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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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062 戦車級の脅威

「キュッ!」

「ひゃっ!?」


 樹の上にある高い枝。迷宮の天井の光を覆い隠す樹々の高い所にある枝葉。

 その枝からひゅんとネーデに向けて栗鼠らしき魔物が降ってくる。

 動物の栗鼠かどうか、見た目だけで言えば迷う所であるがそれは本当に魔物である。

 なぜならそれは尻尾の根元から糸を出しておりそれを枝に引っかけて下を進む者を襲うのだから。


『(ネーデ……油断するな)』

「は、はいぃ…………」


 特にそれほど危害を加えられるわけではないがアズラットはその栗鼠を捕まえ喰らう。

 魔物であっても脅威度としては楽に倒せるスライムよりちょっと強いくらい。

 そして大した経験値にも食事にもならないだろう。ネーデの食物としては悪くないかもしれない。


『(ちゃんと<振動感知>を使え。<危機感知>との併用をすれば守りは盤石だぞ?)』

「わ、わかってる!」

『(わかってないから栗鼠に襲われて驚いてたんだろ……)』


 ネーデの持つ<振動感知>はアズラット程の有用さはない。

 しかし、レベルをあげればかなり使えるはずだ。

 しかしネーデはあまり積極的に使おうとはしない。ネーデとしてうまく扱えないからだ。

 その結果<危機感知>に頼っている。だが<危機感知>は直接的な危機を感知するが栗鼠に反応しない。

 栗鼠はネーデに危害を加える目的で襲ってきているわけではないからだ。

 ちょっとした悪戯程度の攻撃。

 それは命の危機、死の危険、ネーデにとっての危機にはつながらない。

 それゆえに<危機感知>で感知できない。

 これが命の危機、怪我の危機があれば話は違ってくるが。

 だが<振動感知>を使っていればその動きを探知できるはずだ。

 ゆえにアズラットは<振動感知>を使えと言っているのである。ネーデの怠慢なのだから。


「……あ、低い所にも枝があるんだ」

『(みたいだな……枝じゃないが)』

「え?」

『(斬りおとして……いや、斬りおとせるかな? ちょっと俺が倒しておく)』


 そう言ってアズラットはネーデの頭から跳躍して枝に取り付く。

 その途端枝は急にグネグネと動き始めた。


「ええっ!?」


 枝は足を延ばし、自分に取り付いたアズラットを取り払おうとする。

 しかしアズラットがその程度で離れるわけはなく……そのまま体を真っ二つに折られる。

 それでも生命力が高いのかまだ生きている。


『(擬態していたナナフシの魔物みたいだな。迂闊に近づくと危なかった……かもな)』

「こんな魔物もいるんだ……」

『(……振動感知でかなり感知しにくい魔物だ。<危機感知>ならまだ感知できるかもしれないが、注意は必須だな。まあ高い所にある枝はともかく低い所にある枝は近づかず避ける方向性で)』

「わかった」


 魔物の危険はどこにでもある。折角有用なスキルがあるのだから活用していくべきだろう。

 これから先の階層はそれこそナナフシのような擬態する魔物、栗鼠のような急襲する魔物もいるだろう。

 それらの魔物に対応するだけの能力を育てていかなければいつ死ぬことになるか。

 ただでさえネーデは一人なのだから。アズラットがいてもたった二人、注意は必要である。


(……しかし、魔物が多いな。そこらじゅう魔物ばかり。流石に森の階層だけはある。森が広いからか、樹々が多いからか……俺の振動感知もあまり遠くまで把握は出来ないな。厄介なことに)


 アズラットはそこら中から魔物の気配を感じている。

 先ほどのナナフシのような魔物が恐らくは高所にもいるだろうと言うこと。

 枝の上を移動する栗鼠も数が多い。

 ひらひらと空を飛ぶ多くの花を背負う蝶。

 蠢く樹……その中にいる何か。

 幾らか遠目にいる巨大な蟻に蟷螂。

 他にも様々な魔物がいると見ていいだろう。


(……注意を払わないといけないな。ネーデにまかせっきりだと危ない。俺もすぐに動けるようにしておかないと)






