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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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054 一休みの時間

「はあ…………ふう…………」


 ネーデが息を吐く。ふらりと体が揺れるくらいに動きが滅茶苦茶になっている。


『(大丈夫か?)』

「……大丈夫」

(大丈夫じゃないな、これは)


 傍から見れば明らかにネーデは疲労しているのが分かるだろう。

 それもそうだ。四階層から五階層を経由し、現在六階層。

 その間移動と戦いを繰り返している。

 時間の経過も結構なもの。疲労や眠気が溜まるのは当然だと言える。


(……そうだな。俺は睡眠欲求もないし、肉体の疲労もない。だけどネーデは普通の人間だからな)


 アズラットはスライムであるがゆえに一般的な生物の欲求はない。

 食欲性欲睡眠欲、肉体的な疲労や痛覚、味覚嗅覚触覚。視覚はなぜか存在する。

 何が存在するかはともかく、アズラットに生物的な疲労は存在しない。

 ただし意思が存在する以上精神的な疲労というものは存在する。


(睡眠に関しても、四階層からここまで続けてきている。体力もそうだが単純にそろそろ眠りにつくべきなのかもしれない。迷宮内部だと外と違って時間間隔がわからないからな……)


 迷宮では壁や天井が謎の明るさを持っているため、基本的に常に明るい。

 明るいとはいっても太陽の下、日の光が差している場所とは明るさの程度が違うが。

 ともかく、迷宮内は基本的に明るいわけである。

 その明るさは時間で変動することがなく、常に一定である。

 そのため迷宮の時間経過は個人の感覚に頼るしかない。

 もしかしたらこの世界でも時計のような道具が存在するかもしれないが、少なくともネーデは持たない。

 なのでどれほどの時間が経ったのかはわからない。


「……………………」

『(ネーデ? ふらついているけど大丈夫か?)』

「…………アズラットさん?」

(あー、これはダメだな……)


 アズラットの念話に対しネーデは反応できていない。

 少なくともこのまま進んでいていいわけがない。

 ネーデが倒れる……前に、不意打ちで襲ってきた魔物に殺されかねない。

 もちろんそうなりそうならアズラットが彼女を守るが、このままにしていいわけでもない。


(しかし……どうする? 四階層に戻る、にしてもまず無理だ。っていうかそれができるだろうと思ってたら四階層に色々と持ち物を置いてきた)


 ネーデは四階層から先へと進む際に持ち物を回収し持ってきている。

 つまりこの先で休むことを想定していると言うことだ。

 だがそもそも四階層のように休める場所があるとも限らない。

 一応迷宮の各所にはある程度の広さがあり、隠れやすい場所というのは存在している。

 しかしそこに魔物が来ないわけではない。迷宮で休む場合見張りを立てて休むのが基本だ。

 例外的な場所はあるが、そういった場所は極めて珍しいため冒険者は一般的にそうする。

 だがネーデの場合、ネーデとアズラットの二人のみ。

 まあ、アズラットは寝る必要がないので大丈夫だが。


(どこかに休める場所がないと危ないな…………)

