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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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006 大きくなった体と小さな穴

(むおっ!?)


 いつも通りアズラットはスライム穴からスライム穴へと移動しつつ、場所を変えて死体漁りをする。

 食事の傾向として、待ちのスタイルであるスライム穴に寄って来る虫の捕食は効率が悪い。

 少々危険度は高いものの、迷宮内を移動して人間に殺された魔物の死体を探す方がレベルの上りがいい。

 もちろん、危険には細心の注意を払う。

 できるだけ何もいないとき、何も近づいてきていないときを狙う。

 一応大鼠や大蝙蝠はあまり危険度が高くないので安全そうならばそれらがいても移動する。

 その道中でずりずりと体が這う所に存在する屑の食料を掃除しつつ、移動している。

 そんな生活を続けて、今も食事を行った後、スライム穴へと戻ろうとした。

 いつも通りのその行動に、今回は少しの異変が起きたのである。


(ひ、引っかかった?)


 一瞬だが、スライム穴に体が、核が引っかかったのである。

 スライムの体は変幻自在。

 完全に無形であるわけではないが、基本的には不定形でいくらでも変化できる。

 だが、その変化を行うことのできる部分はジェル、液状の部分。液体ではなく液状の部分。

 スライムの核とその周りを覆う液状部分、その二つの構成のうち、核はほぼ変化ができない。

 もちろん、核も幾らか動かせるものの、核の大きさや形の変化はほぼできない。

 全くできないとは言わないが、他の液状部分と比べると変化していてもわからない程度の変化になるだろう。

 もっとも、変化しない球状だったのなら引っかかった場合通るには削れなければ入れない。

 そういう意味では変形していると考えるべきだろう。

 でなければ弱点が削れて怖いことになる。


(……そういえば、いつの間にか体が大きくなってたような)


 同じ食事をするスライムたちと比べると、自分が若干大きくなったようには感じていた。

 もっともアズラットは気のせいか何かかと思っていた。

 いまいち差があるようには感じなかったので。

 だが、実際に大きくなっていたようだ。

 そして、それはスライム穴に引っかかる程となっている。


(ど、どうしよう?)


 これ以上大きくなると困り事だ。

 少し引っかかる程度ならばまだ通ることができるのだろう。

 だが、もし引っかかる程度ですまなくなったのならば?

 もし、本当に通れなくなるほどになったのならば?

 スライム穴に入れなくなった場合、迷宮内の通路を生活圏としなければならない。

 そこは大蝙蝠に大鼠、そして人間の通る危険地帯。

 スライムは足が遅い。這って移動するその速度は鈍い。

 死の危険が近づく。外に残ってはいけない。ではそれはどうすればいいのだろう?

 アズラットの思考では答えを得られない。だが、こういう時に頼りになる相手がいる。


(アノーゼ! アノーゼさん!)

『はい! アズさん! なんでしょう!』


 アズラットの必死の叫びに即アノーゼが応える。

 この天使は仕事をしていなくていいのか、と思う所である。

 一応アノーゼがアズラットとアナウンスのスキルで会話している時も彼女は仕事をしているので問題ない。

 世界中のあらゆるスキルに関与する神格の立場であるのだからいつでもどこでも仕事ができる。


『えっと、体が大きくなっているみたいなんだけど、どうすればいい!?』

『…………ああ、スライムは食べれば食べるほど体が大きくなりますからね。レベルがその指標になるのですが……そうですか、穴に引っかかる大きさになってしまったのですね。もしかして、体が外にはみ出たりはしませんか?』

『……どうだろう?』


 アズラットは外の確認のために視界を向けることがあっても、自分の体がどうなっているかを意識することはない。

 ゆえに現状で自分の体がどうなっているかは確認できていない。

 アノーゼの質問にアズラットが少し意識を向けて構造確認とともに自分の体の状況を把握する。

 安心していいことに、体は外の穴の外に出てはいなかった。


『体は大丈夫みたいだ。ただ、入る時にちょっと引っかかったんだよな……』

『それは……多分核の大きさが引っかかったんですね。スライムの体が増えるとその分核も大きくなります。大きくなればなるほど核も大きくなり、核の弱点としての性質も強まります。その分核もある程度耐久力を持つようにはなりますし、ある程度の傷ならばまだ耐えられるようにもなりますが……やはり危険性は高いですね』

