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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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058 植物迷路

 一から三階層は遺跡のような構造。

 四階層は洞窟のような構造。

 五階層は崖と橋。

 六階層と七階層は川と水路の水場が主体となっている。

 さて、八階層はどうだろうか?


「……せまい」

『(そこまで狭いと言うほどでもないが……確かにこれまでよりは狭いな)』


 七階層で川を渡り向こう岸を進み、ようやく洞穴から出たネーデとアズラット。

 それまでの狭い構造の迷宮ではなく、階層の境界を越えた向こう側はとても広い空間だった。

 しかし、それはあくまで全体としての空間であり、ネーデとアズラットのいる地上は違う。


(……天井はあるが、上部がそれなりに広い。しかし横は比較的狭く感じるのは……この植物のせいだな)


 植物。境界を越え入って来てすぐ、横に植物の壁が見えている。

 道の先には同じような植物の壁があり、左右への道が伸びている。

 上部が空き、そのせいもあってアズラットの振動感知でいくらかの構造の把握ができる。

 その結果アズラットはおおよそこの階層の構造を理解した。


(これは……六階層に近いんだな。迷路、植物で作られた迷路か。よく創作で見る作られた植物で囲まれている庭園の迷路みたいな感じなんだろうな。問題はここが迷宮であること。つまり魔物がいること。それに上が空いていると言うのも厄介か……上に魔物がいるしな)


 植物で構成された迷路。それが八階層の構造である。

 性質としては六階層に近いが条件としては一から三階層の遺跡構造に近い。

 一般的な迷宮的な構造である遺跡構造も実質的には迷路のようなものである。

 六階層では先が見えるが水路を渡れない構造である。

 八階層は先が見えず植物を抜けることもできない。

 いや、実際に植物を抜けられるかどうかに関しては試していないので不明であるのだが。


(……流石にそれは考慮していると思う。リスクの方が高そうだな)


 植物をかき分ける、破壊する、焼き尽くす。

 そういった迷路を無理やり抜けることは想定されていると考えられる。

 なので流石にそれをすることはアズラットは考えなかった。

 一応上を越えようとした場合、無理やり突き抜けようとした場合のことを調べておきたいとは思っているが。


『(とりあえず先に進むか。狭いと言っても俺やネーデにはあまり関係ないしな)』

「それは……たしかに」


 ネーデは狭いと呟いたが、実際にはそこまで狭いと言うほどでもない。

 今までが広かったので相対的に狭く感じると言うだけであり、人が二人並んで戦える広さはある。

 とは言っても三人が並んで戦うのは無理というくらいの広さであるのでやはり狭いと感じてもおかしな話ではない。

 これまでがそれなりに広かったせいもあるだろう。


「じゃあ、先に進んでみるね」

『(……しっかり注意して進めよ? <振動感知>と<危機感知>があると言っても油断は大敵だからな)』

「わかってる」


 ネーデの<振動感知>はまだ成長過程であり、ネーデ自身それを使い続けるのもなかなか厳しい。

 そして<危機感知>は確かにネーデを襲う危険を知らせるが、危険が存在して初めて感知できる。

 なのでそれらのスキルを持っているからと言っても絶対の安全性はない。

 アズラットはそれを注意している。


(まあ、危ないときはこちらから教えるのもいいし、俺が守ってもいいんだけどな)