『アズさん、アズさん』

(……)『アノーゼ? どうした?』


 六階層にネーデを休ませる場所があるかどうか。

 それを確認しながらどうするか考えているところにアノーゼからの<アナウンス>が届く。


『その子を休ませることに関してですが』

『うん』

『アズさんのスキルでどうにかできますよ?』

『なに?』


 アズラットの現在持つスキルは<アナウンス>、<ステータス>、<圧縮>、<跳躍>、<隠蔽>、<念話>、<契約>の七つ。

 その中からネーデを休ませるのに適切なスキルが何か。

 考えるまでもない。


『<隠蔽>? 確かに<隠蔽>なら……俺がネーデを覆い隠して<隠蔽>をすればいいのか』


 アズラットはネーデと契約をしている。お互い傷つけることができないと言う契約だ。

 その契約がある限り、仮にアズラットの内にネーデが取り込まれても消化は出来ない。

 まあ、その場合呼吸ができなくなるのでネーデはそのまま酸欠で死にかねないのだが。

 そういう意味では直接的な危害を加えることはできなくとも結果的に死に至らせれるというのは欠点かもしれない。


『いえ、そもそも<隠蔽>スキルは自分以外にも使えますけど』

『……えっ』


 アズラットの持つ<隠蔽>のスキルは自分自身のみを対象とするスキルではない。

 使おうと思えば他の対象に使うこともできる。ただ、アズラットがそのスキルを得た時は一人。

 また基本的に他の対象に使うような機会もなかったのでそれを実践する機会もなかった。

 そもそも、他者に見えなくする<隠蔽>はスキルを使用した本人には見えてしまう。

 アズラット自身の場合でも他者からの視点を確認したことはない。

 一度ネーデに見せたことがあるくらい。

 それ以外の実例をアズラット自身は確認していないので<隠蔽>に関しては不明な点が多い。

 全てがアノーゼから与えられる情報を頼りにするしかないのである。


『それマジ?』

『はい、本当ですよ。とはいっても、<隠蔽>のレベル次第であるんですが……』


 スキルにもレベルがあり、そのレベル次第ではできることが増えることがある。

 <隠蔽>は効果対象を増やせるなど、<跳躍>は派生スキルに繋がるなど色々である。


『ってことは、ネーデを<隠蔽>スキルで隠せばいいか……』

『一応注意しておきますが、見破られた場合はその限りではありませんからね? 基本的に人間相手には見破られる可能性は高いので、人間に見られてここにいると判断されれば隠蔽が解けると思います』

『……結構面倒くさい話だな』

『遠目だとある程度は効果があると思いますが……近くに来た場合、見破られるでしょう。できれば壁の影になる場所、隠れやすい場所。あとは完全に無防備なまま<隠蔽>を使うのではなく、毛布をかぶせて壁の色に近くするなどをするとある程度は効力が上がりますよ』

『そういうのもあるのか……まあ、俺が寝ないで<隠蔽>を使いながら注意をすればいいだけだからそこまでは心配してないが』


 アズラットはネーデと違って眠る必要性はない。

 つまりアズラットは常に見張りとして活動できる。

 もちろん精神的疲労はあるかもしれないが、そのあたりに関してはアズラットも慣れている。

 これまでずっと一人で活動し続け、スライム穴で休むこともあれども眠らず起き続けて色々としてきたのだ。

 精神的な疲労を自然に回復する方法、疲労をある程度軽減する方法、そもそも疲労しないようにする方法など。


『まあ、大丈夫ならいいです……何かありそうならこちらから<アナウンス>してもいいですし』

『それ大丈夫なのか?』

『<アナウンス>くらいなら。そもそも<アナウンス>自体が駄目ならばこういう会話も不可能ですよ? 問題がある行為は私の権限で無茶できることに関してですので。主にスキル関連とか、アズさんの進化に関してとか。前にもした暴走進化とかああいうレベルでなければこちらに実害はありません』

『そうか、ならいいんだ』


 アズラット自身アノーゼに迷惑をかけることはあまり望ましいことではない。

 なのでアノーゼが罰を受けるようなら止めさせていた。しかし、そういうことはないようだ。

 まあ今までのアノーゼの行動からして問題になるなら既に<アナウンス>が途切れているだろう。


『じゃ、これで<アナウンス>は切るぞ』

『はい。頑張って下さい……七、八はそれほどではありませんが、九は大変だと思うので頑張ってください、本当に』


 最後に少し不穏な予言のような注意を残し、<アナウンス>は途切れた。


(……嫌な言葉を残していくなあ。まあ、役に立たないわけではないんだろうが。九……九階層? 大変というのはどういう意味で? まあ、行ってみないと分からないな。それよりも今はネーデか)『(ネーデ!)』

「…………」


 ふらふらとアズラットに応えることもなく、瞬きも少し増え、眠そうにしているネーデ。

 本格的に疲労と睡眠欲求がやばいことになっているようである。


(……急ぐか)『(ネーデ! 道案内するからそこまで移動しろ! 何か襲ってくるのはこちらで対処をするからできるだけ急いで移動な!)』

「……わか」


 わかった、と小さく、呟くようにネーデは返事をする。もはや目は半分閉じている。

 アズラットがネーデのフラフラとした動きを心配しつつ、道中に飛んでくる魚などに対処する。

 不安は大きかったものの、なんとかネーデは言われた場所にたどり着く。

 水路の中には道がこれ以上先存在しない、行き止まりになる場所が存在する。

 その上壁寄りの場所。そこで壁に背を預け、アズラットは<隠蔽>のスキルでネーデを隠す。


「……すー」

(ふう……さて、あとは今後も<隠蔽>の効果でネーデを隠し続けないと。魔物も気付く危険はあるし注意しないとな……こういう弊害もあるか。仕方ないとはいえ、今度からはちゃんと休むことも考慮に入れておかないといけないな……)


 基本的にアズラットは個人での行動が主であったのであまり他の仲間がいることを考慮できていなかった。

 今後はネーデもいるのでその点に関してより注意しなければならないだろう。

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