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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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068 スキルを持つ魔物

 グリフォン。この魔物についてはアズラットもその知識に有する。

 もちろんこの世界についての知識ではないが。

 あくまで架空の魔物としてのグリフォンについて。

 大まかに強い魔物、有名な魔物、そういう感じでの知識である。

 創作においてはそれなりに出番も多い使い勝手のいい魔物だ。

 さて、アズラットはそうであるがネーデもグリフォンについては知っている。

 ネーデのような冒険者になるようなこの世界の人間でも魔物についてはいくらかの知識を持つ。

 それは御伽噺のような伝説であったり、寝物語の中に出てくる強敵として出会ったり。

 または人々の噂や話に上がるような、もしくは冒険者ギルドなどでも危険と知らされているとか。

 その知名度は数や遭遇頻度、もしくはその強さや偉大さなどに依存する。

 例えばゴブリンなどは迷宮の外でも数多く存在しその被害もよく出ることもあり知名度は高い。

 竜などはその圧倒的な強さ、威厳、素材についての有用性なども含めかなり有名だろう。

 ではグリフォンはそのどちらに属するのか?


「に、逃げないとっ!」

『(どうした?)』

「グリフォンって危ないって聞いたからっ!」


 後者である。グリフォンはこの世界でも強力な魔物として知られている。

 しかし、その見た目としてはグリフォンは強そうには見えない。

 巨人や高速で移動する状態のクワガタムシやカブトムシの方が脅威度は高そうに見える。

 そこをアズラットは疑問に思った。


『(そんなにやば……っ! ネーデッ!)』

「わかってる!」


 グリフォンの周りに風が生まれ、その風がアズラットとネーデに向けて振るわれる。

 その過程で渦巻く風から刃のようになり二人へと降り注いだ。

 アズラットは振動を感知し、ネーデは<振動感知>と<危機感知>の両方で察知する。

 先ほども二人に向かって振るわれた風の刃は大地を抉る程の一撃。

 <防御>があるとはいえ、数撃受ければ効果は消え他の刃に切り裂かれることだろう。


『(これは……スキルか?)』

「魔物もスキルを使ってくるんだね」

『(お前俺を何だと思ってるんだ……)』


 アズラットも魔物である。ただ、ネーデにとってはアズラットはあまり魔物としての意識が薄い。

 <念話>を使ってとはいえ話ができるし、アズラットは元人間の意識であると考えられる存在。

 それゆえにネーデにとってはアズラットは魔物であっても魔物でないような存在。

 そもそもアズラット自身あまり目立つスキルを使わない。

 スキルを持たないとは言わないが、どうにもスキルを持っていると思いづらい感じである。


『(まあそれはいい。問題はあいつをどうするかだ……っていうか、これ逃げられるのか?)』

「……無理、だと思う」


 現時点でグリフォンにネーデとアズラットは見つかっている。

 その状態でグリフォンから逃げることができるのかというと……極めて難しいと言える。

 グリフォンは空を飛んでいる。

 翼を使い、また風を降らせてきたみたいな風の操作もできる。

 九階層は森の中、樹々が乱立した階層である。

 空を飛んでいる方が地上を行くより速いとは限らない。

 しかしそれでもおそらくグリフォンの移動能力のほうが高いだろう。

 推測の話になるが。


『(っ、またか!)』

「当たらない、けどっ……どうしよう?」


 グリフォンがまた風の刃を降らせてくる。

 二人は当たることがないので問題はない。

 だがそれとは別にこの状況において大きな問題がある。

 それはグリフォンと戦えないと言うこと。

 別にグリフォンの強さがこちら側と隔絶しているとかそういうわけではなく、距離があるのが問題だ。

 現在のグリフォンの位置は空中、その翼と風により宙に浮いている状態。

 その状態で空から風の刃を降らせているということもあり、ネーデとアズラットに対抗手段はない。