『そういうものなのか』


 改めて新しいスライムの特徴を知ったアズラット。

 外部から得られる知識と、本人が得られる経験はまた別物だ。

 どうしてもそういった生態的なものはアノーゼの持つスライムに関しての知識に頼らなければならない。


『じゃあ、どうすればいい?』

『そういう時こそ、スキルの出番ですよ』

『スキル……?』

『はい! そうですね、おすすめは……<圧縮>のスキルです。体を圧縮して、もともとのスライムの大きさを維持できます』

『確かに今の……もともと一番最初の時の大きさが行動しやすいけど、そこまでおすすめなのか?』


 初期状態、というのは生物的に基本である。

 成長したほうが色々と便利になることは多いが、一番何もない状態というのも悪いものではない。


『そうですね……まず、圧縮すると密度が上がります。大きさはそのままですが、食べれば食べるほど体は大きくなります。もちろんそれに合わせて圧縮のスキルのレベルが上がる必要性がありますが、ずっと使っていることになるのならばすぐに必要な分は上がるでしょう。密度が上がると防御力が上がる……まあ、それはわかりますよね?』

『そりゃ、まあ。中身が詰まっている方が固いのは当然だしな』


 密度が上がればその分防御力が上がる。

 スライムと言う存在にとってはそれは大きな事項であるだろう。


『あと、スライムは進化すると大きくなります。その状態でも、一番最初のスライムの時の大きさを維持できれば、強い方のスライムであるとバレない、弱いならば倒す必要性はないと見逃される可能性がある……とかですね。他にも、圧縮している状態を解除することで、圧縮した体が弾けるように広がって圧力を生み出すとか、相応に色々と利点があります』

『攻撃手段にもなるか。確かに……』

『……もっとも、私はアズさんのようにスライムの体をしているわけではないので、そこまで極端に利点が分かるわけではありません。必要なら、アズさんがスキルを獲得して試してみたらどうですか? どのみち何かスキルを得ないと大きさはどんどん大きくなります。そのままだと穴に入れずに不安になるのでは?』

『む……そうだな』


 スキルの良し悪しばかりを訊ねた所で結局の所どう判断するかはアズラットにゆだねられる。

 そしてアノーゼも助言するのは構わないにしても、自信があまりにもアズラットの方向性を決めるのはよくない、とアズラットに任せることにした。


『じゃあ、スキルを獲得する…………』

『どうしました?』

『スキルの獲得ってどうやればいいんだ?』


 アズラットの持っているスキルは<アナウンス>とステータス>である。

 この二つはアズラットが自主的に獲得したスキルではない。

 アノーゼの誘導で得られたスキルであり、アズラット自身はスキルの獲得にあまり関与していないのである。

 ゆえにどうやってスキルを得ればいいのかがわからない。


『欲しいスキル、その内容を考え、想像し、そのスキルが欲しいと願って下さい……』

『ん、わかった』(圧縮のスキルが欲しい…………)


 アズラットが心の中で願うと、機械的な音声がアズラットの思考に届く。


<スキル:圧縮を取得しますか?>


(…………どう答えればいい?)

『普通に取得することを肯定すればいいだけです』

『うし』(取得する)


<スキル:圧縮を取得しました>


 その音声と共に、アズラットの中になんとなく、スキルに関する知識が入り込む。


(んー…………こんな感じか?)


 アズラットがスキルの感覚に従い、自分の体を圧縮する。

 そうして圧縮したのち、構造を把握できる視界で自分の体の様子を見る。

 先ほど見た時よりも自分の体が縮んでいた。


(よしっ!)


 ちゃんとアズラットは<圧縮>を獲得でき、そしてそれを使用することができたようだ。

 これでひとまず安心である。

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