 もっとも、ネーデがそこまで把握できていなくともアズラットは違う。

 遠すぎると無理だが近い場所ならばアズラットの振動感知により敵の存在はすぐに把握できる。

 なので実際にはそこまで危機的な危険というのはなかったりする。

 それでも世の中に完璧完全はない。

 なのでアズラットは常にネーデに注意するように言うのである。






「くうっ!」

「ウォン!」

「ワウッ!」


 前衛に狼の顔を持つ獣人が二体。

 獣人とは言うが、狼男というにはどこか貧弱な肉体をしている。

 俗にいうコボルトという存在である。

 ワーウルフまたはライカンスロープと呼ばれるような存在ではない。

 それが二体、前衛として剣を持ってネーデに襲い掛かっている。

 その攻撃をネーデが対処し、コボルトたちに反撃を加えようとするとコボルトたちの後ろから槍が突き出てきた。


「っ!」


 <危機感知>でその存在を把握し、ネーデは後ろに下がり避ける。

 追撃を加える所だったのに邪魔をされて少しイラッとするが敵に文句を言っても仕方がない。

 コボルトは四体。二体が剣を持つ前衛で二体が槍を持つ後衛、前の二体を補助する役割の様だ。

 迷宮の構造として人間が二人で並んで戦えるが三人では戦えない。

 それは人間以外にもそうであるということだ。

 そのためコボルトは四体一組、剣を持つ二体と槍を持つ二体になっている。


「ウォウッ!」

「バウッ!」

「ああもう!」


 二対一。ネーデも実力はそれなりについているが、周りの狭さもあり自由な戦いは出来ず二体相手も面倒。

 そのうえ攻撃しようとすると後ろから槍が突き出してさらに面倒になっている。

 アズラットもそうだが、ネーデもスキルをいくらも取得しているが攻撃性能の高いスキルはない。

 <剣術>、<危機感知>、<身体強化>、<跳躍>、<振動感知>。便利なスキルではあるだろう。

 しかし、それ自体が攻撃に多大な寄与をしていると言うわけではない。

 戦闘能力は上がっても、結局は通常の戦い以上のことはできないものとなっている。

 それ自体は問題ではない。それほどまでに強い相手が出てこないこと、普通に戦う相手が主体なのだから。


「はああっ!」

「ギャッ!」


 襲ってきた相手の一体がネーデの一撃を喰らう。致命傷という程ではないが、しかし重症である。

 戦闘への復帰は不可能……そもそもコボルトたちも連れて帰るのは難しいだろう。

 恐らくは捨て置かれることになる可能性が高い。そして、残り三体。

 四対一の段階でコボルトたちはネーデに有効な攻撃ができていなかった。

 その状態から戦闘できる存在が一体減ってしまえば不利になるのは明白である。

 残った三体をネーデは一体ずつ時間をかけて的確に攻撃し減らし、倒しきった。


「ふう……」

『(やりにくい相手だな)』

「そうだね」


 数の問題もあるが、壁のように立ち塞がりその後ろから槍でついてくるのが中々に面倒である。

 前衛の隙間を縫うような形であるのでそこまでの危険はないが、やはり戦術を持つ人型魔物は強い。


「ん……ふわぁ…………」


 あー、と少し大きめに口を開けてネーデはあくびをする。


『(疲れたか? まあ、六階層から続けて七階層、真っ直ぐとは言えずっと何度も戦ってきたしなあ……)』


 六階層から七階層へと移動するのはともかく、七階層ではネーデはかなりの頻度で戦っていた。

 途中で休憩を挟んだとはいえ、あくまで一時的な休息でしかない。

 そして六階層から八階層へと移動するのにどれほどの時間がかかるのか。

 そろそろ寝なければならない、そんな時間になってもおかしな話ではないだろう。


「まだ大丈夫です……」

『(だけど疲れているのは事実だろ? 眠るかどうかはともかく……休める場所に移動しないとだめだな。案内するからそこに行ってくれ)』

「はい」


 アズラットはネーデに指示を出し、八階層の迷路を移動する。

 迷路のような八階層の構造は当然ながら行き止まりという場所が存在する。

 そしてその行き止まりも横道に近い見えている行き止まりが存在する。

 通常そういう場所にはネーデのような休む目的でなければわざわざ入ろうとはしないだろう。

 しかし、八階層では迷路を進む魔物、上空に存在する魔物の危険もあり七階層ほどの安全はない。

 なので八階層は素通りするか、もしくはもっと休みやすい場所で休む、他の冒険者と一緒に休むなどで安全を図る。

 そのためアズラットの案内した見える行き止まりの位置であれば、<隠蔽>を用いて休むのにはなかなか有用である。


「魔物は安全なの?」

『(一応<隠蔽>をかけるが、絶対に安全とは言えないな。だけどまあ、その時は俺がどうにかするつもりだから)』

「……お願いします」

『(お願いされておくよ。まあ、ゆっくりと休んでくれ)』


 ネーデはアズラットに休息中の守りを頼む。そうして簡単に布を敷いてそこで横になる。


「………………」


 七階層で一度休息をとったとはいえ、その程度で全ての疲労が回復するわけではない。

 六階層でもそうだが迷宮での休息はなかなか難しく、疲労が抜けきらない所もある。

 そのまま疲れのためか、ネーデは横になって休んだまま眠りについた。

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