 なぜなら二人とも遠距離攻撃のスキルも武器も技術も存在しないからである。

 厳密に言えば二人の持つ<跳躍>スキルは空中に浮かぶ存在にも届き得るスキルだ。

 しかし二人は<跳躍>で届くということに気づかないし、仮にそれで近づいても逆に撃ち落とされるだけだろう。

 なのでむしろ気づかない方が安全だったとも言える。


「っ! くっ! どうすればいいのっ!?」

『(……わからん)』


 風の刃が降り注ぐがネーデとアズラットはその攻撃を感知できる。

 なのでいくら攻撃されても危険はない。

 もちろんずっと攻撃が続けばいずれ体力を失い攻撃が当たることになるだろう。

 だが今ではネーデの体力は結構なものとなっており、<身体強化>もあって長期の活動ができる。

 下手にグリフォンが風の攻撃に拘ったのならば恐らくは耐久戦になるだろう。

 グリフォンの使う風の攻撃も無制限に幾らでも扱えると言うわけではない。

 スキルは一応これといって使用限界がある……とは言われていないし実感もしていない。

 だが限度というものは存在する。

 例えば<防御>ならば継続使用の時間制限があるし、極短い期間の連続使用もできない。

 一日に何度も無制限無限に使用できると言うわけではない。

 それはグリフォンの持つ風を操るスキルも同様である。

 もちろん制限のないタイプのスキル、アズラットの<念話>やネーデの<剣術>などもある。

 制限とは別に<圧縮>のような常時使い続けられるスキルも存在する。

 だがグリフォンの持つ風のスキルは限界のあるスキルであるようだ。

 それゆえにグリフォンは風の攻撃を見切られ当たらないということに気づき、攻撃手段を変える。


『(動きがっネーデッ!)』

「えっ」


 グリフォンの飛行速度はそれなりに速い。

 ネーデが全力で逃げても追いつかれるほどには。

 そして止まっているネーデに向け飛来するグリフォン。

 その質量と速度の攻撃は当然強力である。

 ネーデに向けグリフォンの攻撃が振るわれる。

 単なるその前足で一撃を加えるだけの単純な攻撃。

 当然ネーデには<防御>のスキルによる防御効果がある。

 結構な速度と質量で振るわれる攻撃でもかなり緩和されるはず。

 だがその攻撃は容易くネーデの防御を突破し、その肉体に直撃する。

 <身体強化>とそれなりの装備の助けに<防御>の防御効果の恩恵もあって直撃でもかなり威力は緩和された。

 しかしそれでも体がぐしゃりと潰されるような感覚を受けるほど一撃をネーデは受ける。


『(ネーデッ!!!)』

「…………ぅ」


 まだ生きてはいる。致命傷でこそないが、重傷でありそのまま放っておけば死にかねないだろう。


(救命措置とか……いや、無理、スキル)『(ネーデッ! 治癒のスキルを覚えろ! 自分の治癒を行うスキルをっ!)』

「………………」


 ネーデからの返事はない。流石に今のネーデに返事をするだけの余裕はないだろう。

 意識を保ち生きてはいる状態であるためスキルを覚えられる可能性はある。

 しかし覚えてもそのレベルは一。

 少なくとも僅かな時間で復帰できるほどの回復を行うのはまず不可能。

 しかし覚えさえすれば時間をかけての治療は可能だ。

 問題があるとすれば脅威が残っていること。


『(この野郎…………うちの子に何やってくれてんだあっ!!)』


 アズラットの念話はグリフォンに届けようと思って言ったものではない。

 どちらかと言えば届ける相手を選ばない無差別な思考の発露といった所だろう。


「……………………」


 その言葉はネーデにも聞こえているがアズラットは気付いていない。

 さて、一応グリフォンにもその言葉は届いている。

 意味は分からないが、そこに存在する意思は感じることだろう。

 敵意、怒気、そういったものをグリフォンは<念話>を行った相手から感じている。

 それはつまりアズラットからそういったものを感じていると言うことである。


「ッ!」


 威嚇、もしくは敵対を示すグリフォンの鳴き声。

 それをアズラットは感じながら、<跳躍>で跳びかかった。

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