 迷宮内部に時折大きな音と共に何かを砕くような音、樹が倒れるような音がする。

 それなりに遠方から鳴り響くその音が何であるか、ネーデとアズラットにはわからない。

 しかし推測するのは容易だ。この場所にいる魔物、その中に樹々を倒す魔物がいると言うこと。

 もしくはアズラットの感じた樹の中にいる何かの存在だろう。

 まあ、倒した原因が外からでも中からでも脅威であることには変わりない。

 そしてわかりやすい脅威は目の前でネーデに襲い掛かっていた。


「はあっ!」

「グオオッ!」


 巨大な熊。その様相は以前攻略した階層の四階層でも見た存在である。

 だが似通ってはいるもののこの階層の熊は四階層にいるものよりも若干巨大化している。

 ゴブリンや大蝙蝠などがそうであったように、同じ魔物でも進んだ階層にいる魔物は若干強くなっている。

 その強化の方向性は様々であるが、強くなっていると言うのは純然たる事実であるだろう。


「やあああっ!」

「グガアッ!」


 とはいえ、今のネーデであれば四階層に出現した魔物を少し強化した程度でどうにかなるものではない。

 魔物としては確かに強いのかもしれないが、ネーデもまた強い。

 もはや苦戦することもない。それだけこれまでの階層で苦労してきたのだから。


(これくらいならなんとでもなるんだが…………ん?)


 巨大熊と戦うネーデをアズラットが心配することはない。

 心配があるとすれば他の魔物が襲ってこないか。

 なのでそちら、周囲に向けていくらか何か来ないかと気を払っていたのだが。

 そんな中、何かの動き……というよりは、近づいてくる何かの音と、その何かの破壊音。

 樹をばかばかと破壊しながら倒し近づいてくる存在を感知したのである。


『(ネーデッ! 何か来るぞっ!)』

「え?」


 ネーデの<危機感知>に反応しないと言うことはネーデを襲う危険ではないのだろう。

 しかしアズラットに注意され、<振動感知>を使って確認する。そうするとはっきりとわかる。

 今戦っている巨大熊とは別の何かの振動……それも巨大熊よりはるかにやばそうな音を立てる相手が近づいてくる。


「グウウ……」

『(っ! 逃げ……いや、えっと、後ろに下がりながら、右後ろのでかい樹あたりに隠れるぞ!)』

「ええっ!? で、でも……ううん、わかった!」


 流石にネーデも今自分たちに近づく脅威を把握している。大人しくアズラットの言うことに従う。

 しかしそうなると目の前の巨大熊はどうなってしまうのかと疑問に思うことだろう。

 巨大熊は何か怯えているような戸惑っているような様子でネーデの動きを観察している。

 ネーデが<振動感知>で感じたように巨大熊も感知しているのである。

 巨大熊もそのようなスキルがあるのか……いや、スキルなどもう関係がない。

 何故ならばその音はもう巨大熊も聞こえるほど近くに来てしまっているのだから。


「ッ! グオオオオッ!」


 その音がする方向と反対方向に巨大熊が逃げ始める。

 もしネーデと戦っていなければまだ気づくだけの余裕が巨大熊にはあっただろう。

 しかしネーデに意識を割いていたためか気づくのが遅れ逃げるのが遅れた。

 その結果はすぐに巨大熊にはわかってしまう。物理的な結果として。


「……っ!!!」

(…………何だよあれ)


 樹々を破壊し折り倒しながら現れたそれはアズラットの知識にある近代戦車ほどの大きさはあるカブトムシ。

 それが飛行しながら巨大熊へと近づいてきたのである。

 そして巨大熊は哀れにも、その巨体に轢かれ肉片へと変わる。


『(……ネーデ、一度前の階層に戻るぞ)』

「…………わかった」


 ネーデが小声でアズラットに答える。

 流石にネーデも目の前の相手の脅威ははっきりとわかっている。

 巨大熊を肉片に変えたカブトムシはその肉片を食らっている。

 カブトムシなのに餌は生肉でいいのだろうか。

 そういう疑問がその光景を見ているアズラットに生まれる。

 もっともカブトムシも魔物である。気にしたところで仕方がない。

 そうして二人は大人しく八階層へと戻ったのである。


『(……ふう)』

「は……はあー……怖かった」

『(あれはやばいな……)』


 巨大カブトムシはとても危険である。今のネーデでも……アズラットでも倒せるかはわからない。

 しかし、九階層を攻略しなければならない。先へと進まなければならない。

 本来それをする必然性はお互いにないだろう。

 しかし、彼らは既に最初の目的から大きく目的が変わっている。

 先へと進む、奥へと進む、迷宮の最奥へと。強さを求めて彼らは向かう。


『(ひとまず、死なない程度に九階層の情報収集をするぞ。また入って調査だ)』

「…………はい」

『(まあ、今はこっちで一旦休もうか。無理に急ぐ必要はないしな)』

「そうだね……」


 二人はまた九階層へと向かうため、今は八階層で休息をとることにした。

 休み、体力が回復すれば彼らはまた九階層へと向かうことだろう。

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