

 流石にその時はネーデも対策を考え<防御>のレベルをあげたり、最後に首を落としたりしている。


『(スキル的にはまともに相手するしかないからな)』

「そうだね……何か覚え」

『(やめとけ。まともに対処して倒せないとだめだと思うぞ?)』

「そ、そうかなあ……?」


 ネーデのスキルはレベルやアノーゼの話から合算しまだもう一つ覚える枠がある。

 しかしアズラットはそれで巨人に対する対策を覚えるのは止めた。

 巨人一体に対抗するためにスキルを覚えるのは無駄だしまともに戦える能力を高めるほうがいい。


『(スキルに頼らず実力をつけたほうがいい。巨大な相手に的に体一つで挑んで戦える、それくらいの実力を。それに相手も攻撃自体はかなり単調で大雑把、特殊な技能があるわけでもないしな)』

「……そうだね!」


 再びネーデが巨人に挑む。今のネーデの身体能力であれば攻撃の回避は難しくない。

 攻撃を受けたのも<防御>がある状態で相手の力を見極める目的でもある。

 <身体強化>で高い身体能力を持ち、<危機感知>で相手の攻撃が自分を襲うかの危険が分かる。

 <跳躍>の利用や<振動感知>で攻撃の予備動作を見抜いたり、<投擲>で目を狙い視界を奪う。

 今のネーデでも十分な攻撃手段はある。

 そのうえ<防御>も連続短期使用は難しいが強力な攻撃を防ぐことができる。


「やあっ!」


 攻撃は<剣術>での攻撃。そろそろもうすこし攻撃性能を高めるスキルでも覚えるべき頃だろうか。

 決して<剣術>が弱いわけではないが、基本系のスキルに近いもので極端に強力なものにならない。

 しかし、それでも今のネーデには十分。この階層にいる魔物くらいまでであれば十分だ。

 少なくともこの時点で巨人に対し攻撃は通じる。この先駄目ならばその時に対処すればいい。


「はあっ!」


「ていっ!」


「やあっ!」


「とうっ!」


「……ふっ!」


「……やっ!」


「…………はあっ!」


「………………これでっ!」


 長い時間、ネーデは戦い続ける。ネーデはこれまでの経過もあり継続戦闘はなかなかできる方だ。

 それでも全力での戦闘はなかなかつらいものがある。<治癒>も体力の回復にはあまり働かない。

 とはいえ、それでも微量の回復はしてくれるのでなかなか長い時間戦えている。

 そして、その戦いを続けた結果、ようやく巨人を倒すことができた。

 足を狙い攻撃し、膝をつかせ体を下げさせ、手を狙い武器を持てなくし、頭部や胸部を狙う。

 そうして地道に減らしてなんとか倒したのである。


「ぜえ……ねえ……」

『(なんだ?)』

「これで……倒したってことでいいの……?」

『(………………)』

「……アズラットー!?」

『(いや、十分だとは思うんだが。もう少しきっぱりはっきりと倒せた方がいいかなとは思う。まあ、先に進むには十分だとは思うぞ。一人で無理をする必要性も本来はないわけだしな)』

「なにそれ!?」


 ネーデとしては頑張って苦労しながら時間をかけて巨人を倒したのに、駄目だしされた形である。

 そのうえアズラットも手伝えば問題ないのだから、と言われれば文句も出てくるだろう。


「アズラットー!」

『(……落ち着け。殴っても叩いても剣で斬っても傷つかないし意味ないから)』


 とはいえ、アズラットもそのネーデの攻撃を甘んじて受け入れている。

 ネーデが頑張っている、努力しているそんな姿勢を邪魔したような感じになっているのだから。

 しばらくして、ネーデの様子が落ち着く。何をしても意味がないと悟ったからだ。


「アズラットー…………」

『(こういう戦いも無意味じゃない……と思うぞ? いざという時どんな戦い方もできるようになっていたほうがいいし、実際に長期戦って言うのも経験することになるかもしれない。強い相手に不屈の精神で挑むと言うのも)』

「それいいわけだよね?」

『(……ごめんなさい)』


 こういう場合悪いのはアズラットだろう。下手な言い訳など意味はなく、謝るしかない。

 しばらくアズラットはネーデに文句を言われる。それをアズラットは真摯に受け止める。

 ただ、その文句を聞いたからと言ってアズラットの行動が変わるかというと怪しい所だが。


「……ふう」

『(もういいのか?)』

「あ……うん、ごめんね」

『(いや、こっちも悪い所はあったしな……それで、今後だが。一応九階層にいる魔物は全部倒したわけだ。ちょっと物入りなところはあったかもしれないが)』

「……確かにそうだね」


 九階層で難易度の高い相手として残っていた三種の魔物は巨虫二種も巨人も既にネーデが倒した。

 幾らかネーデの実力証明としては不足点もあると思えるがそれでも十分と言えるくらいには強い。

 なので次の階層へと進んでも問題ないだろう。


『(なら、十階層へと進もう。そろそろ先へ進んでもいい頃合だろ)』

「……そう、かな?」

『(ネーデはどう思う?)』

「う、うーん……そうだね、行ってみよう」


 ネーデは基本的にアズラットに頼っているところがある。なので自分ではどうにも決めづらい。

 しかし、アズラットは決めろと言ってくる。ならばどう判断するべきか?

 アズラットの言うことに間違いはない。

 妄信はしないが、基本的にアズラットは自分のことを考えてくれているとネーデは考えている。

 ならばどう答えればいいかというと、賛同の答えを返せば問題ない。そういうことになる。

 なのでネーデはアズラットの誘いに答え十階層に進むことに決めたのであった。

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